2 再会の時

2 再会の時



夢なのかもわからないまま、俺は一命を取り留めた。

集中治療室から個室へ、そして一般病棟へ移るのには、さほど時間がかからずに、

チューブだらけだった体は、少しずつ解放された。


「いいですか、国定さん、少しずつですよ、久し振りに喉を通してますからね」


声は出さずに、小さく頷く。

あぁ……食べることが出来るって、こんなにも素晴らしいことだったとは。

会社の同僚や先輩が、病室に代わる代わる顔を出してくれて、

病院の医師に『若いことは素晴らしい』なんて言われながらリハビリをし、

俺は予定よりも結構早く、社会復帰を果たした。



そりゃそうさ、この半年が勝負なんだぞ。

『本当の幸せ』とやらを、探しまくらないと、逆戻りだ。

カレンダーはすでにあれから1ヶ月が経過している。



そうだ、あの女。

リハビリに明け暮れていて、すっかり忘れていたけれど、あの女の行き先を調べないと。

あいつも半年後に『雲の上』行きだ。





知らない人の住所を知ることって、今は難しいんだよな。

ほら、個人情報保護法だとか、なんだとか……





病院を退院した日、マンションのポストには、水色の封筒が入っていた。

差出人はないし、消印も存在しない。

部屋に入って封を開くと、1枚の紙が入っていた。

中には2つの文章。



『『本当の幸せ』を探し出すのには、とにかく手と足を使おう』

『『前向き』というキーワードを彼女に語るのは厳禁、
もし、それを破った時には、すぐに終了』



なんだ、この文章。『手と足を使う』ってどういう意味なんだ。

なんとなく左指で文字に触れてみる。少し浮き上がったような文字は、

触れているうちに、少し薄くなった。俺は慌てて指を外す。

いけない、実行前に消してしまって、ここで終わりなんてことないだろうな。


それにしても、他人の人生まで背負わされたのか、俺……





「お帰り! 宏登!」

「ただいま……」

「いやぁ……驚いたけれど、驚きはダブルでさらに倍だね」


同僚の坂戸剛の大きな笑い声、いつもはうるさいと思うけれど今日は懐かしいわ。

確かにこいつの言うとおり、驚きはダブルで倍だしな……


あの事故の日、俺に突っ込んできて、巻き沿いを食わせた相手は、

うちの代理店に就職を決めた、永原青葉だった。

永原は、東京本社での研修期間を終えて、

次の日からこの『横浜支店』に出社予定だったが、その夜事故に遭い、そのまま入院した。


「普通ならさ、そこでクビだろ。
それがそうならないところが我が横浜支店、本部長の腕なわけさ」


巻き込んだ相手が、同じ会社の俺だったこと、

未来ある若者の門出に対し、『退職を迫る』という態度に出ることが、

いかに問題ある行動なのかと上司を説得した本部長のおかげで、

あの弾丸女の永原は、無事、『横浜支店』に入ることが出来た。


「さすがに我が社トップと噂される逸材だけあるね、本部長」

「おぉ!」


確かに……

あの人の実力は、誰もが認めるところだ。

『旅行代理店』という職業に対する熱意も、そして部下を指導する上司としても、

尊敬するだけある。

出世欲の強いエリートって、もっと冷めているものだと思っていたからね。

本部長が赴任してきてから、俺も何度助けてもらっただろう。

どうでもいいや……と思うときも、なんとか支えてもらって今がある。

あの人が上司でなければ、もうこの会社にもいなかったんじゃないかな。


「また、飲みに行こうぜ」

「あぁ……」





同僚との昼食を終え、遅れて出社してきた本部長に、

永原と一緒に挨拶をすることとなった。


「とりあえず、退院と復帰、おめでとう」

「ありがとうございます」


永原は少し遅れて挨拶をした。

あの日は声を聞く間もなく事故に遭ったんだ、顔だってまともに見たことないし。


「まぁ、体の調子が戻るまで、あまりムリのないようにしろよ。
楽しい旅行を勧める社員が、青白く不健康そうな顔をしているなんて旅行会社じゃ、
誰も申し込みをしてくれなくなるからな」

「はい……」


本部長のデスクの上にあった携帯が鳴り出し、

俺と永原に少し待ってくれの合図をすると、すぐに相手を確かめた。

相手は東京本社の上司らしく、丁寧な挨拶から入っている。


「あの……国定さん」

「ん?」

「あらためて申し訳ありませんでした」


永原は、俺の方へ体を向けると、深々と頭を下げてくれた。

退院は永原の方が1週間ほど早かったらしく、

そこで初めて俺が同じ会社の先輩だったことを知ったと言う。


「病室にご挨拶とも思ったのですが、きちんと揃ってからの方がいいだろうと、
本部長から言われまして……」

「あ……うん」


なんだか身長もあまり高くないし、体も強そうじゃないのにな。

どうしてあの時、弾丸のように飛んできたんだろう。

俺、不意だったとは言え、こんな女に突き飛ばされたわけ?


「あのさ……」


もう少し細かい事情を聞こうと思ったが、本部長の電話が終わり、

話はそこで途切れた。

休みの間に動いた仕事の書類を並べられ、

担当が少し変わったことなど、付け加えられる。


「これで、大丈夫か? 国定」

「はい……」

「少しデスクワークから入ってくれ。営業活動は体が本調子になってからでいい。
ちょうど永原が入ってきているし、カウンター業務を手伝ってくれないか」

「カウンター……ですか」

「そうだ」


俺と永原はそれぞれ頭を下げ、営業部へ戻った。

迷惑をかける営業部員に引継ぎの説明をし、カウンター業務の方へ席を移動する。


「いらっしゃいませ」

「あ……すみませんね、本部長さんいます? えっとなんていうお名前でしたっけ」


ご近所の『中華料理店』の奥さん、名前を覚えるのが下手なんだよな。


「本部長の深見ですね、今、呼びますのでお待ちください」


俺は、目の前で同じように荷物を並べる永原を一度見たあと、

内線電話の受話器をあげた。





約束の日が来るまで、あと……137日


3 自分の鏡

半年後の『リミット』、宏登が ↓ マークのような幽霊にならないように……(笑)
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コメント

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まさかの

アララ、信頼できる上司は、深見さんだったのね。

以前幸せをつかんだのは、深見さんの奥様よ〜
と教えてあげたいわ(≧∇≦)

しかも事故の原因が同僚・・・
なかなか刺激的な職場だわ。

やはり……です

拍手コメントさん、こんばんは

>『本部長の深見』やはり彼の名前が出てきましたね。

はい、やはり……出て来ました(笑)
1話を読んだだけで、絶対に出てくると思ってくれた方もいたようです。
まぁ、『リミット』の顔とも言える存在なので、
これからそう関わるのか、それは本編にて。

教えたいけどね

yonyonさん、こっちにもこんばんは

>以前幸せをつかんだのは、深見さんの奥様よ〜
 と教えてあげたいわ(≧∇≦)

あはは……そうだよね、教えたいよね。
まぁ、『リミット』ですからね、彼を無視は出来ません。
どう関わるのかは、これからじっくりと。