J&F(11)

J&F(11)



今日は、『BOOZ』へ行き、編集者の働きぶりを見せてもらう日。

史香の天気予報どおり、冬晴れになった。

タクシーの中で、田沢さんが電話をかけると、

編集長の秋田さんが、全員揃って出迎えると言っているようで、

大きな声が受話器から漏れ聴こえてくる。


「そういえば、秋月出版社の漫画雑誌『SOFT』の編集者が、事故に遭ったって、
昨日、宗也が言ってましたよ」

「ん? あぁ、そうらしいな、『映報』とのタッグで張り切っていたんだろうが、
まぁ、命には別状ないらしいから、すぐに復帰でもするんじゃないか。
これが死亡事故だったりしたら、『SLOW』の公開前に、
変な話題になるから、大変だっただろうけれど。怪我で済んだのなら……」

「宗也も同じことを話してました」


右手に秋月出版社が見えてきた。

しかし、タクシーはその前を、当たり前のように通り過ぎる。


「ん?」

「本社ではないんだ、『BOOZ』は」

「本社以外にあるんですか?」


タクシーが止まった場所は、とあるビルの前で、

田沢さんは料金を支払うと、重たそうな扉の横にあるインターフォンを軽く押す。


「すみません、田沢です」


以前、僕のところへ来てくれた飯島さんだろうか、

女性の声が聞こえ、すぐに扉が開けられた。


「先日は、ごちそうさまでした。どうぞ、お入りください」


中にある階段の上に立つと、どうも個性的な面々が、それぞれに仕事をこなしている。


「階段ですから、気をつけて下りてください」



これって……地下なのか?

編集部と言うよりは、どちらかというと倉庫だけれど。



「菅沢さん、日向さんと田沢さんです」


ほぼ正面に近い場所にいた男性が、無言のまま立ち上がり、軽く会釈してくれた。

彼が、菅沢さん。

明らかに面倒くさそうだという雰囲気が漂っているけれど、大丈夫なのか?


「菅沢です」

「すみません、日向です。お仕事中にご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」


差し出された名刺を受け取り、顔をもう一度確認した。

言葉で勝負する人に、最低限の言葉しか発してもらえないのは、

結構なプレッシャーがかかるものだ。


「3日前に、大体の台本が完成したと連絡がありまして。
まぁ、以前から企画として上がっていたものの修正ですからね、
コンセプトとして大きく変わることはないと思うのですが……」


田沢さんがソファーに座り、編集長の秋田さんと向かい合う。

飯島さんが僕の横に椅子を出すと、座ってくださいと声をかけてくれた。


「あ……すみません」



斜めから視線を感じるけど……



「あのぉ……」

「はい」

「肌、きれいですね」


お菓子がたくさん並んでいるデスクから、そう声がかかった。

とりあえず愛想笑いでごまかそう。


「細木さん、当たり前じゃないですか。日向さんは俳優ですよ、
毎日お菓子を食べっぱなしで寝たりはしないんです。
お菓子は……あ、そうそう、ポッキーひと箱で、きっと押さえてます」

「エ! 『ひと箱』? そうか、やっぱり『ひと箱』なんだ……」


『ポッキーひと箱』?

そんなふうに決めて食べてはいないけれど。

なんだかおかしな人たちだな。目の前にいる男性は、PCの影からこちらをのぞいでは、

目が合うと隠れてしまうし。




……田沢さん、本当にここで何か学べます?




それから編集者としての説明は、ほとんど飯島さんがこなし、

菅沢さんはその横で黙って仕事を続けている。

ただPCで文字を入力し、それを誌面に載せるだけだと単純に考えていたが、

そうでもないようだ。


「あの……これは」

「これは校正です。実際に文字として誌面に並べると、区切りが悪かったり、
文章がくどかったり、イメージが変わるので。
文章を書いた担当者とは、別の人間が担当します」


へぇ……


「あの……」

「はい」


なんだろう、急に口を開くなんて。


「編集者が題材でドラマを作るから、ここへ見学にいらしたんでしょうけれど、
そんなことだけで、何か得られますか?」

「菅沢さん、日向さんに何を言っているんですか」

「上っ面だけは学べても、それがどう表現されるかによって、
世の中の人間に持たれるイメージは変わります。
妙に飾ったようにされるのは心外ですし……」


編集長の秋田さんが、菅沢さんは忙しくて気持ちに余裕がないんだと、

妙なフォローを入れてきた。飯島さんも、菅沢さんにあれこれ文句を言っている。

ありの行列の上に、水を落としたみたいに、

編集部全体が、妙に慌て始めた。


「どうして菅沢さんは、そういうふうに白と黒しかないんですか!」

「は? 白と黒? どういう意味だ」

「どういう意味かわからないのは、そちらが悪いんです」


そんなに攻め立てなくてもいいのにな、僕には彼の言うことが理解できる。

それにしても飯島さんの攻め立ては、なんだか別方向に動きそうだけれど。


「上っ面になることくらい、僕も承知です。
それでも、今、自分が感じていることは、演じる上で大事なものだとも思っています」


素人だからこそ感じるもの。ここへ初めて入った時に感じた空気感。

毎日いれば逆にわからなくなるものだって、あるはずだ。


「菅沢さん、一度スタジオへいらっしゃいませんか?」

「スタジオ……ですか?」

「はい、撮影現場を見てください。来年の春に始まるドラマのリハーサルが、
これから始まります。僕はそこでサラリーマンからコックになるのですが、
そばには指導をする料理人がついてくれます。
フライパンの使い方、調味料の掴み方など、それなりに格好つけられるように、
指導していただくんです」

「……見学に、行ってもいいんですか?」



……あれ? 飯島さんの目が、キラキラしているけれど。

一応、菅沢さんに話を振ったのですが。

まぁ、いいか。


「はい、どうぞ、いらしてください。
僕がどんなふうに編集者としての知識を得ようとしているのかも、
少しはわかってもらえるはずです」


上っ面しかつかめなくても、俳優には俳優の意地があるのだということを、

どこか覚めた目で見る目の前の人に、堂々と訴えた。

すぐに手帳を開き、田沢さんに予定を聞き始めている、飯島さんは……



とりあえず、おいておこう。



こちらのシーンは……後ほど『ケ・セラ・セラ』にも登場します。
菅沢と和が一触即発なわけ、細木の『ひと箱』は、そちらでわかりますよ(笑)


J&F(12)


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コメント

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行ったり来たり

リンクしてるのはとっても楽しいけど・・・

この石のように硬くなった頭が、なかなか前のことを覚えていない(;;)
ケ・セラ・セラの方と行ったり来たりしながら読まなくちゃ!

で、このシーンを忘れないにしないと!!

片方で大丈夫だよ

yonyonさん、こんばんは

>この石のように硬くなった頭が、なかなか前のことを覚えていない(;;)
 ケ・セラ・セラの方と行ったり来たりしながら読まなくちゃ!

いやいや、大丈夫だよ。
片方として読んでも、内容は伝わるから。
楽しみの一つとして、リンクを提供しているだけなのよ。

お気楽に、楽しんで下さいませ。