J&F(1)

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あっという間に、今年も12月。

『BLUE MOON』も好評のまま終了し、

少しギクシャクしていた史香との関係も、紗那さんの協力を得て無事解決し……

本当なら、クリスマスに旅行でも行きたいところだけれど、それはムリだな。


「うーん……」


史香……

君は知っているの?

僕の横で寝ている時、唇が何度か動くこと。



赤ちゃんが母親に甘えるような仕草に見えて、

つい、僕も唇を寄せたくなる。






チェッ……

寝返りか。






無理に働かなくてもいいと思っているのは、今も一緒だけれど、

ただ、世話になっているようで嫌だという史香の思いも理解出来る。

いや、史香がそれを不満に感じるのなら、思うとおりにして欲しい。

何よりも君が、笑ってくれることが……今の僕には必要なことだから。





明日の『丸代青果』の面接、うまくいくといいね。





……おやすみ、史香







「今日なの? 史香の面接」

「うん。まぁ、あらかじめ慎司さんには話しもしてあるし、
それに奥さんにも電話で事情は連絡した。問題はないだろうけれど、あ……」

「何?」

「昨日、彩ちゃんとスタジオで会ったんだ。そうだ、話をしておけばよかった」


『丸代青果』は、僕がまだモデルとして走り出した頃、バイトをさせてもらった店。

まぁ、社長の妹さんご夫婦が経営しているため、何かと好都合だった。

あの店で生活を支えてもらったと言っても過言ではないくらい……


「淳平」

「何?」

「小学校1年生を通学路に送り出したわけでもあるまいし、
史香だって社会人なんだから、自分の面接くらいしっかりとこなすわよ。
あ……しっかりかどうかは別だけど……あはは……」

「ん?」


鏡越しにそう言って笑うのは、スタイリストの米原さん。

姉御肌の女性で、僕と史香にとっては、よき相談相手でもある。


「まぁ、冗談はここまでにしても、社長が私によこした話なのよ、
失敗するはずがないじゃないの。あんなふうに事務所をやめさせてしまったこと、
何しろ一番心にこたえているんだからさ」

「うん……」


うちの事務所規則。

タレントとスタッフの個人的な付き合いを禁止する。

僕達はそれを破り、史香は仕事を辞めた。


「さて、そろそろスタッフが来るわよ、史香の話はおしまい」

「そうだね……」


米原さんに両肩を叩いてもらい、仕事モードに入る。

そう、ここからは別の日向淳平が動き出す。

楽屋の扉がノックされ、

台本を片手にした若手スタッフが、『時間です』と声をかけてくれた。


「田沢さんは、まだ戻ってこないの?」

「そうね、少し遅れているみたい。打ち合わせに手間取っているのかしら」

「ふーん……」


珍しいな、あの人が時間通りに来ないなんて。

何かあったというのでないのなら、いいけれど……


「淳平……」


声に振り返ると、宗也が立っていた。

あいつの入りは、僕の後だったはずだけれど……



……しかもなんだ? あのカメラと付き添いの人数は。

大名行列じゃないか、これ。



「すいません、ちょっとカメラ止めてください。淳平には許可取ってないでしょ」

「あ、はい……」


あまり見慣れない人たちだけれど、取材か何かかな。

相変わらず、派手なことが好きな事務所だ。


「あ、畑山くん、もしかしたらこれ、『SLOW』の?」

「そうなんです。騒がしくてすみません……」

「いえいえ」


『SLOW』

あぁ、あの宗也の事務所が、社運をかけたとか言った映画のことか。

そういえば田沢さんが、うらやましがっていたな。


「なぁ、淳平、この3、4日で樫倉英吾に会ったか?」

「樫倉? いや……」

「そうか、それならいいんだ」


宗也が何を言いたいのか、よくわからなかったが、マスコミが囲んでいる中で、

あまり具体的なことは話せない。

宗也がどうしても必要だと思うなら、どんなことをしてもまた、連絡してくるだろう。


史香とのことをかぎまわり、先輩を利用して、マスコミに売った男。

あいつにだけは、絶対に負けたくない。

人の気持ちを理解できないやつに、演技で負けるはずがない。





撮影は、思ったよりも早く終了した。

田沢さんが楽屋に到着するまで、しばしの休憩……



と思ったが、あの足音は間違いなく……



「淳平! 話を通してきた!」


楽屋に飛び込んできたのは、何やら作戦を企て、気迫あふれる田沢さんだった。




J&F(2)


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コメント

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此処からね

田沢さんが話をしてきた先が『BOOZ』で、
郁の役を・・って話だよね。

史香がまだ丸大青果に努める前だったんだ・・・

以前家の近所に“丸大青果”って有ったんだ。
(今は無くなって分譲住宅が立ち並んでいる)
ちょっと懐かしい。

淳平から見た和の印象は?

さかのぼってますけどね

yonyonさん、こちらにもこんばんは

>史香がまだ丸大青果に努める前だったんだ・・・

そうなんですよ。前回の『はーとふる・ぷち』よりも少し前の話になっています。
よく見直してみると、『SLOW』のことにも、触れているんですよ……前回。
まぁ、これからの『はーとふる・ぷち』にも、『ケ・セラ・セラ』にも関わってくるので、18話、お付き合いくださいませ。

>以前家の近所に“丸大青果”って有ったんだ。

懐かしかった?
史香の行く『丸代青果』は問屋レベルの大きさだけどね。
でも、名前はよくありそうでしょ……

淳平が感じる和……も含めて、最後までよろしくお願いします。