J&F(4)

J&F(4)



MBCテレビが来年の夏、特別ドラマを企画した。

以前からその枠を狙っていた田沢さんは、『秋月出版社』とのコラボを申し出る。

もちろん、まだ具体的な話はこれからだけれど……



『とっても、とっても、素敵な人です……』



うちの事務所に入ったばかりの新人、『高部まひる』さんは、

菅沢郁という編集部員のことを、そう評価した。

ファッション雑誌や、情報雑誌にインタビューをされることはあっても、

男性誌の編集部とは、今まで縁がない。

まぁ、田沢さんの企画が、採用されれば……の話しだけれど。





それより……





「あ、お帰りなさい」


よかった、史香の声が明るい。

きっと面接も、上手くいったのだろう。


「どうだった? 面接」

「無事採用してもらえました。色々とありがとうございました」

「いいよ、礼なんかしないで……」


エプロン姿の史香が、ちょこんと頭を下げた。

よかった、とにかく落ち着いてくれて……

『日向淳平』を脱ぎ捨てて、『日向淳平』に着替える時間。


「事務も大変だろうけれど、慣れたら大丈夫だと思うよ」

「あ……あの……私、配達を希望したんです」



……配達?



「配達? 史香、配達って、ダンボールとかに入った野菜を車で店まで運ぶ仕事だぞ。
それじゃ……」

「わかってます、でも、自分からお願いしました。ずっと事務所にいるよりも、
車で出かける方が気分転換にもなる気がして。もちろん、事務の仕事もありますし、
それに……」

「それに?」

「『オレンジスタジオ』に、出入りできるから……」


そうか、『丸代青果』はスタジオの食堂関係に野菜を卸していたっけ。

撮影の小道具に使われることもあったな。


「日向さんの仕事も、少しはのぞけるかな……なんて」

「のぞけるって……」


ここは何を言っているんだというところだろうが、

そんな理由だと言われると、言い返せなくなるなぁ……

史香はじっと目を見ると、すぐに顔が赤くなる。



そこがまた……

かわいいんだけど。



「史香のやりたい仕事をすればいいと、そう言ったんだ。
僕は反対しないよ。体はきついかもしれないけれど、頑張って」

「はい」


それにしても、キッチンに置いてある箱は、これ、ミキサーだよね。

なんだか青い野菜も、結構あるし……


「これ、どうしたの?」

「専務が教えてくれた野菜ジュースを作ろうと思って」



野菜ジュース?



「いや、史香、あのさ……」

「専務の言うとおりだと思って。スタジオのお弁当って、
どうしても野菜が不足気味じゃないですか。そりゃそうですよね、
バランスよくするなんてムリですから。
でもこれからは、ドラマの撮影とかで3食お弁当ってことも出てくるので、
それならせめて、野菜ジュースを作れたら、栄養も偏らないしと……」


うわぁ……慎司さん。

忘れてないんだ、あの頃のこと。

野菜に嫌いなものが多い僕に、奥さんが作ってくれたジュースを、

毎日必死の思いで飲み干していたのに。




……わざとか?




「慎司さんから、レシピをもらったの?」

「はい、なんといっても『丸代青果』ですから、
どんなお店に行くよりも、新鮮でいい野菜が手に入りますよ」





……失敗した





史香を、行かせなければよかった。





「どうしたんですか? 日向さん」

「いや……いいんだ」


体にいいことはわかっているけれど、苦手なんだよな……ドロっとした食感。


「ねぇ、今から飲んでみます?」

「あ、いいよ、史香。
それよりさ、新しい仕事の話があって、ちょっと座ってここに」

「仕事?」


まだ正式な話ではないけれど、野菜ジュースの話題から逃げ出さないと。

あとで史香がお風呂に入った時にでも、ミキサーを片付けておこう。


「特別ドラマ?」

「あぁ……協力の許可が出て、
スポンサーとの打ち合わせが、全てうまくいったらなんだけどね」


田沢さんが資料だと持ってきてくれた『BOOZ』を、史香の前に出してみる。

何も知らない史香は、誌面を見た後、慌ててすぐに閉じた。


「こういう雑誌が……あるんですね」

「男性誌だからね、史香にはあまり縁はないだろうけれど」

「日向さんにはあるんですか?」

「……ないとは……言わないかな」


男ですからね、僕も。

別に、定期購読なんてしないけれど……

楽屋にあったら、めくることだってあるだろうし。


「この編集部にいる人に協力してもらって、ドラマを作ることになりそうなんだ。
春からのドラマ終了後にすぐ取り組むだろうから、今のうちに準備が必要で……」

「よかった……」

「よかった?」

「はい、野菜ジュース、バッチリ役に立ちそうですね」





……話題を逸らしたつもりが、逆にはまってしまった気がする。

あぁ、『丸代青果』なんて、行かせなければよかったかも。


その後史香が張り切ってジュースを作ることを阻止できず、

僕は何年ぶりかで、あの独特のノド越しを、味わうことになった。




J&F(5)


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