J&F(15)

J&F(15)



今日のリハーサルは、本物の料理人が入ってくれて、指導をしてくれる。

カメラアングルの確認と、僕がどう演じたいのかを結びつけ、

より、本格的に見えるように、設定を決めていく。

そして……


「今日は、よろしくお願いします」

「はい。あの、菅沢さんは……」

「すみません、別現場から来ますので、少し遅れています」


先日お世話になった『BOOZ』の飯島さんが、約束通りスタジオに姿を見せてくれた。

タレントを主に扱う雑誌なら、こういった場所に出入りするのは普通だが、

『BOOZ』は少し趣旨が違うため、

スタジオでドラマ撮影を見るのはあまりないようだ。


はじめは衣装もつけずに、ただ動きだけをチェックする。

セリフを言いながら、周りのスタッフを演じる役者に、役柄の中で指示を出す。


「すみません、ちょっと止めてください。今のところなのですが……」


本物の指導者から声がかかり、お皿の並べ方にチェックが入る。

リハーサルから30分が過ぎ、スタジオの扉が開いた。

遅れてくると言っていた菅沢さんが姿を見せ、横には、一人の女性が立つ。


あなたの言うとおり、僕達はあくまで上っ面だけのものかもしれませんが、

それなりに見せるため、努力だけはしています。

そんなポイントが伝わってくれたらいいのだけれど。


最初の休憩の声がかかり、僕はあらためて『BOOZ』スタッフのところへ向かう。


「今日はお忙しいところを、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ遅れて申し訳ありません。それと……」


菅沢さんは隣にいた女性を少し前に出した。

その女性は、僕と田沢さんに名刺を差し出し、頭を下げる。


「樋山華乃と申します。カメラマンとしては『KANON』で仕事をしていまして、
今回、この企画と同時進行する写真集の方を、担当することになりました」

「『KANON』さん……って、あの、グラフィック新人賞をお取りになった」

「あ……はい。ご存知なんですか?」

「もちろん」


『KANON』さんかぁ……、グラフィック新人賞ねぇ……

田沢さん、朝から新聞を片っ端から読んでいるだけあってよく知っている。


「まだ、事務所を立ち上げたばかりなので、よちよち歩きです」


時々確認するように菅沢さんの表情を見る『KANON』さんと、

少し後ろに下がり、黙っている飯島さん。



この間のようなパワフルさがないけれど、

飯島さんが遠慮しないとならないような人なのかな、『KANON』さんって。


「とにかく、時間の許す限り、ここで撮影を見てください」


そのまま楽屋に下がり、用意されていた衣装をつける。

今までは締め付けのない服装だったから楽だけれど、

コック帽を被り演技をすることになると、それなりの違いが出てくるものだ。

頭を横に動かすだけでも、前と違って負荷がかかる。

被りなれているように見せないと、本当の上っ面。


リハーサルは午前いっぱい続き、二度目の休憩に入った。

『KANON』さんは仕事があるといい、先にスタジオを出て行くことになる。



「郁……」



呼ばれた菅沢さんは、『KANON』さんに何やら告げると、また椅子に戻った。

『郁……』かぁ、相当親しいんだな。


「飯島さん、どうでしたか? スタジオの見学は」

「はい、みなさんの真剣な表情に、こちらまでドキドキしてしまって」

「これが僕の仕事ですから」

「そう……ですよね」


飯島さんは何やらメモを取っていたようで、手帳に書き込みはじめた。

まさか今の言葉を、書き留めているわけではないだろうけれど。


「何かメモを?」

「すみません、さきほどの料理手順を私も覚えておこうかと……」

「あぁ……そうですか」


指導の方が説明していた料理手順。

確かに普段の生活でも役に立つかもしれない。


「飯島、先に編集部へ連絡して来い」

「はい……」


菅沢さんの指示に、飯島さんが田沢さんに頭を下げ、スタジオを出て行った。

スタッフもスタジオを出始め、広い場所に菅沢さんと残される。


「どうですか? 少しは僕が編集者を演じることに、納得していただけましたか?」


完璧にマスターすることは出来ないが、ただ、マネをするだけではないように、

僕らだって努力を続けている。

セットを作るスタッフも、ドラマをリアルに見せるため、

何店舗も資料を集めるのだから。


「はい……」


菅沢さんはそういうと、先日は生意気なことを言いましたと、頭を下げてくれた。

あれは、自分の職を愛するからこその言葉だと思い、

そんな謝罪は必要ないと返事をする。


「僕も真剣に、演じます。テレビを見た人に、編集者がどういうものなのか、
少しでもリアルに伝わるように……」


あくまでもドラマだから、綺麗ごと……と言われてしまうこともあるだろう。

それでも、演じる側が意識することで、作品のレベルはアップするはずだ。


「日向さん……」

「はい」

「こんな機会ですから、一つだけ、質問させていただいてもいいですか」


僕が俳優だからそう見るのだろうか。

それまで凛としている表情だった菅沢さんから、余裕が消えた気がした。


「答えられることなら」

「俳優のあなたなら、答えてもらえると思うので……」


僕は菅沢さんの隣に腰かけ、その質問を待つ。

静まり返った空気に、どこかで流れるブザーの音が重なった。



「思ってもいない人を、好きなのだと見せる演技と、
本当は大切だと思う人を、全く意識していないと見せる演技と……
どちらが難しいですか?」



心が向いていない人に、勘違いさせる演技と、

本当は好きなのに、それを悟られない演技……


「なぜ、そんなことを聞くのですか?」

「深い意味はありません……ただ、くだらない世間話だと思って、答えてください」


菅沢さんはそう言うと、誰も入ってこない扉の方を見ながら、軽く足を組んだ。




J&F(16)


みなさんのおかげで、発芽室4才になりました!
これからも、変わらずにおつきあいください
記念、そして励ましの1ポチ、よろしくお願いします YORO(v´∀`o)SIKU☆

コメント

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それは大変でした

拍手コメントさん、こんばんは
4周年のお祝い、ありがとうございました。

>PC故障により、やっと復帰いたしました

そうだったんですか、記念創作も他の創作も逃げませんので、
これからも都合がいいときに、お気楽にお付き合いください。

こうして声をだしていただけたこと、本当に嬉しいです。
淳平と史香も、まだまだ書きたいことがありますので。
それはじっくりと……