J&F(2)

J&F(2)



田沢さんが向かっていたのはMBCのプロデューサー、木村さんのところだった。

来年の夏、特別ドラマの制作枠があることを聞きつけ、そこに企画を持ち込んだ。

主演は僕で、内容は……


「色々と営業のからみを考えて、『男性誌編集者』でということになった。
木村さんも納得してくれてな。お前がそれを演じるのだと言ったら、
興味があると乗ってくれたんだ、どうだ、いいだろ」

「そう……」


デビューから、スーツを着ている役が多く、それが僕のイメージになっている。

しっかりとしたものがあることは悪いことではないけれど、

そこに固まってしまうと、抜け出すのは難しい。

連続ドラマだと、3ヶ月もの間評価され続けるが、

特別ドラマならば、反応だけを吸い取ることが出来ると言ったのは、田沢さんだ。


「『秋月出版社』に協力をしてもらおうと思っている」

「『秋月出版社』?」

「あぁ……『BOOZ』って雑誌、知っているだろ、
ほら、ファンの子が、自分がグラビアを飾ったから見て欲しいと送ってきたやつだ」

「あぁ……覚えているけれど……」

「あの編集長の秋田さんは、うちの親父の後輩なんだ。
親父が通信社にいた頃、秋田さんが新人で入ってきた。
今まで雑誌の内容的に、仕事で絡むことがなくて、
季節の手紙くらいしか交わしていなかったけれど、
今回のこの企画なら、乗ってもらえると思って……」


田沢さんは、バッグから『BOOZ』を取り出して、目の前に置いた。

『秋月出版社』かぁ……宗也の映画も、確かここの作品だったなぁ。

同じ会社の協力を得るとなると、また、マスコミのネタになりそうだけど。


「編集部員に、菅沢っていうのがいるらしい。秋田編集長の下にいる男で、
実際には彼が全てを仕切っている。一度だけ会っただろ、ほら……」

「どこで?」

「『オレンジスタジオ』の前で、女性編集者の子が車にひかれそうになったとき」

「……ひかれる? あぁ、あの時」


そうだった。年末特番の撮影で、先日『オレンジスタジオ』へ入るとき、

うちの保坂の取材に『BOOZ』が来ていたことがあった。

たしか、腕を怪我していて、女性の編集者さんが一緒について来ていて……


「怪我していた人のこと?」

「そうだ、彼は『友成書房』時代から『BOOZ』を手がけていて、
秋月に移ってから、その専門雑誌ではトップに押しあげた。淳平とは年齢も近いし、
今回はぜひ、協力してもらおうと考えているんだ。
短編だとは言っても、ウソを並べるわけにはいかない。彼に監修を頼めればと思って」


監修かぁ……確かに年配の人と話すより、楽な気はするなぁ。


「協力って簡単に言うけれど、それなら向こうにとって、何か利益はあるの?」

「あるさ、なけりゃこっちも強く出られない。実は、写真集計画がある」

「写真集? 僕の?」

「お前じゃないよ、男性誌から出す意味などないだろう。
それともセミヌードくらい挑戦するか? 
今時は結構売れるらしいぞ、男のヌードってやつ」



『セミヌード』の写真集?



そう言われてみたら、先月、お笑いタレントの若手が脱いでいたって、

米原さんが興奮気味に語っていたな。


『ねぇ、ねぇ、淳平も脱いだら? 一気にファンが増えるかもしれないし……』



いや、その考えはないな……

史香が卒倒しそうだし。



「淳平……」

「何?」

「お前、真剣に考えているのか?」

「いや、まさか……」


田沢さん? そっちこそ真剣な顔で見ないでください。

脱ぎませんよ、僕は。


「で、話の続きをお願いします」

「あ、そうか、うん。実はさ、うちの女性タレントを数名使って、
1冊作らないかという提案は、以前から社長との間で出ていたことなんだ。
ここをうまく利用してさ……」



『女性タレント』かぁ。

この間も数名、壁の写真が増えていたなぁ。

事務所の佐藤さんも、近頃社長が力を入れていると言っていた。

アイドルにもなり、バラエティータレントにもなり、グラビアもあり、

まぁ、何でもありの子たち。

その中で、勘のいい子だけが残っていく『芸能界』。


「とにかく……」


熱弁を振るおうとした田沢さんの携帯が鳴り出し、

慌ててプロデューサーのところへ走り出す。

相変わらず忙しい人だ、よく頭が痛くならないな。

あの仕事は絶対に、僕にはムリだ。




『BOOZ』かぁ……

しっかり読んだこと、ないけれど……





「はい、どうぞ」

「おはようございます!」


扉をノックする音がしたので声をかけると、

入ってきたのはスタッフではなく、うちの保坂だった。

スタジオで撮影でもあったのか?


「おはよう……今日は撮影?」

「あ、今日は……うわっ!」

「あ……おいおい」


僕の手にあった『BOOZ』は、保坂の手にうつり、

なんだか意味深な顔でこっちを見る。


「日向さん、読んでいるんですか? これ」

「ん? いや、それは違うんだ。今、田沢さんが持ってきて」

「持ってきた? だってこれ、先月号ですよ、『BOOZ』って通販で購入するでしょ。
書店では手に入らないし……」



へぇ、そうなんだ。それは初めて知ったけど。



「はぁ……」



なんだよ、その大きなため息。



「日向淳平ともあろう人が、こんな雑誌を楽屋で手にしているなんて、
前島さんに不服でも?」




史香?

史香に……不服?




「それは確かに前島さんには、私のようなあふれ出るような色気はないかもしれません、
でも……」

「違うよ、これは仕事の話で、ほら、戻せ!」


何があふれ出る色気だ。そういうことは自分で言わないんだぞ。

全く、このタイミングでこいつが入ってくるなんて、今日は気をつけないと、

何か起こる気がする。


「仕事? 『BOOZ』って男性も載るんですか?」

「そうじゃないんだ、いいから……。それより何? 今日は一人?」


全くもう、誰だ、こいつを芸能界に進めたのは!


「今日も! です」


事務所の所属タレントが増えた割には、まだマネージャーが揃っていないため、

保坂はメモだけ渡されて放り出されたと嘆きだす。

田沢さん、早く戻ってこないかな。

この調子で振り回されると、休憩が休憩にならないぞ。


「いけない、すっかり忘れていました。ちょっと待っていてくださいね」


いきなり飛び込んできた保坂は、すぐに部屋を出て、また戻ってくる。

そしてその斜め後ろには、初めて会う女性が立っていた。




J&F(3)


みなさんのおかげで、発芽室4才になりました!
これからも、変わらずにおつきあいください
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コメント

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始まりましたね、4周年創作
保坂さん、結構好きなキャラクターです。
誰が淳平のところに会いに来たのか、
想像しながら明日を待ちます。

保坂の魅力

清風明月さん、こんばんは

>保坂さん、結構好きなキャラクターです。

あはは……ありがとうございます。
そう言ってくれる方は少ないので、貴重ですよ。
淳平のところに来た人物が誰なのか、
本日更新でわかります!

これからも、お気楽に楽しんでください。