J&F(14)

J&F(14)



新ドラマのリハーサルが始まり、裏方として参加する彩ちゃんと会った。

風邪をひき、熱を出した史香のことを聞くつもりが、

話は少しそれた方向に展開する。

周りを気遣い、僕のことを話題にしない史香に対して、

どうも不満があるようだ。


「彩ちゃんは、幼い頃からモデルの仕事をしていたし、
叔父さんがうちの社長でもあるから、芸能界が身近なんだろうけれど、史香は……」


芸能界にいたくせに……

そう、立派にいたはずなんだけど……


「どうしてそこで笑うの?」

「いや、史香も芸能界にいたはずなのになと思って」


確かに、ドラマを見ても、ひとりのファンのような感想を言うし、

仕事について、細かくつっこんでくることなど一度もない。

僕の仕事に興味がないわけではないのだろうが、

ただ、楽しそうに話を聞いている。


「淳平君……」

「何?」


彩ちゃんの口が、何かを言おうとして閉じられた。

言いたいことを封じ込まれたようで、どうしたのかともう一度聞きなおす。


「ううん、いいの。余計なことだし」


番組プロデューサーの高橋さんが姿を見せ、彩ちゃんの名前を呼んだ。


「またね」

「うん」


結局、彩ちゃんの言いたかったことは、その時、聞くことが出来なかった。

『余計なこと』って、なんだろう。





「お疲れ様でした」

「あ、お疲れ様です」

「明日も、よろしくお願いしますね」

「はい……」


リハーサルを終えて、少し早めに体が自由になる。

これなら史香と会う時間が取れるかもしれない。

携帯で連絡をして、そちらに向かいたいというと、史香は待っていると言う。

確かに声もしっかりしているし、体調もよくなったみたいだ、

そう思い一人でタクシーに乗り込むと、5分くらい走ったところで、

運転手さんから声がかかった。



「あなた、有名な俳優さんでしょ」



有名なのかどうか、自分で判断するのは難しい。

そう思いながら返事を濁していると、運転手さんは納得しているのか頷いてくる。


「顔を見てすぐにそうだと思ったよ。悪いね、おじさん名前まではわからないけれど、
CMは見たことがあるからさ」

「ありがとうございます」


娘さんがファンだとか、史香のところにつくまで、あれこれ聞かされるんだろうか。

出来たら少し、寝ていたいところなのに……



「あのさぁ、後ろの車、このタクシーを追ってるよ」



運転手は、自分に気付かれるような尾行をするなんて、

追いかけている人がまだ不慣れなのだろうと笑う。

後ろを振り返ることは出来ないが、確かにバックミラーにライトが当たり、

気配は感じることが出来た。

スタジオ前からタクシーに乗ったのだから、

そこからずっとつけてきたということだろうか。


「どうします? そのまま進んでいいですか?」


タクシーの運転手は、目的地を駅の方向へ設定した僕にそう問いかけた。

スタジオなどに向かうときには、目的地を正確に言ってしまうが、

プライベートで動くときには、少しずつ目的地を明らかにする。

いきなり史香のアパート名を出すことは、したことがない。



こんな職業について、知らない間に身についた防御策といえば、それまでだけれど。



「任せてくれたら、逃げられるよ。この間も、別の俳優さんを乗せて、
あぁいったマスコミから、逃げてやったんだ」


運転手さんは、自分の武勇伝だとばかりに、話をし始めた。

確かに、追ってくる方が不慣れなら、それも可能だろう。

しかし、逃げたと思われると、また、別の日に追われる可能性もある。


田沢さんからの忠告、新CMの話し、ドラマの撮影、

色々なことが、頭を動き出す。



「ありがとうございます、でも、大丈夫ですよ。
追われて困るような場所へ行くわけではないので」



結局、最初から目的地はこちらだったと言うようにごまかし、

よく通う店の前へ止めてもらった。

予約などしていなくても、席さえ空いていたら通してくれる。


「これからも頑張ってね」


料金を支払い、応援に会釈し、店の前で降りると、

追って来た車は少し前へ向かい、曲がり角に消えた。





結局僕は、史香のアパートへは向かえずに、そこからマンションへ戻る。

ソファーの上に寝転がり、何もない天井を見ながら、携帯を取り出した。


「ごめんな、今日は行くって言ったのに」

『日向さん、ムリしなくていいんですよ。会えるときにはまた、会えますから』

「あぁ……」


いつもの史香の言葉。

『会えるときには会える』

それは確かにその通りだけれど、どんなことをしても会いたいのが、

『恋をしている』という、ことだと思うのに……


いや、史香も全てをわかっていて、僕にプレッシャーをかけないよう、

『気遣い』をしてくれている。




……それも全て、わかっている。

でも、空しい気持ちは、ぬぐえない。





ごめんな、史香……

その言葉を出せないまま、ただ、受話器を握り締めた。





それから何日か連続でリハーサルが行われたが、

史香のところへ向かうことは出来ずに、クリスマスだけが近付いた。




J&F(15)


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