J&F(18)

J&F(18)



「本当にいいんですか、こんな時間に外出して」

「シンデレラと一緒だよ。大丈夫、戻れないと思ったら、
ちゃんとタクシーを拾うから、行こう!」





助手を乗せた史香の車は、『オレンジスタジオ』を問題なく出ることが出来た。

あの警備員、何も疑わなかったな。

まぁ、普通、予定の空いてしまったタレントが、乗っていると思わないだろうしね。

渋滞も無い道は、順調に僕達を次の目的地へ運んでいく。


「日向さん、田沢さんに知られたら怒られますよ」

「田沢さんは、曽根君にすでに怒っているから、怒る気持ちの余裕がないよ、きっと」

「曽根君?」

「新しいマネージャー候補生。そうだなぁ、史香を倍以上ずうずうしくして、
史香よりも3倍のんびりしている」


どういうことなのかわからずに、首を傾げる史香。

いいんだよ、わからなくたって。


「ほら、前を見て」


いつも二人でいるときは、僕が運転手だけれど、うん……

史香の運転も、悪くはないな。


「次はどこ?」

「次は割烹料理のお店ですけど、大将が少し気の荒い人で」

「気が荒い? あ、前に怒鳴られた人?」

「最初だけです。今はたまにですから……」


たまに? 商売がうまくいかないことを、史香に当たっているわけじゃないだろうな。

あれこれ考えていると、あっという間に到着する。

出て行くわけにはいかないので、道路の反対側から店先の様子を見ていると、

出てきたのはまだ、学生のような見習いだった。

史香から野菜を受け取り、何やら話している。

ジェスチャーを見ると、どうも釣りに行ったことを自慢しているようだけど……


おいおい、いいのか?

奥から『荒い』のが出てきて、史香まで巻き込まれるって……あ、ほら!


『何を無駄話ばっかりしやがって!』と声だけは勇ましかったが、

見せた表情は、明らかに許してくれていた。

あれだけ体格いいおじさんが笑顔でいると、ほっとするのを通り越して、

少し怖い気もするけれど。

2人に丁寧に挨拶をした史香が、やっと車に戻る。


「ごめんなさい、待たせちゃって」

「いやいや、勝手に待っているのだから……」


それからも、史香は品物を下ろしながら、進み続けた。

ある店では取りに来るおじさんが、最近足を悪くしていると、

指定されている場所よりも、奥の店内まで運び込むサービスをしたし、

その後は、関係ない店で『サンドイッチ』を買い込み、

それを品物と一緒に届けに向かう。

定食屋のご夫婦は車がないため、以前、紹介した『サンドイッチ』を気に入っても、

なかなか買いに向かえないらしく、それを知った史香が、

届いたメール通りに、野菜以外のものまで、配達している。


「史香……ここまでする必要あるの?」

「必要があるかどうかわからないんですけど、楽しみにしてくれているので。
どうせお店の前を通りますから、買ってあげることは何分もかからないですし、
野菜の上に『サンドイッチ』が乗っていても、重たくなりません」


史香らしい理論だと思い、なんだかおかしくなった。

だから君は、田沢さんに怒られたり、仕事先においていかれたりしたのに……




どこに行っても、全然変わってなくて……




「そんなに笑うほどおかしいですか?」

「いや……」



ごめん、ごめん、おかしいから笑ったわけじゃないんだ。

史香らしいから、つい、顔の筋肉がゆるむだけ。



つけていたラジオから、樫倉英吾の声が聞こえてきた。

今は仕事に目一杯で、恋の余裕もないらしい。

彼女に伝えたんだろうか、『幸せになってくれ』という本音は。

まぁ、僕が聞くことではないけれど。





そこからまた、車は街並みの中を走り、定食屋、パン屋、

そして駅前の居酒屋へ順番に品物を降ろしていく。


「あ、そうだ、『BOOZ』の編集者さん、納得してくれたんですか?」

「あぁ……色々話もしたよ、男同士のね」

「男……同士……」


そう、男同士の話。立場は違っていても、共通するところがあったんだ。

不思議そうに首を傾げた史香。

いいんだよ、君は女性なんだから、知らなくていいこともある。



史香にとって、初めての仕事で心配もしたし、疲れも出るだろうと思ったけれど、

生き生き働いている姿を見ていると、それは僕の取り越し苦労だと、

あらためてそう思った。

いや、昔、僕のそばで動いていた史香のことも思い出すくらい……




『こんな君が好き』なのだと、あらためて思えるくらい……




何もないけれど、楽しい時間。




ドリンクケースの中に置いてあった、連絡用の携帯が、ピピピと音を立てた。

名前を見ると、慎司さんになっている。


「あ、日向さん」

「いいから、いいから」


宗也じゃないけれど、鼻をつまんで電話に出ると、

一瞬驚いた慎司さんが、すぐに笑い出した。

何をしているんだと問いかけられる。


「青空デートですよ」

『デート? なんだ、それ』


そう、これはデート。二人だけの時間なんだから、立派なものだ。

『オレンジスタジオ』に立ち寄ることを告げ、慎司さんとの電話を切った。

大きなビルが視界に入りだす。僕達のデートもそろそろ終了。

史香が降りるときに、『サンドイッチ』を持っていってほしいと後部座席を指差しする。


「僕の分も買ってくれたの?」

「はい、田沢さんの分も買いました。おすそ分けしてくださいね。
本当に美味しいんですから」


なんだ、そうだったんだ。

どこか抜けているようで、しっかりしているんだな、史香。


「ありがとう」

「ダメですよ! こんなこと、二度としては!」


史香らしくない強い言い方。キュッと口も閉じている。


「……と言わないとならないんですが、楽しかったです」

「うん……」


壊れた機材に……

寄り道を許してくれた慎司さんに……

仕事が覚えられず、田沢さんを振り回す曽根君に……

人を好きになることは当たり前のことだと、思わせてくれた菅沢さんにも……



そして……僕のわがままに、いつも笑顔でいてくれる史香に……



全てに『ありがとう』と言いたくなる。

『オレンジスタジオ』の駐車場に到着したのは、それから10分後だった。

ドアを開けようとした史香に、最大限の感謝を示すと、顔を真っ赤にして怒り出した。





……部屋ならOKで、駐車場ではNGってことか、よく覚えておこう。





何もなかったふりをして、楽屋に戻る。

シンデレラの魔法が見つかることなく、田沢さんは僕よりも30分遅く戻ってきた。





「どうしたんだ、このサンドイッチ」

「あぁ、美味しいですよ、それ」

「確かに上手そうだけど、米原さんからでも差し入れか?」


曽根君に全く響かない説教をした田沢さんに、疲れもイライラも取れますよと、

僕は『サンドイッチ』を勧めた。

具材が大きくて、パンも2種類。どちらもふかふかしている。




「僕の最高のファンからです……」




首を傾げる田沢さんを見ながら、僕もまた『サンドイッチ』を口に入れた。





『4周年記念創作』はこれにて終了です。いつもの史香目線ではなく、淳平目線……
みなさんにはどんなふうに映りましたか?
こんな機会なので……と、コメントがいただけたら嬉しいです。
さらなるパワーに変えちゃいますので(笑)

明日は、毎度の『あとがき』そしてこれからの予定について書きますね。
それでは、これからも『ももんたの発芽室』をよろしくお願いします。
お願いばかりですが、励ましの1ポチもお待ちしてます!  YORO(v´∀`o)SIKU☆


コメント

非公開コメント

これからも

毎日、楽しくここへ通っております。
頷いたり、笑ったり、読むことが私のパワーになります。
これからもももんたさんのペースで、
どうか続けてください。
淳平や史香にも、また会えますように。

コメント、ありがとうございました

清風明月さん、こんばんは

>毎日、楽しくここへ通っております。
 頷いたり、笑ったり、読むことが私のパワーになります。

毎日通ってくださるなんて、一番うれしいです。
好きなように書いて、続けているブログですが、
こうして楽しんでいただけているのが、
私にとっても、すごいパワーになります。

これからも、よろしくお願いします。

こちらに、まとめましたよ!

pocoさん、こんばんは

>淳平目線も、楽しいですよ。
 私は、この二人が大好きなので、また会えるのを楽しみにしています。

はい、ありがとうございます。
以前も、pocoさんには、淳平と史香が一押しだと、
コメントいただきましたよね。
すぐにとはお約束出来ませんが、必ず続きを書きますので、
あれこれ読みながら、過去作も読みながら……
どうかお待ちください。

コメント、ありがとうございました。