63 便乗編集部

63 便乗編集部



『BOOZ』編集部には、

田ノ倉さんが実際にロケ地となった場所のリストを、残してくれた。

『SLOW』ファンの細木さんも、興味深そうにのぞいてくる。


「この『総合公園』っていうのは何?」

「はい、『総合公園』は、地元の林業に広い理解をしてもらいたいと、
地元の木を使って作った、簡単なアスレチックがある場所なんです。
山からの自然の湧き水を使って、水遊びの出来るところもあって、
子供たちやペットを連れた人たちが、よく来るんですよ。
ほら、なんでしたっけ、イオン?……」

「ほぉ……」



『SLOW』

兄だと思っていた人が、実は他人だったことを知り、思い悩む女性が主人公の漫画。



血のつながらない兄妹の思い出の場所になるロケ地は、歴史ある古い寺だった。

その住職の長男は、私と中学が一緒で、今は地域の消防団にも入っている。

これで少しは、お参りする人も増えるだろうか。


「へぇ、この住職さんも知っているんだ和ちゃん」

「はい、長男は中学の同級生で、おじさんはずっとPTAの会長でした。
色々とロケに協力してくれるように、会ったら話しておきます」

「そうか、そうか、飯島さんは素晴らしい!」


せっかく細木さんと盛り上がりそうだったのに、

編集長の浮いたような声で、妙な空気だけが漂ってくる。


「……なんですか編集長、その言い方。わざとらしいですけど」

「いやいや、本当にうちの新人は素晴らしい」


菅沢さんまで浮いたセリフを言い出すということは、絶対に何かがある。

しかも強烈な何かになりそうで、嫌な予感がするんですけど。


「増渕に話を振っておいてよかった、よかった。これはラッキーだな」

「はい」


菅沢さんは大きな地図を広げ、小さな丸をつけ始めた。

それは『SLOW』がロケ地としている場所から、

少しずれているものの、移動距離は少なく済みそうな国道沿いの建物になる。


「何ですか、この丸印」

「この3つの工場は、ちょっと特別な商品を作っているんだ。
女装用のコスプレ衣装や、等身大女性の抱き枕とか……
まぁ、通販雑誌の裏表紙とか、最後の数ページとかを飾っているものだけどね」

「そんな工場、ありましたっけ?」

「あるんだよ、知っている人は知っている通りなんだ。
『夢尾花』先生にしてみたら、聖地だな」


驚いた。何度も車で通ったこともあったし、工場が建っている事も知っているが、

まさかそういったものを作っている会社だとは、聞いたこともない。


「経費節減ですね」

「そうだ、一人分の経費で2人が送り込める。一気に取材も出来るし、
一石二鳥、いやいや一石五鳥くらいかもしれないぞ」


『SOFT』が、私を連れて行くという判断をしたおかげで、

『BOOZ』は、細木さんが『SLOW』のロケ隊に参加することとなる。

私は、あらためて編集長からの承諾書を持ち、『SOFT』編集部へ向かった。





「すみません田ノ倉さん、なんだかおかしなことになりそうで」

「いえ、飯島さんに部をを超えたお願いをしているのは『SOFT』ですから。
それに『BOOZ』がどう仕事をからめてこようと、
こちらが文句をいう筋ではありません」


以前、東原さんたちが食中毒になったとき、

私が座らせてもらった場所には、実玖さんが座っている。

本当に田ノ倉さんにピッタリついて、仕事をしているんだな。


「このロケ地が、飯島さんの故郷だと知って、
同行してもらった方がいいと言ったのは、実玖なんです」

「実玖さんが?」

「はい。あいつも自分が会社に入って、初めての作品なので、緊張もあるのでしょう。
周りを囲むのが年上ばかりなので、
あなたのような同年代と話ができたら、気も楽になるでしょうから」


実玖さんは、配給会社の広報担当として、このロケに参加が決定していた。

あらためてそう聞いて、実玖さんに頭を下げる。

軽く返礼をしてくれたけれど、視線はずっと同じ場所を見たままだ。


「また、電話します」

「はい」


もっと色々と話したかったけれど、あえてこの場所で話す必要はないと、

田ノ倉さんも思ったのだろう。

私たちは、時間さえ合わせられたら、いつでも互いを誘える間になったのだから。





あの屋上で、会った日から近付いた距離は……

互いの息づかいを聞ける距離まで……





ダメ、ダメ和。今は仕事中です。

少しほっぺたを叩いて、表情の修正をしないと、また指摘されちゃう。

何かこう、ビシッと出来るようなことが……



……あ、前からやってきた。




「あら飯島さん、暇なんですか? 本社ビルをウロウロして」


東原め! ウロウロって、今会ったばかりでしょうが。


「あ、そうそう『BOOZ』が『SLOW』のロケに便乗するそうですね」


……来た、来た。絶対に言い出すと思っていたけれど。

さぁ、こい。どんな言葉でも打ち返してやる。


「便乗だけではありませんよ。私は田ノ倉さんに、正式な依頼を受けましたので」

「あら、そうでしたか。まぁ、ご実家がとんでもなく田舎にあるというのは、
得することもあるんですね」



……ん?



「私なんて両親揃って世田谷の出身で、私も東京育ちなんです。
チーフと実玖さんのお役に立ちたかったのに、田舎を知らなくて残念だわ……」

「残念ですね、それは」

「えぇ……」

「田舎は、都会では味わえないような美味しい物がたくさんあるんですよ。
田ノ倉さんや実玖さんにも、ぜひぜひ紹介しないと……。
もしよろしかったらお土産に……あ!」


東原さんの横を通りすぎ、私は自信満々に振り返る。


「でも、素材があまりにも新鮮で、
東原さんがお腹でも壊すと困るので、やめておきますね」

「は?」

「食中毒! なんて、騒がれても迷惑ですし……」


やった、言い切った。こんな嫌味な女に負けるものか!

田舎生まれのどこが悪い。

日本の中心は確かに東京だけれど、それだけじゃ国なんて成り立たない。

私の地元には、たくさん誇れるものがある。

悔しそうな顔しちゃって。変な言いがかりをつけたのは、そちらですからね。



気分がいいまま『BOOZ』に戻ろう。

やることはたくさん、あるのだから……

楽しみだなぁ……田ノ倉さんと一緒の仕事。

何を食べて、何を紹介しようかしら。



64 広がるフアン


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