68 負傷者1名

68 負傷者1名



『花輪まりん』のサイン会で、あのちょっと勘違いした青年が菅沢さんに文句をつけ、

取っ組みあいのケンカに発展した。

『花輪まりん』に変なことをされたら困ると思った向こうのスタッフは、

彼女だけを守り、菅沢さんのことを見捨てた……




誰からの援助を受けることも無く、一人で戦った菅沢さんは、

最後の最後まで逃げることなく立ち向かったが、ついに力尽き……




自らの腕を相手に差し出し……




そして……





「おい、飯島。お前、泣くつもりか?」

「菅沢さん、その手、私の責任じゃないですか? 
あのストーカーファンの男の子に、隠し持っていたナイフで刺されたんですか?
それとも、階段の上から恨みをはらしてやるとか言って、突き落とされたんですか」


どっちにしても、私の責任は大きい。

自分の書いた記事に対して、責任を取るべきなのは私なのに。




どうしたら……いいんだろう。




「お前はそういう寸劇台本を、考えながら戻ってきたのか?」

「寸劇?」

「あのなぁ、人の説明も何も聞かずに、何突っ走ってるんだよ。
これはイベントで怪我をしたわけじゃない」

「エ……違うんですか?」




「昨晩、マンションのゴミ置き場に、ゴミ袋を運ぼうとして、階段から滑り落ち、
そのまま救急車を呼んだそうです」




階段? 滑り落ちた? ゴミ?




「あ、でもお前の責任だな」

「どうしてですか、今違うって」

「お前に返信したあとだった。メール!」

「あ!」


菅沢さんは無事イベント終え、家に溜まったゴミを下へ運ぼうとして、

なぜかビーチサンダルで非常階段を歩いてしまい、

携帯に気をとられ、階段を滑り落ちた。

運が悪いときは、何もかも悪い方向へ働くようで、10段もなかったのに、

肘から落ちてしまい、亀裂骨折と診断される。


「なぁんだ、襲われたわけじゃなかったんですね」

「なぁんだ、とはなんだ。襲われた方がよかったみたいに聞こえるぞ」

「いいえ、そういうつもりではありませんが」


ギプス姿は痛々しかったけれど、心が安心したからなのか、逆に笑いが止まらなくなる。

取材したときに撮った写真を印刷し、菅沢さんの前に置くと、

慣れない左手でめくろうとした写真は、ハラリと床へ落ちてしまう。


「あぁ、もう、いちいち面倒くさいな」

「イライラしないでくださいね、怪我が治りませんよ」

「うるさい! ニヤニヤして言うな」

「ニヤニヤなんてしていません、最初からこんな顔なんです!」


菅沢さんの文句が聞こえ、及川さんがマイペースに仕事をし、

細木さんが楽しそうに笑っている、それが私の職場。





……編集長、どうしたんだろうか。





少し特別な日曜日は、そんなふうに過ぎていく。





「あら、菅沢さん怪我を?」

「そうなの、マンションの非常階段から滑って転んで、骨をパリン……と」

「亀裂骨折は、結構治りが遅いんだぞ」


文則おじさんがそう言い始めた時、私の携帯が鳴り出した。

相手を確かめなくても、なぜか菅沢さんのような気がしてしまう。



……ほら、やっぱり。



「もしもし、飯島ですが」

「おい、お前、今からこっちに来られないか」

「今から? どうしてですか。仕事の嫌味なら明日でいいですけど」

「仕事のことじゃない、手が動かないからだ」


菅沢さんは、仕事で北海道へ行ったお母さんから、またカニが届いたと説明してくれた。

右手が不自由の状態では食べることも難しいので、

津川家で処理してもらえないかと、提案してくれる。


「どうしたの? 菅沢さん困っているの?」


困っていると言えば、困っているようだったから、

私は電話に驚いた敦美おばさんに、事情を語った。

すると叔母さんは、あらあらと何度も繰り返しながら、私の携帯を奪い取る。


「もしもし、津川です。お久しぶり菅沢さん。大丈夫? 右手。
今から和ちゃんがそっちに向かいますからね、車で」


敦美おばさんの左手が、車のキーを指している。

すぐにでも出発しろと、言いたそうな顔だけれど……


「カニと一緒にうちへいらっしゃい。せっかくのお母さんの気持ちだもの、
菅沢さんが食べないと……何遠慮しているのよ、骨の治りが悪くなるから、
ちゃんとしたものを食べないとダメよ! カニでしょ、カニ。
きっと甲羅が堅いから、骨にもいいと思うし……」




……カニの甲羅? いや、それは食べないでしょ、普通。




敦美おばさんの提案により、私は津川家の車を借り、

カニと一緒に、菅沢さんまで運ぶことになった。





「うわぁ……大きいカニじゃないの」

「すみません、逆にご迷惑をかけて」

「何言っているの、こんなに美味しそうなものをいただくんだもの、
遠慮なんてしなくていいの」


私は菅沢さんにお茶を出し、テーブルに向かい合うように座る。

それにしても、本当にギプスで固められると、動かせないんだな。

菅沢さんが弱い面を見せている姿なんて、目に焼き付けないと。

今度、いつ、こんな姿を見ることが出来るのかなんてわからないし……


「飯島、目がたれてるぞ」

「またそういうことを言う。これが私の顔です、ずっと、ずっと昔から」

「ほぉ……そりゃ、相当残念な顔だな」


全く! 腕じゃなくて、口にギプスをすればいいのに。

向かい合っていると、またケンカになりそうで、私は席を立つ。

すると、津川家の前に車が止まる音がして、まもなくインターフォンが鳴った。


「あ、和ちゃん、出てくれる?」

「はい」


おそらく荷物か何かだろうと、玄関を開けると、

そこに立っていたのは、田ノ倉さんだった。



69 ケンカ相手


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コメント

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鉢合わせ?

詠ませてもらってます。 どうなるの? この△関係今後に期待してます。

△ですね

nanamiさん、こんばんは

>この△関係今後に期待してます。

ありがとうございます。
切っても切れそうのない3人のあれこれ。
カニを置いた食卓で、さらにどうなるのか……
投げ合い? 挟みあい?(笑)
さらに続きも、よろしくお願いします。