J&F(17)

J&F(17)



菅沢さんの問いかけに、僕は本音を口にした。

『僕には好きな人がいます』そう宣言したも一緒だ。

ここに田沢さんがいたら、スタジオから引きずり出されるかもしれないな。


「人を好きになることは、自然なことですか」

「はい、隠しても出てしまうものだと思いますから、好きという感情は……」



史香が面接に行く日だから、朝から気持ちが落ち着かなかった。



史香が作ってくれた『野菜ジュース』だから、

飯島さんが目の前にいたのに、自然と取り出した。



史香の具合が悪いから、お世話になった人との食事会も、楽しめなかった。

隠しているつもりでも、隠せない。

それが『好き』だということ。


「悟られないことも、隠すことも、難しいですよ。
出来ているようで、きっと出来ていない。
好きという思いはそもそも、隠すものではないと思うので」

「隠すものでは……ないですか」

「人にウソをつくのも辛いですが、自分にウソをつくほど、辛いことはないでしょう。
菅沢さんも、自分の気持ちには素直になったらどうですか?
僕は演技をしますが、ウソはつきません。その時、その時の感情は、
大切にしているつもりです」


余計なことかもしれないと思ったが、自分に宣言する意味でも、

そう言い切ってしまった。



全く環境の違う男が、どんなことを考えるのか、

彼は、はじめからそこに興味があったのかもしれない。

だからこそ、気の乗らない話を引き受け、ここまで僕に会いに来た。



『好き』という感情を、この人も隠して生きているだろうと、そう思いながら……




「僕は、自分の思いを必ず伝えます」




菅沢さんからは、それから一言も言葉が出なかった。

5分後、飯島さんが全ての用事を終えたのか、スタジオに戻り、

『BOOZ』の二人は、見学を終了した。





「何よ、それ」


菅沢さんから受けた質問を、楽屋に顔を出した米原さんに振ってみた。

米原さんは一瞬だけ悩んだ顔をしたが、すぐに元に戻る。


「編集者って、活字で勝負するからかしら、理屈っぽいのね」

「あはは……理屈か、確かにそうかも」

「そんなの、『嫌い』なやつを、
『大嫌い』なんだって気持ちを隠すほうに決まっているじゃないの。
私なんて、顔に出るもの」


米原さんは、先日とあるアパレルメーカーで、

ちょっと癖のあるデザイナーともめる寸前だったと、あれこれ語りだした。

『嫌い』な人を、『大嫌い』なんだって……

そもそも質問と答えがあっていない。


「それで、あなたのデザインした服は、
私の仕事では使いません! とでも言ったの?」

「……ん? 言わないわよ、ひきつりながらも、頭だけ下げたわ」

「なんだよ、それ」


人の感情は、ある形になんて落ち着きはしないだろう。

その日も、米原さんの笑い話で、あっという間に夜まで向かった。





リハーサルも大詰めを迎えた。

セットも本格的になり、いよいよ撮影ムードが漂い始める。

しかし、それだけ機材が入り、スタッフは大忙しだ。


「故障で午後から?」

「あぁ……5時間あった予定を、2時間に短縮だそうだ。
まぁ、整備し切れていない機材を使って、何かあったら撮影どころじゃなくなるからな。
淳平は、楽屋で寝ていればいいよ。ちょっと時間があいてよかっただろ」

「まぁ、それはありがたいけれど、田沢さん何か?」

「俺は、MBCへ顔を出してくる。曽根が朝から行っているんだけど、
30分前に、メールが来てさ」

「メール……」


中途採用された曽根君は、今日、若手のタレント3名を引き連れ、

MBCテレビで放送している、『ちょっぴりクイズ』の撮影に向かった。

メインゲストは10名だけれど、その誰に投票するか、応援席で色々と意見を述べるのは、

新人たちの役目。


「保坂を連れて行くって言うから、それは反対した」


保坂かぁ……確かに、大騒ぎになりそうだ。


「わかった、じゃぁ、いただいた休憩、ありがたく……」


そう言いかけた時、自然と僕の目に時計が入った。

朝の9時を回ったところだ。

あと、30分くらいで、おそらく到着する。


「それじゃ、行ってくるな」

「はい……」


田沢さんの後姿を、楽屋の扉でしっかりと見送り、

僕は訪問客を迎えるため、帽子を深く被り、地下の駐車場へ急いだ。

『オレンジスタジオ』の駐車場には、2つの入り口がある。

僕らのような芸能関係者が停める場所と、

業者が品物を入れたり、スタジオ機材が運び込まれるためのものと、階が分かれている。

第1カーブの端で通り過ぎる車を見ていると、小さなボックスカーが姿を見せた。



……来た、来た



誰でも運ぶ時間は短い方がいいので、入り口付近に場所があれば、

そこへ停めるはず。

ランプが点滅し、バックする車を見ながら、タイミングよく近付いた。

運転席から出てきた人は僕に気付かず、トランクを開け、台車を下ろす。


「手伝いますよ」


こっちを向いた史香の口を左手で軽く押さえると、目を丸くした表情で、僕を見る。

そうだよね、それは驚くはず。でも、声は出さないで。

『なぜ? どうして?』の顔に向かって、状況を語る。


「午前中、スケジュールが空いたんだ、史香とデートしようと思って」

「デート?」


僕は史香からキーを受け取り、小さな車の助手席に乗り込んだ。

深々と帽子を被れば、誰もわかりはしない。

野菜を各店舗に運んだ史香が戻ってきたのは、それから10分後だった。



J&F(18)


みなさんのおかげで、発芽室4才になりました!
これからも、変わらずにおつきあいください
記念、そして励ましの1ポチ、よろしくお願いします YORO(v´∀`o)SIKU☆

コメント

非公開コメント

大切な人

淳平側からの視点も面白い!


>本当は大切だと思う人を、全く意識していないと見せる演技と……

さて・・ここで言う郁の大切な人とは?

諒が忘れてしまった和のことを、
自分が大切にしていきたいと???

yonyonさん、こんばんは

>淳平側からの視点も面白い!

ありがとう。
史香側からではないので、
感情を入れていくのは読み手のみなさん難しいかなとも思ったんですけど、
別視点からだと、メンバーの描き方も変えられるので、私は楽しかったんです。

さて、郁が残している言葉の意味……

それはもちろん『ケ・セラ・セラ』本編で!