64 広がるフアン

64 広がるフアン



東原さんとの軽いバトルがあってから1週間後、

私と細木さんが『SLOW』のロケに参加する日がやってきた。


「これがあずさへのお土産、それにこれが敬へ」

「何をしているんだ敦美、和ちゃんは仕事で向こうへ帰るんだぞ。
実家に行く余裕なんてないだろうが」

「ううん、いいのおじさん。夜は時間もあるから、
私、実家に顔を出そうと思っていたし」


と言いながらも、本当は戻れるかどうかわからなかった。

それでも敦美おばさんの気持ちがありがたくて、断りにくくなる。

いざとなったら、ホテルから敬に連絡して、取りに来てもらおう。


「大きなものは避けたのよ、これなら……大丈夫?」

「うん、大丈夫。ありがとう、おばさん」


血はつながっていないけれど、本当に私にとっては大事なご夫婦だ。

それもこれも、父と母が作ってくれた財産。



「では行ってきます」


私は最低限の荷物と、おばさんのあったかい気持ちを手に持ち、

会社へ向かった。





「おはようございます」

「あれ? 飯島さん、今日は本社じゃないの?」

「はい、10時出発だそうです。なので、こちらへ先に……」


いつもの朝だと思っていた『BOOZ』編集部は、少し緊張感の漂う中にあった。

菅沢さんの手には書類が握られていて、編集長と顔をつき合わせている状況自体、

何かが起こったのかと、疑ってみたくなる。


「何かあったんですか? 二人が話しているなんて」

「さっさと本社へ行け。諒のそばにいないと置いていかれるぞ」

「行かれませんよ、ご心配なく!」


隠そうとした書類には、『花輪まりん』の文字が見えた。

花輪まりんは、この間私が取材したプロダクションの所属で、

初めてのサイン会があることを、記事にしたはずだけれど。


「『花輪まりん』の記事に、何か問題がありましたか」

「いいからさっさと行け。余計なことに首をつっこむな」


菅沢さんが強く言い切る時に、

あれこれ聞こうと思っても無理なことくらい私だって知っている。

とりあえず帰ってからまた聞けばいいと、郵便物だけチェックし、

本社ビルへ向かう。


「和ちゃん!」

「……細木さん、その格好」


細木さんは、すっかりハイキングにでも行くような、ラフな姿だった。

確かに田舎ですけれど、山登りするわけではないですが。


「いやぁ……途中で食べるお菓子を買っていたら、
第1リュックがパンパンになっちゃったよ。おすそ分けするからね」

「ありがとうございます」


『手をたたきましょう』のリズムに合わせて本社ビルへ行くと、

すでに実玖さんと田ノ倉さんが、地下の駐車場で待っていると連絡があった。

慌てて転びそうになる細木さんを支えながら、駐車場への階段を駆け下りる。


「おはようございます、すみません」

「いえ、集合時間にはまだ早いんです、そんなに慌てなくていいですよ」

「そうですよねぇ……おいおい、和ちゃんそんなに押さないでくれよ。
お菓子が割れちゃうから」


ロケ隊の車は、すでに出発したようだった。

私たちは田ノ倉さんの車に乗り、遅れて出発することになる。

田ノ倉さんがトランクを開き、細木さんと私が荷物を入れる。

実玖さんは軽く頭を下げてくれると、すぐに助手席へ座った。


「あ、いけない、いけない。和ちゃん、お菓子もみんな後ろへ詰めちゃったよ」

「いいですよ、次の休憩までは食べなくて」

「そう?」


私と細木さんは後部座席かぁ。

田ノ倉さんの横がいいけれど、この組み合わせなら、これが当然だよね。




「あ、田ノ倉さん、俺、途中で運転代わりますよ」




……ナイス! 細木さん!




「ありがとうございます。それでは休憩した後、お願いします」

「はい」


休憩! 休憩!

次の休憩地まで、レッツゴー!





田ノ倉さんの運転で、車は順調に走り出した。

特に目立った渋滞もなく、高速道路へ乗ると、さらにスピードが上がる。

あぁ……これが、田ノ倉さんと二人だけの旅行だったらな……

喜びも倍増なんだけど。


「ねぇ、和ちゃん、郁に何か聞かれた?」

「……何か? いえ、何も」

「あ、そうなんだ、じゃぁ、解決したのかな」


細木さんの言葉に、朝、編集長と顔をつき合わせていた菅沢さんの姿が蘇った。

やっぱり何かあったんだ。


「何があったんですか? 今朝、少しおかしかったんです。
編集長と二人でコソコソ話していて」


細木さんは、昨日の夕方、『花輪まりん』のファンと名乗る男性から、

プロフィール記事に間違いがあると、指摘する電話があったことを話してくれた。

彼女が好みの男性を答える問いかけに、

『年上で頼りがいのある男』とコメントしたことが、その男性の怒りをかったという。


「そのプロフィールは、私が書きました。でも……本人がそう……」

「うん、わかってる。そんなことはよくあることなんだよ、だから郁が説明した」

「はい……」

「なんだか、1ヶ月前に出ていた別雑誌では、
彼女『甘えてくれる年下がいい』って答えたらしくてね。
まぁ、ようは適当なんでしょう、その電話の男の子は19歳なんだと。
自分は彼女より年下だから、年上がいいと言われてしまうとショックだとか言って……」


すると、その男の子は、事務所側に連絡をし、

『花輪まりん』の家はわかっているから、直接聞きに行くと、

脅迫めいた電話をしてきたらしく……。


「まぁ、脅しだけだとは思うけれど、今日の横浜で行われるサイン会と
明日のお台場でのサイン会は、ちょっと警戒しないとならなくてさ。
郁も顔を出すみたいなんだ」


今のアイドルたちは、昔と違って、すぐそばに来てくれることが売りになっている。

でもその分、分別がつかなくなるファンがいると、それを防御するのが難しい。

距離を開けてしまうと、親近感がないし、あまりにも近付くと身の危険さえある。


「大丈夫でしょうか」

「大丈夫だよ、郁はそんなこと慣れているから」


車から見える景色が、都会から田舎へ向かう。

私の心の中に、形が見えない不安な気持ちが、少しずつ膨らんでいった。



65 気になる人


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コメント

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No title

“会いに行けるアイドル”が今風。
スターとファンの垣根が低くなって、ヒョイと飛び越えて、次の日にはファンだった子がアイドルに・・
なんてこともある。

『映画俳優の高倉健です』なんて名乗るのは今や健さんくらいでしょうね。


細木さんが運転なら、その時和は助手席なのでは?
残念!!!なドライブだと思うな~~~

幸せはね

yokanさん、こんばんは

>このまま二人が上手くいくとは思わないですわーー;
 菅沢さんもひっかかるし、実玖さんもひっかかるしね^^;

『?』が多くないと、おもしろくないでしょう。
どうだろう、どうだろうと考えながら、お付き合いください。

>私にとって幸せを感じるときとは・・・ふ~む、さて(。-_-。)

私は、毎日ベッドに入る時です。
横になると、すぐ寝ちゃうのです。

いいような、悪いような

yonyonさん、こんばんは

>“会いに行けるアイドル”が今風。

そう、身近なことを売りにするからね。
垣根が低くなったぶん、大変なことも多いかと。

>細木さんが運転なら、その時和は助手席なのでは?
 残念!!!なドライブだと思うな~~~

あはは……残念! かどうか、確かめてみて!