78 乱丁乱心

78 乱丁乱心



東京に事務所を構える会社が、合同で開いたサイン会。

そのイベントへ出かけた細木さんが、

たくさんの資料と、個人的に集めたポスターを手に持ち、編集部へ戻ってきた。


「いやぁ、盛況、盛況、大盛況。今や日本は彼らの熱気によって、
オゾン層を容赦なく破壊しているね」


もっともらしいことを言っているようですが、

しっかり考えると、意味がわからない。


「デジタルカメラだからさ、とりあえず撮りまくってきたよ、
まぁ、見てくれ」


アイドルのたまごたちが思い思いのポーズで写真におさまっている。

その中に、以前、『水蘭を探せ』で雑誌に写真を掲載した、

高部まひるさんの写真が入っていた。


「あ、これ、高部さんじゃないですか」

「そうそう、彼女に会えたんだよ。今日は顔見せだったみたいだけど。
いやぁ……驚いた、もう結構ファンがいてさ、声がかかっていたからね」

「そうなんですか」


二股をかけた彼氏を見返してやりたくて、

『BOOZ』のグラビアに応募してきた高部さん。

『水蘭を探せ』でデビューのきっかけをもらい、しっかりと歩み始めている。


「本格的なデビューはもう少し先だそうだけれど、ただいま勉強中なんだって、
郁と飯島さんによろしくって言われたよ」

「はい……」


頑張っている人の声を聞くと、自分も頑張らないといけないなと思えてくる。

何があっても時間は止まらないのだから、下ばかり向いているのは、私らしくない。


「さて、それじゃリストチェックしてから、印刷所に向かいます」


編集長から『頼むよ』の声がかかり、私はまた、飴を一つ口に入れ、

仕事へ気持ちを向けた。





急ぎの手直しがあったとき、原稿を編集部まで戻すことなく、

印刷所で訂正をすることがある。その場で直せば印刷まで時間が短縮出来る。

今回、掲載した店の電話番号が違っていたことがわかり、

私は写真の差し替えを頼み、あわせて番号の直しを入れる。


「はい、8ではなくて6です」


印刷所の熱気なのか、それとも自分の体から発する熱なのか、

なんだか……ますます……


「『BOOZ』さん、これでいい?」

「あ……はい、ありがとうございます」



あと、少し……

これが終わったら家に戻れる。



事務所の外にあるベンチに腰かけると、『SOFT』の最新号が積んであった。

『SLOW』の映画撮影が開始され、スタートロケでのあれこれが載っている。

私の地元で行われた撮影風景や、畑山宗也に密着したレポートやら、

いつにもまして、華やかだ。

漫画のページに乱丁があったようで、1冊だけ積みあがったものと別に置いてある。

私はそれを手に取りめくっていく。



巻頭ページからずっと『SLOW』の特集。

同級生の神社も、地元の人たちに愛される『総合公園』も載っている。



『地元の方の協力もあり、順調に撮影継続中』



編集部員の名前のトップには、田ノ倉さんの名前があって……




『飯島和』




その名前の少し下に、私の名前があった。

きっと、事故に遭う前から、

こうして名前を掲載するよう指示を出してくれていたのだろう。



名前はこんなに近いのに……

私と田ノ倉さんの距離は、どんどん遠くなっていく。



「『BOOZ』さん、電話!」

「はい」


慌てて携帯電話を見ると、充電がすっかり切れていた。

事務所に入れてもらって受話器を上げると、当然のように菅沢さんの雷が落ちた。


『飯島、お前なぁ!』

「すみません……」


ボーッとする頭に、響くなぁ……菅沢さんの声って。


「わかりました。すぐにそう伝えます」


菅沢さんから新しい指示を受け、それを印刷所の方に告げた。

なんとか最終印刷に、全ての訂正が間に合う。

印刷のスタートを確認し、編集部に戻ったのは、午後8時を回る頃だった。





「あれ? 菅沢さん、腕ギプス取れたんですか?」

「まぁな」

「よかったですね」


うん、本当によかった……

最初は弱い菅沢さんが見られるのもいいかもなんて思ったけれど、

やっぱり人が傷ついている姿を見ているのは、いいものじゃないし。


「なぁんだ、もう治ったのか残念と思っているんだろ」

「どうしてそう、ひねくれているんですか。そんなこと言ってませんよ、私」

「言わなくても顔に書いてある」


全くもう!

神様、次は、頭の中を休憩させてくれませんかね、この人の。


「コーヒー入れましょうか」

「あぁ……」


菅沢さんの好みは、少し濃いめのブラック。

確か、先日いただいた『ブルーマウンテン』があったはず。



棚の上に手を伸ばした瞬間、なんだろう頭がクラッとして……



「飯島! おい、飯島!」



はい、ここにいます……

何慌てているんですか?



頭の中に浮き出る言葉が、私の口から出ていくことはなく、

聞こえてくるのは菅沢さんの呼びかける声だけだった。



79 優しい目


体と心が、バラバラな和
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コメント

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可愛い部下

身体と心のバランスが崩れちゃったのね。

無理して笑顔作ってると、いつか本当になると思っている?でも・・・
無理はダメ!

郁が切れそう。
諒が悪いわけじゃ無いと分かっていても。

それから

yonyonさん、こんばんは
お返事遅れちゃってすみません。

>郁が切れそう。
 諒が悪いわけじゃ無いと分かっていても。

郁は全てをわかっているので、
誰が悪いわけではないけれど、イライラはしているでしょうね。
それと同時に……

というわけで、次回へ続きます。