71 運命の変わる日

71 運命の変わる日



私たちは名刺を出し許可をもらうと、『オレンジスタジオ』の中に入り、

指定された楽屋へ向かう。

撮影が長引いていて、そのタレントさんの戻りが10分遅くなりそうだと、

スタッフが飛んで来た。

まぁ、こんなことはよくあることだ。なにしろテレビは力が強い。

『BOOZ』の取材なんて、テレビに比べたらどうでもいいことだろう。


「眠いな、こういう場所で待たされると」

「そうですね」

「ここに寝てるか」

「ダメですよ」


テレビ局の楽屋、普段は大勢の人が行きかって、あちこちから音が聞こえてくるけれど、

いざ本番が始まると、誰もいなくなり、妙な静けさが漂っている。


「それより菅沢さん、この時間を使って、スタジオに見学しに行ったらまずいですかね」

「何を見に行くんだよ」

「日向淳平ですよ、少しだけ……」


どさくさ紛れに、撮影風景でも見せてもらえたら、

田舎に帰って母に自慢できるんだけど。

ちょっとだけなら……

『社会勉強』という小学生が使うような言葉でも何でも……

そんな考えを持った私がドアノブに手をかけた瞬間、向こうから叩く音がした。

私は、一瞬びっくりしながらも、ドアを開ける。


「あ……」

「失礼します。あの……先ほどは大丈夫でしたか?」





……やだ……日向淳平が前に立っているなんて。

これは……夢?

いや、どう考えても夢だよね。そうじゃなければ、おかしすぎるもの。


「あの、怪我は……」

「怪我? あ、いえ、大丈夫です、ちょっと膝を打ちましたが、なんともないです」

「そうですか、それならよかったです」


うわぁ……そうか。

さっき、ファンの子に押されたとこを、見てくれていたんだ。

なんだ、こうしてお会いできるのなら、腕の1本でも折っておけば……

もしかしたらお見舞いに来てくれたり、申し訳ないなんて言って、

サインの一つや二つ……


「うちの事務所の保坂に取材だとお聞きしました。
すみません、お待たせしているようで。よろしかったらこちらを……」

「はい」


日向淳平の後ろに立っていたマネージャーらしき男性から、

小さなお菓子の差し入れを2ついただいた。

今日は、年末特番の打ち合わせがここであり、

日向淳平自身が差し入れたものだと、説明してくれる。


「いいんですか? こんなものいただいて」

「いえいえ、たいしたものではないので……」


交わした言葉はたった一言だったけれど、なんだか心の中がぽかぽかと暖かくなった。

日向さん、私あなたのドラマだけは、これからも絶対に見続けますので!


「菅沢さん、これいただきました」


椅子に腰かけていた菅沢さんが立ち上がり、私の方を向いた。

その目はすぐにそらされる。


「私が倒れたところを見てくれたんですね。カメラではなくて、
私の心配をして来てくれたんですよ、優しいですよね、私の心配をしてくれて……
カメラではなく、私の……」

「さすがは人気俳優って名前の偽善者だな。飯島みたいな女を騙すのは簡単みたいだ」



……は?



「偽善者? あのですね、どうしたらそういう発想になるんですか?
日向淳平さんは、私たちが入り口で危なかったこと、
見てくれて……ってどうしました?」


私の言葉の途中で、菅沢さんにメールが入った。

顔つきが一瞬で変わり、一度そらした目は、もう一度携帯へ向かう。


「何か、トラブルでもありましたか」

「ん? いや……」


携帯を握り締めている菅沢さんは、今までにないような表情だった。

何か起こったんだろうか。


「でも……」

「いいから、取材の準備しろ」


『何かがあった……』そう思うと、返事が出てこない。

菅沢さんからは、当たり前のように、『早くしろ』と大きな声が響く。


「わかりました、すぐにやります」


目をあわせば逸らされる。

『いいから……』って言葉は、これほど不安になるものなんだ……

何があったんだろう……



応えてくれないことはわかっているけれど、心配は簡単にぬぐえない。





それから5分くらいして、女性タレントの保坂優さんが登場した。

日向淳平の事務所所属のようだが、今回演技するのは初めてで、緊張しているという。

そのわりには、ペラペラとよくしゃべるけれど。


「グラビアには抵抗ないですか?」

「ないですよ、売れるきっかけがグラビアだって女優さんもタレントさんも、
結構いるでしょ? 使えるものは何でも使えばいいのです」


『素顔美人』という事務所一押しのタレントを紹介してもらい、

一番投票数の多かった女性に、グラビアを飾ってもらうのが、今回の趣旨。

保坂さんは楽しそうにあれこれ語ると、次の仕事があるからと元気いっぱい出て行った。





「おもしろい子でしたね」

「あぁ……あれは相当大物になるか、思い切り潰されるかのどちらかだな」

「どちらかですか」

「いい意味で勘違いしているからさ」


固定したカメラの機材を一つずつ外しながらケースへ閉まっていく。

レンズを保護カバーに入れていると、また菅沢さんが携帯を見た。

熊本に行った陽くんからでも、連絡が入ったのだろうか。

それならそれで、教えてくれそうなものだけど……


「飯島……」

「はい」

「今から一緒に病院へ行ってくれ」

「病院?」

「あぁ……」


人にものを頼むときは、顔を見てちゃんと言うべきじゃないですか?

そっぽ向いているくせに真剣な顔で。もしかして……もしかしたら菅沢さん。


「菅沢さん、もしかしたら注射でも打たれるのが怖いんですか? 
それとも、病院で待たされている間暇だから、連れて行くつもりですか?
そんな理由なら私、行きませんよ。これでも結構仕事があるんですから」

「ん?」

「いい年をして、病院が嫌だなんて……」

「バカ、俺じゃない……」

「はい?」





「諒が……」





その名前を聞いた瞬間、心臓がこれ以上大きく打つのは無理だとばかり、

鼓動を刻んだ。



72 近くて遠い日


23日に、ちょいとした発表あり……の予定。
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コメント

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ヤダ、何?

ちょっと、ちょっとどういうこと!!!

郁!私にもちゃんと教えて!!


淳平は良い人だ♪

こういうこと

yonyonさん、こんばんは

>ちょっと、ちょっとどういうこと!!!
 郁!私にもちゃんと教えて!!

はい、今回でお話ししましょう。
淳平? もちろんいい男です!