J&F(7)

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『浜波商事』

ひかりにとっては、自分を応援してくれる企業の一つでもある。

もちろん、大切にしなければならない存在だけれど、

結婚となると、そうもいかない。


「何度か会ったりはしたの、映画を見に行ったり、ハワイの別荘へも寄らせてもらった。
あ、これは他の女の子も一緒よ、一人では行ってない」


ひかりをお姉さんと慕うタレントは、数名いる。

まぁ、だいたいどんな様子なのか、想像できるけれど。


「でも、まぁ、向こうにそれなりの勘違いをさせるような、
行動があったということだろ」

「……そうね。プレゼントも何度かいただいたし」


ひかりはそういうと、今は何もない指をさした。

プロポーズをされて怖くなり、もらった指輪は外したと言う。


「マネージャーに相談すればいいのに」

「それが出来ないから困っているの。マネージャーの山田さん、
私より3つも年下の女の子だし、御曹司ったら、私より先に社長へ話を振るんだもの」

「社長に?」


ひかりの事務所は、宗也の事務所と同じで、この業界では大手だ。

そのために、次々と新人が出てきて、その存在を脅かす。


「社長はね、『磯部莉子』が出てきたから、近頃冷たいのよ」


『磯部莉子』

ひかりの事務所にいる、今一押しの女性タレントだ。

秋月出版社が出した『SLOW』の映画では、いきなり主役に抜擢され、

相手役である血のつながらない兄役を、宗也が演じることになっている。

確かに、ひかりは年齢も上がってきている、

それなりの話題は、違った効果を生む可能性もあるだろう。


「相手としては悪くはないから、付き合っていいって言われても、
相手が相手だからこそ、適当では済まないでしょ、
人に散々仕事させておいて、本当に冷たいんだから」


ひかりの気持ちもわからなくはないが、

全く興味がないのなら、そもそも相手の誘いに乗らなければいいわけで……


「ひかりも、向こうの気持ちに応えているような、態度を見せたから悪いんだぞ」

「……そう?」


まぁ、こういった相談事は、過去にもあった。

役では、一途な女性を演じるくせに、結構、恋愛はオープンなのがひかりなんだよね。


「で、その話をどうして僕に?」

「私、淳平が好きだって……そう言ってもいい?」

「……は?」


ひかりは、『浜波商事』の御曹司に、自分は日向淳平を好きだと、

告白すると言い出した。話を聞くだけならともかく、

こんな騒動に巻き込まれたらたまらない。


「冗談はやめてくれ、それは迷惑だ」

「どうして? だって、そこらへんの男の名前を出したら、納得しないもの。
淳平なら、大丈夫でしょ」

「どういう意味で」

「色々な意味で。それに、まんざらウソでもないし……」


ひかりはそう言うと、演技なのかなんなのか、僕を見る。

全く、何を言い出すかと思えば……


「どさくさに紛れて、適当なことを言うな」

「適当じゃないわ、淳平が本気にしないだけでしょ」

「迷惑だ」


ひかりは同業者として話しの合う人だけれど、それは絶対に受け入れられない。

たとえ、その場限りだとしても、僕は……



「僕には、お付き合いをしている人がいる」



こういうときは、こちらも真剣に行かないと。

隠すことではない。


「あの子でしょ、前に淳平が落馬したとき、病院に来た」

「あぁ……」

「マスコミの前で、堂々と交際宣言した……」

「そうだ」


誰よりも史香が大切だと、そう宣言した日。

その気持ちは、何一つ変わってはいない。


「ひかりのことは、親友だと思っている。同じ作品に携わって、
これからも一緒に仕事をしていきたいし、変な偏りを作りたくないんだ。
それに、ウソであっても……僕は史香を裏切りたくない」



僕が『好きだ』という言葉を向けるのは、

日向淳平である以上、史香しかいない……

役者という仕事だからこそ、仕事以外に偽りを持つのは嫌だ。



「そういうと、思ったけどね」

「宗也にでも頼めよ、同じ事務所なんだし」

「宗也はダメ、あいつだったら本気で一晩付き合えとか言い出すから」

「言わないよ……」


全く……

ひかりはそれから振り切ったように笑顔を見せ、楽しそうに食事を続けると、

贔屓の店をあとにした。





タクシーの中で、流れる街並みを見ていると、

コートの襟を立て、寒そうに歩く人たちが目に入った。

季節は冬。

もうすぐクリスマスだ。


「あの……」

「はい」

「行き先を変更……」


そう言いかけて言葉が止まる。時間はすでに23時を回っていた。

『丸代青果』は朝、7時過ぎには動き出す。

配達が仕事とはいえ、そんなに遅い出発でもないだろう。

思いのまま会いに行くには、少し遅い時間だ。

それでも史香はきっと、僕を笑顔で迎えてくれる……

『お疲れ様』と言って、全てのわがままを受け止めようとするだろう。


「すみません、そのままでいいです」

「いいんですか、変更は」

「いいです、すみません」


あさってには会える約束になっている。

その日をきちんと待とう……

優しくて、誰にでも笑顔を見せようとする史香だからこそ……



僕が……

守ってあげなくては……





恋人同士が歩く姿を見ないように、僕はあらためて背もたれに体を預け、

そのまま目を閉じた。




J&F(8)


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