66 家族の灯り

66 家族の灯り



私の実家へ向かう道のりで、今朝、細木さんから聞いた話を田ノ倉さんに語った。

取材方法や記事の内容が間違っているわけではないにしても、

それがきっかけで騒いでいるファンがいることは間違いない。

今日行われているはずのイベントが、どうなっているのか知りたくて、

菅沢さんに何度もメールをしたが、返事は何もなかった。


「いつもなら、『くだらないことをしていないで仕事のことだけ考えろ』とか、
『うるさい』とか、意味があろうがなかろうが、必ず返してくれるんです。
どんな一言でも、そこに言葉があるだけで安心出来ると思ったんですが、
それがないと妙に気になってしまって」

「まぁ、郁が『うるさい』などのメールを寄こすのは、普通ですからね。
でも、今回の場合は、知らせがないのは、問題がないからではないのかな。
秋田編集長もいるし、及川さんだっているのだから、もし何かがあれば、
こちらに連絡くらいは寄こすでしょう」


田ノ倉さんにそう言われると、その通りだと思えてくるから不思議。

細木さんから言われたときには、いまいち信じ切れなかったのに……

なんだろうか、その人物の信用度?


『やぎさんゆうびん』の音が聞こえ、私の携帯にメールが届く。

受話器を開いてみると、それは菅沢さんからだった。

すぐにボタンを押して、内容を確かめる。



『何度もうるさいんだよ』



たった一言だけだった。

それでも私は満足だった。

『うるさい』と言われるのは、いつものこと……


「田ノ倉さん、菅沢さんからメール来ました。予想通り『うるさい』でしたけど。
あぁ……でもよかった、ほっとした」


内容なんてどうでもいい。

菅沢さんから届いたことだけで、満足出来る。


「よかったですね」

「はい……」





大丈夫……

そう思うだけで、薄暗いような町の街灯も、すれ違う車のライトも、

全く別のものに見えるから不思議。

そこからは、私が色々と説明を加え、実家まではあっという間だった。



久し振りに戻った実家。

敦美おばさんから渡された荷物を持ち、玄関をあけると、緊張した顔の母が出迎える。


「ただいま、お母さん」

「すみません、急に僕までおじゃましてしまって」

「いえいえ」


前回、会社の食堂で会った時には、何も緊張なく話していたのに、

今日は動きまでぎこちない。

とりあえず、いつも脱ぎっぱなしの汚い敬の靴も、ちゃんとしまってあった、

よかった……


「何もないですが、どうぞ上がってください」

「ありがとうございます」


居間に入ると、敬がいつもなら読みもしない新聞を大きく広げ、

娘の交際相手が、結婚を申し込みに来るのを知りながら出迎える、

父のような姿で座っている。


「敬、ただいま」

「おぉ……」


何が『おぉ……』よ、今までそんな態度で出迎えたことがありました?

私は田ノ倉さんに座布団を勧め、敦美おばさんからのお土産をテーブルに置いた。


「お茶でいいですか?」

「はい、ありがとうございます。あまり気を遣わないでください」

「いえいえ、そんな」


田ノ倉さん、このうちの人たちは緊張感がないので、

たまにはこうして緊張感を与えてやってください。

母が、近所の人になら絶対に出さない高級そうな湯飲みにお茶をいれ、

田ノ倉さんの前に出してくれた。一緒に出てきたのはもちろん『笹倉の羊羹』。

その湯飲みに田ノ倉さんが触れたとき、携帯が鳴り出した。

相手を確認すると、すみませんと頭を下げ、玄関から外へ出て行ってしまう。


「はぁ……」

「何しているのよ、敬。いつもの通りでいいのに」

「いいわけないだろうが。姉ちゃん、何とんでもないのを連れてくるんだよ」

「とんでもないって何よ、田ノ倉さんって言うのです」

「名前を聞いているわけじゃない。母さんから聞いた、社長の弟だって言うじゃないか。
やめておけ、やめておけ、世の中には釣り合いってものがあるんだぞ」


敬は窓から田ノ倉さんの姿を確認し、私に向かってそう言い切った。


「釣り合うのかどうかは、釣り合わせてみないとわかりません」

「傷つくのは姉ちゃんだぞ」

「まだ、結婚するって決まったわけでもないんだから。大騒ぎしないでよ。
敬の方がよっぽどおかしい」


そう、今はまだ『好き』の気持ちを確かめただけ、

これから歩み寄れるのかどうなのか、敬のいう釣り合えるのかどうなのかがわかるはず。


「あ、来た」


敬はまた元の位置に戻り、お茶をいれた母も腰を下ろし、

それから30分くらい今回の仕事について、田ノ倉さんが語ってくれた。

はじめは緊張していた母も敬も、その頃には少し笑顔も見せてくれる。


「それじゃあね、また」

「敦美によろしく言ってね、電話はしておくけれど」

「うん、言っておく」


母は私に『笹倉の羊羹』が入った袋を手渡してくれる。


「田ノ倉さん」

「はい」

「こんな母親の娘ですから、和はたいした娘じゃないですけれど、
気持ちはとっても優しい子です。どうか、あったかい目で見てやってください」


あれだけ文句を言いっぱなしだった敬も、母の言葉に頭を軽く下げてくれた。

やだなぁ、二人とも。そんなに真剣になっちゃって。

ただ、仕事場に戻るだけなのに。


「お母さんと敬君にお会いして、
飯島さんの素敵なところが、もっともっとわかった気がします。
僕の方が成長しなければと、あらためて思いました」


田ノ倉さん、なんだかそんなふうに言われてしまうと、

私は、今までの人生を反省したくなります。

ウソ泣きしたり、家の壁に穴を開けたことを、敬の責任だとなすりつけた日々が、

頭の中に蘇って……


「それでは、失礼します」

「はい」


車に乗り、エンジンがかかる。

走り出すと窓から見える家の灯りが、だんだんと遠ざかった。

いやだなぁ、手を振る母を見ていたら、なんだか目がウルウルしてきた。

またすぐに帰ってくるってば。


「姉弟っていいですね」

「そうですか? 会えばケンカばかりですよ。
幼い頃にはよく泣かせていましたけど、さすがにそうもいかなくて。
妹なら、洋服の話とか盛り上がれるんでしょうけれど、弟なので……」

「お母さんの目より、敬君の目の方が厳しかったな。
この男はどんな男なのかって、真剣に見られていた気がします」


文句を言いながらも、母と一緒に部屋を片付け出迎えてくれた敬のことを考えた。

『釣り合わない』と言ったのも、私を心配してくれているからだ。


「一人っ子の僕には、うらやましいことばかりです」

「田ノ倉さんは一人っ子なんですか」

「はい。昔は郁が隣に住んでいたので、よく遊びましたが。
父が半年前に亡くなって、今では母もすっかり僕に頼っている状態……あ……」

「何か」

「いえ、また愚痴になりそうです」


田ノ倉さんは照れくさそうにそう言うと、

少しアクセルを強く踏み込んだ。



67 星空の中


とっても、とってもいい雰囲気のまま、二人はどこへ……。
和の『ケ・セラ・セラ』 な毎日を、応援してください。
本日も励ましの1ポチ、よろしくお願いします ★⌒(@^-゜@)v ヨロシクネ♪

コメント

非公開コメント

私とは違うよね

田舎のくらい道の先、
キラキラと何やら怪しげな光。

休憩・・・
お泊り・・・車は吸い寄せられるように、
なんて事は無いよね~~(爆)
すみませんv-402

郁からのメールにホッとする姿、
果たして諒の気持ちは?

No title

こんばんは
和と、その周りを囲む人達の飾りっ気なしの姿が、とても微笑ましくて、毎回楽しみです。そろそろ淳平も出てくるかしら。

師匠、そちらへ?

yonyonさん、こんばんは

>休憩・・・
 お泊り・・・車は吸い寄せられるように、
 なんて事は無いよね~~(爆)

あはは……さすがyonyon師匠、そちらへ運ぶのね。
さて、和と諒。どこへ……は、次回へ。

諒の方を向いているはずなのに、郁を気にする和。
そうだよね、内心、ざわついていると思うけれど……

うん

しばしお待ちを!

清風明月さん、こんばんは

>和と、その周りを囲む人達の飾りっ気なしの姿が、とても微笑ましくて、
 毎回楽しみです。そろそろ淳平も出てくるかしら。

脇を固める面々が楽しくて、私も脱線しながら進めています。
楽しみだと言ってもらえると、ほっとしますが、
そのために淳平がなかなか出られていませんよね。

コラボあり! って書いたのに。

それについては、まだ後日、ちゃんと書かせていただきますので、
もう少し本編にお付き合いください。