65 気になる人

65 気になる人



走り出して2時間が経ち、途中のパーキングエリアで昼食になる。

山々を見ていると、大きく深呼吸したくなるから不思議。

細木さんから事情を聞き、菅沢さんに状況がどうなのかメールをしたが、

全く返事は戻ってこない。


「返信くらい寄こしてくれたらいいのに」


こんな場所にいるのだから、何かあったからといって、

かけつけるわけにはいかないけれど、

それでも『大丈夫』だと言ってくれたら、心は落ち着ける。


「飯島さん」

「あ、すみません、すぐに行きます」


先に席を取ってくれた田ノ倉さんが、私を呼びにきてくれた。

携帯を閉じ、ポケットに押し込む。


「何か気になることでもあるのですか?」

「いえ、大丈夫です」


田ノ倉さんに心配をかけてしまうような気がして、私は『BOOZ』のことは語らなかった。

今日はあくまでも『SOFT』の仕事をしているのだから、

きちんと割り切らないと、それこそまた東原さんに『便乗』だと騒がれてしまう。

昼食では、細木さんが仕事での失敗談を楽しく語ってくれて、

少し緊張気味だった実玖さんにも笑顔が見えた。



よし、これなら……

細木さんが運転手で、助手席が実玖さん……





……で、いけると思ったのに。





細木さんは確かに運転席へ座ったが、実玖さんは私より先に後部座席へ座り、

組み合わせはまた変わらない。


「それじゃ、目的地までノンストップで行きます!」

「もう休憩なしですか?」


つい、口から出てしまった。

だって、さっきは私が後ろだったから、

運転する田ノ倉さんの横顔とか見ることが出来たけれど、

後ろに座られたら、何をしていても全くわからないし……

それだったら逆に、後ろの方が……




「大丈夫だよ和ちゃん、トイレなら早めに言って」




細木さん、そんなこと、体をこっちに寄せながら、小声で言わなくてもいいんです。

私はトイレのことを気にしているわけではないんですけど。





結局、組み合わせは最後まで変わらないまま、私たちはロケ隊に追いついた。

『SLOW』のロケは、子役達のシーンからスタートする。

久し振りに会った同級生は、本当にお寺の住職役として、画面を軽く横切るらしい。

バスケ部で目立ちたがり屋だったくせに、何緊張しているんだか。

長いセリフがある子役達は失敗無くこなしたのに、

通りすぎるだけのエキストラが、2回もNGを出した。

それにしても映画を作るのに、これだけの人が動くのかと、

その人の多さにばかり目がいってしまう。


「おかしいな……」


こちらへ来る時から何度も送っているメール。

菅沢さんからは何も返事がない。

その日の撮影は無事終了し、スタッフが宿泊するホテルでは、

軽い顔合わせが開かれた。私と細木さんも隅の方に参加し、

あらためて『SOFT』の大きさを目の当たりにする。


「細木さん、菅沢さんからメールありましたか?」

「いや、何か送ることある?」

「いえ、『花輪まりん』のこと、どうなったかなと思って」

「何も連絡がないんだから、何もないでしょう」


まぁ、細木さんの言うとおりかもしれない。

私は盛りあがる宴会場を出て、部屋へ荷物を取りに向かう。

ここからならタクシーで30分も走れば家へつくはずだ。

せっかく敦美おばさんがくれたお土産、家に持って行かないとね。

ロビーで頼めば、タクシーを呼んでもらえるはず。


「飯島さん」

「あ……田ノ倉さん」

「どうしたんですか? 気がついたら会場からいなくなっていたので、
もしかしたら体調でも悪くしたのかと」

「あぁ、すみません。そうじゃないんです」


そうだった。田ノ倉さんには抜け出すこと言わなくちゃいけなかった。

他の編集部から応援として来ている私に、気をつかってくれているのに、

悪いことをしてしまった。


「ご実家に?」

「はい、私が仕事で行くからと説明したんですけど、
家に戻ると思ってお土産を持たされたので……
でも、気持ちですから、届けてこようかなと」

「ここから……どれくらいで?」

「タクシーなら30分もあれば……」

「わかりました、僕が車を出します」

「いや……あの、でも……田ノ倉さん、運転は……」

「大丈夫です、お酒は飲んでいませんから。少しだけ待っていてくださいね」


そんなずうずしいことは結構ですと言おうとしたのに、

田ノ倉さんは車のカギを取りに行くと、エレベーターへ乗ってしまう。

私としてはもちろん、思いがけないドライブが出来て嬉しいですけど……




嬉しいんですけど。




「もしもし、お母さん? 和だけど。
あのね、今、仕事で『プリズムホテル』に来ているの。
敦美おばさんからお土産を渡されたから、届けに行こうと思って。
聞いていた? あ、そう……それがね、ちょっと問題があるのよ。
田ノ倉さんが、車で送ってくれるっていうんだけど……家、大丈夫?」


受話器の向こうから、母の少し甲高い叫び声が聞こえてきた。

家の中全体はどうでもいいから、とにかく居間と玄関くらい、掃除してと頼み込む。

母はわかったと笑い、すぐに敬に声をかけた。

『ふざけるな』という敬の文句も聞こえてきたけれど、私は途中で通話を切る。




……お願いします、我が家族。

勝負は30分です……キラキラしていなくてもいいから、

せめて、普通の並程度に整えて!




私はその日、初めて助手席に座り、田ノ倉さんは車をスタートさせた。

もちろん道はわからないので、私がナビ代わりになる。

大きな観光地でもない道は、特に渋滞することもなく、順調に進んだ。



それにしても、出発してから10分くらい経つのに、田ノ倉さんは一言も話してくれない。

車内では、私の指示に、軽く頷くだけ。

道を右に曲がる、そして少し坂を登り、そして左にウインカーを出す。

もう半分近いのに、こんな重たい空気のまま、到着しちゃうのかな。


「飯島さん」

「はい」

「今、僕が何を考えながら運転しているのか、気になりませんか?」

「はい、気になります」

「そうですよね。でも僕も、飯島さんがどうしてずっと携帯を気にしているのかが、
気になります」

「あ……」

「他の人が携帯を気にしていても、僕は気になりません。
でも、飯島さんが気にしているのは、気になります。
何か悩みでも迷いでもあるのなら、僕に出来ることはないだろうかと、そう思うので。
いや……何も話してもらえないのは、正直寂しい気がします」


田ノ倉さんの言葉は、私の心にしっかりと届いた。

そう、もし逆の立場なら、私だって気になっているはず。

何かあるのなら話して欲しいと、そう思うはず。

そうか、遠慮は逆に、心配させるだけなんだ。


「ごめんなさい。心配させてはと思い、言えませんでした。
でも、運転しながら、聞いてくれますか?」

「もちろんです」


私はナビ代わりをしながら、菅沢さんへ何度もメールを送る意味を、

田ノ倉さんに語ることにした。



66 家族の灯り


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コメント

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結局

くくく・・結局残念なドライブ(@@)

と思ったら何、何だかドキドキな事に。

素直に聞いてくる諒がいいですね~

いいでしょ

yonyonさん、こんばんは

>くくく・・結局残念なドライブ(@@)

あはは……まぁね。
そんなに甘くはないのですよ
でも、冷静に考えたらそれが普通だよね。

>素直に聞いてくる諒がいいですね~

はい、まっすぐな諒ですから。