67 星空の中

67 星空の中



ラジオは細木さんが設定したFMのままになっていて、

心地よいDJの声にあわせ、『映画音楽特集』が流れ出した。


「あ……これ、『雨に唄えば』ですよね」

「そうですね、ジーン・ケリーの代表作です」


ジーン・ケリー。名優でもあり、歌手そして振り付け師でもある。

雨の中で傘を回し、踊る姿はあまりにも有名で、この映画の代表作とも言える曲。


「私、小学生の頃、この映画を夜、父と母が揃って見ているのをのぞいて、
次の雨の日、学校帰りに傘を振り回して帰ってきたんです」

「振り回して?」

「はい、マネをしたつもりだったんですけど、母に思い切り怒られました。
父は大笑いでしたけど」

「へぇ……飯島さんは子供の頃から楽しい人なんですね」


実家のある住宅地から、少し山沿いの道へ進むと、

街灯の数も減り地上は暗さを増していく。一人で歩くには、怖ささえ感じる場所。


「田ノ倉さん、ここでちょっと停めてくれませんか?」

「何か忘れ物ですか?」

「いえ、貴重な時間を使ってくれた御礼です」


私は、以前、編集部で再会したとき、田ノ倉さんが天井を指差したように、

人差し指を空へ向けた。田ノ倉さんは車を左へ寄せると、ブレーキをかけ空を見る。


「うわぁ……」

「都会では見えない星空でしょ?」


都会にも輝くものはたくさんある。でも、この大きな星空は絶対に見えないだろう。

田ノ倉さんはどうせならと言って、エンジンを切り、ヘッドライトをOFFにした。

光り輝く星たちが、こぼれ落ちそうなくらいたくさん瞬いている。


「田ノ倉さん、人は亡くなったら何になると思いますか?」

「亡くなったら?」

「笑わないでくださいね。私、父は星になったと思っているんです。
飛行機事故で亡くなったからかもしれませんが」


病気になり、目の前で亡くなったとしたらそう思わなかったかもしれない。

母にずっと父は空に消えたと言われ続けていたからなのか、

星空を見ると、つい、そんな考えばかりが浮かんでくる。


「これだけの星があると、どこかに父の星がいる気がして……」


人は亡くなったら、これから先の世界を、星となって見続ける。

科学者から言わせたら、鼻で笑われるようなことだろうけれど。


「東京の空を見てもそう思えませんが、この星空ならそう思えますね、僕も……」

「……本当ですか?」

「はい。僕の亡くなった父も、きっと……星になったのですね」


私は、そう言ってくれた田ノ倉さんの方を向いたまま、何度も頷いた。


「田ノ倉さんのことを、きっと見守ってくれています」


私は、空を見るのが好き。

可能性は限りなくあるのだと、教えてくれているような気がする。

FMラジオから『ケ・セラ・セラ』が流れ出した。

空を見ていたお互いの視線が、ピタッと一緒になる。


「きっと父がしたことですよ、これは」

「お父さんが?」

「はい。昔から母が言っていたんです。
父は見かけによらず、とっても気がきく人だったって……」


田ノ倉さんはそうかもしれませんねと笑顔になり、また満点の星を見る。




『ケ・セラ・セラ』

なるようになる……




田ノ倉さんと私の『星空デート』は、それから10分くらい、続くことになった。





次の日の朝は、どこからか情報を仕入れたファンの黄色い声に起こされた。

そう、今日はここに、あの畑山宗也がポスター撮影でやってくる。

ライバルの日向淳平のドラマが、高視聴率スタートだったため、

畑山サイドのこの映画にかける意気込みもすごいだろうと、田ノ倉さんが笑っていた。



……うーん、見たいなぁ。田ノ倉さんと畑山宗也。いい男の並び立つ姿。



「和ちゃん、準備した?」

「はい、今出ます」


『SOFT』の仕事は昨日だけ、今日はどっぷりと『BOOZ』の仕事。

気持ちを切り替えないとね。


「いやぁ、それにしても今朝スポーツ新聞見て驚いたよ。『花輪まりん』のさぁ……」

「『花輪まりん』に何かありましたか? サイン会で何か」

「……どうした、和ちゃん。そんなに身を乗り出さないでよ」


あ、すみません、つい……


「何もないよ、ただ、人の多さが驚きでさ、ほら……」


細木さんが開いてくれたスポーツ新聞の芸能面には、

昨日、横浜で行われたサイン会での様子が書いてあった。

1000人くらいだと見込んでいたファンの数は、倍近くなり、警備も大変だったらしい。


「まぁ、今日のお台場は昨日より警備も多いだろうね、曜日も日曜だし」

「そうですね」


なぜだろう、胸がざわつく。

昔から、あまり悪い方向へ物事を考えたことがなかったのに。

そう、別に菅沢さんが恨みをかっているわけでもないのに。


「あ、この角を右です」


何かが起こるような、そんな予感だけがしてしまう。

私は取材場所が見えてきたのを確認し、スポーツ新聞を小さくたたんだ。





細木さんは、興味のない世界だと言いながらも、取材を楽しそうに進めていった。

私もデジタルカメラで、お勧め商品をいくつか撮影する。

『月刊きのこ』にいた頃、

編集長には、必ず別の記事を読んでから取材に行けと、耳が痛くなるくらい言われた。

こちらからしたら初の取材でも、

相手は同じような質問を何度もされることがあるからだ。



『甘えてくれる年下がいい……』

『頼りがいのある年上の人』



私が取材をした時、『花輪まりん』は確かに年上がいいとそう言った。

でも、私が取材前の資料として、他雑誌のインタビューを確認してさえいたら、

本当はどうなのかと問いかけることも可能で、

変な誤解を生むことはなかったかもしれない。


「和ちゃん、次行くよ」

「はい」


いけない……今は取材中。余計なことを考えていたら、ここでも失敗する。

今、私が出来ることは、目の前の仕事に全力投球すること、それしかない。





「帰る? 和ちゃんも?」

「はい、細木さんさえご迷惑でなければ、私も電車で戻ります」

「でも、今日は『SLOW』のパーティーがあるんでしょ? 畑山宗也も出るって」



……ん? 畑山宗也、パーティーにも出るの?



「でも……『花輪まりん』さんのサイン会がどうだったのか、報告聞きたくて」



何もなかった……

それを、菅沢さんから聞けたら、私は満足できる。

そしてあらためて、取材へ行く前の準備をしっかりすること、

自分の中で整理も出来るはず。

取材を終え、『ホテル』へ戻り、

ロケへ同行したまま戻っていない田ノ倉さんにメールをした。

勝手に先に戻るのは申し訳ないけれど、心が東京にあるまま残っていても、

また、逆に心配をかけるだろう。


修学旅行の学生のように、電車の中で細木さんのお菓子をつまみながら、

流れる風景が町の景色に変わっていくのを、私はただ、じっと見つめ続けた。





「ただいま、戻りました!」


いつもの半地下編集部。

扉を開くと、PCから顔を少し上げた及川さんが、ちょこんと頭を下げてくれた。

そして……



「なんでお前、今日戻って来るんだよ……」



いつものような憎まれ口をきいたのは、右手をギプスで固め、

肩から腕を固定された菅沢さんだった。



68 負傷者1名


1年で一番綺麗だという『冬の星空』、うふふ……な二人。
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コメント

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ギブス

星空デートe-490う~~んロマンチック

嫌な予感当たっちゃった。

右腕のギブス・・・昨年の9月の台風で@@
転んで骨折を思い出した(^^;)

☆です

yonyonさん、こんばんは

>右腕のギブス・・・昨年の9月の台風で@@
 転んで骨折を思い出した(^^;)

ごめん、嫌な記憶なのに……
なぜ菅沢がギプスなのかは、次回でわかるよ!