J&F(16)

J&F(16)



ドラマのリハーサルに、『BOOZ』の菅沢さんを招待した。

『編集者』を演じるのなら、上っ面だけわかったように演じられるのは嫌だと、

そう言われたからだ。

『方法』は違うけれど、『表現』するという意味では、僕らに共通点がある。

それ自体は、別ドラマのリハーサルに感じ取ってもらえたようだけれど、

その意気込みを利用され、逆に質問を受けることになる。




思いのない人を思っている演技と、思っている人がいるのに、心を隠す演技。

どちらが難しいのか……という問いかけ。

『くだらない世間話』だと思ってくれなんて言ったけれど、

この人が、そんなことを僕にするとは思えない。




心を見せることを、のぞかれることを、極端に嫌う人だから……




「ドラマでも映画でも、日向さんには必ず相手役がいるでしょう。
しかし、実際にその人を愛しているわけではない」

「まぁ、そうですね」

「でも視聴者には、まるで二人は普段から仲がよくて、
もしかしたら恋人同士なのではと思わせるように接していく。
それは立派な演技であって、本音とは言えないではないですか」

「演技……か」

「あなたの本当に思う人は別にいる。
だけれど、あなたはそれを回りに悟られるわけにはいかない」


俳優『日向淳平』にも、当たり前だけれどプライベードがある。

30才くらいの男が持つ、当たり前の気持ちを僕は……





確かに、隠して生きている。





「『好きな女性』くらい、いるでしょ。
いや、目の前にいても、あなたではないという顔をする。それも演技……」




この人は……きっと……




「俳優として……」




編集者としてではなく、一人の男として、僕に聞いているのだろう。

そう、『くだらない世間話』などではなくて……




「どちらが難しいですか?」




実は答えもわかっていて、それでも聞いてきている。





きっと……彼も……





『隠さなければならない思い』を、誰かに抱いているから……





初めて『BOOZ』編集部で会ったときから、

この人はやたらに本音を見せる人じゃないだろうなと、そんな予感がした。

どこか冷めているような、それでいて、心の奥には強い思いを秘めているような、

そんな……


「好きでもない人を、好きなふりという演技を、僕はしたことがないので、
どちらが難しいかと言う問いには、答えが出せません」

「したことがない?」

「はい」


共演者とは、いつもいい空気を保ちたいとそう思う。

年齢的にも難しい人はもちろんいるが、『共通点』があると、自然に寄り添えてくる。


「一緒に頑張る仲間意識みたいなものは、演技ではないと思うので。
でも、それも好意と言えば、好意です。男女間の感情ではなくて、同士という意味で」

「仲間意識……ですか」

「はい」

「それでも相手役の方には、あえて優しく接するように心がけたりはしていますね。
何ヶ月か、呼吸を合わせるためには、そういう気遣いも必要だと思いますし」


スタジオの扉が開き、飯島さんが戻ってきた。何やら菅沢さんにメモを渡す。

聞いてもよくわからないような指示がいくつか続き、その間も彼女はメモを取る。

どの業界でも先輩と後輩の関係は、変わらないのかな。


「でも……菅沢さん」

「いいから、言ったとおりにしろ」

「はい……」


飯島さんは納得のいかない顔のまま、また出て行ってしまう。


「トラブルですか?」

「たいしたことじゃありません、苦情処理のようなものです」

「苦情処理……」


よかれと思ってやったことでも、相手の要求に添えないことも確かにある。

田沢さんも、よくスポンサーに説明して回っているなぁ……


「そういえば、『BOOZ』は男性誌なのに女性の編集者がいるって、珍しいですね」

「はい……」


飯島さんが開けたスタジオの扉が閉まり、また、静けさだけになる。


「なんとか早く、出してやらないといけないので」

「出す?」


編集用語なのかなぁ、出すって意味が、僕にはよくわからないけれど。


「出すって、どういう意味ですか? 編集用語ですか?」


菅沢さんは編集用語ではないですと首を振り、場所を探すことだと付け加えた。

場所を探す……


「あいつが、いなければならない場所に、早く送り出してやらないと……」


飯島さんのいる場所は、ここではないのだと、そう言いたいのだろうか。

『BOOZ』は臨時で働いているということで……


「あの……」

「……だとしたら、日向さんは普段、
『隠す』演技だけをしているということですね」


菅沢さんが、僕の話を止め、元の方向へ戻してきた。

これ以上、入り込むことは許さないつもりだな。


「隠すというのは、どういう意味ですか」

「自分の本心は、見せないということです」


『隠す演技』、確かにそれをしていないと言ったら、ウソになるだろう。

立場上、誰にでも『恋愛事情』を語るわけにはいかないし。



でも……



ここのところの自分に対し、そのことで嫌気がさしているのも事実だった。

俳優を脱ぎ捨てた時間まで、俳優に縛られているなんて……


「そうですね、それをしていないと言ったらウソになるので」



こう答えたら、菅沢さんはどう思うのだろう。

ウソが嫌いなあなたなら、僕の言葉をどうとりますか?



「近頃、少しそれにこだわりすぎていた気がします。
『隠す』演技は、必要なこともあるでしょうが、体にも精神的にもよくはないですね。
難しいかどうかは別ですけれど……」


そう、『隠す』ことよりも大切なことが他にある。


「人が人を好きになることは、ごく自然で、当然のことだと思うので」


菅沢さんが編集者だと言う事もわかっている。

でも、自然とそう言ってしまった。

この人の話が『くだらない世間話』ではないことを、僕はわかっているから。



一人の男として、本音で答えを出した。



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コメント

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どうもです

拍手コメントさん、こんばんは

>あちらとこちらと、こんなふうにつながっているんですね。

二つのお話しのつながりを、感じてもらえたら嬉しいです。
まぁ、一つずつと考えてもらっても、全然構いませんよ。
残り2話も、よろしくお願いします。