7 彼女の理由

7 彼女の理由



あの日、永原が飛び込んできたおかげで、何も関係がない俺まで死ぬところだった。

いや、今だって半年の猶予をもらって生きているだけで、

あの老婆の課題をクリアしなければ、また『雲の上』に逆戻りしなければならない。

永原を『前向き』にしろと言われた課題も覚えているけれど、

それよりも何よりも、こいつの言い分が気に入らない。



ふざけるな! 誰のせいで、俺がこんなことになっているんだ。

お前のせいだ!



「お前が、入社早々あんな事故に遭って、大変だと思うからみんな黙っているんだ。
やる気のない態度ばかりとっていても、客をあんなふうに怒らせても、
永原はまだ大変だからって、お前に気を遣っているんだよ」


まずい……ここらへんで止めないと。

俺、とんでもないことまで口走りそうな気がする。


「やる気がないなら、どうして自分から辞めないんだ、この業界に入りたくて、
日々努力している人だって大勢いるんだぞ。何があったのか知らないけど、
私のことはほっといてください、何をしても黙っていてくださいなんてルール、
あるわけないだろうが」


誰か……

誰か俺を止めてくれ!


「国定さんは、私が辞めたら、それで満足ですか」

「は?」

「辞めますって辞表でも出せば、それで納得してくれますか」


まずい……

このまま辞表を出されたら、俺、任務の遂行とは全く逆方向へ向かってませんか?

でも、引っ込みがつかない。


「おぉ! 嫌なら辞めちまえ! その代わりな、お前を残すために、
本社へ足を運んで、何度も上司達を説得した深見本部長にだけは、頭を下げて行けよ。
あの人がOK出さなければ、認められないからな」


という言葉を永原に投げつけ、背を向ける。

永原から、何も戻ってこないけれど、本当にこいつ、辞表出すつもりか?

結局、深見本部長の名前を出して、責任をなすりつけた俺。

あの人なら、永原が辞表をもし出したとしても、きっと止めるだろうし。

咄嗟に、逃げた自分が、ひどく格好悪い気がするんですけど。




永原が辞表を出したという話は聞かないまま、また1週間が過ぎる。





「はぁ……」


『前向き』任務は、全く進まないけれど、自らの『本当の幸せ』には一直線。

すっかりよりを戻した桃子とは、また以前のような関係が戻って来た。

食事の片付けを済ませたいからと言った桃子より、先に風呂へ入る。


「桃子、空いたよ」

「あ……うん」


棚に手をかけていた桃子が、ちょっと驚いたようにこっちを見た。

片手には雑巾。なんだ、それ。


「何? どうした」

「うん、ちょっと棚の上のほこりが気になったから」

「あ、ごめん、掃除してないな、その辺」

「でしょ、そうよね、宏登忙しいし……」


桃子は、自分が出てきたら冷蔵庫に入っているワインを飲もうと言いながら、

風呂場へ消えていった。生乾きの髪の毛をバスタオルで拭きながら、

なんとなく桃子がいた場所が気になり、見てしまう。

掃除かぁ……掃除ねぇ……

あいつ、そんなに細かく掃除なんてする方だったっけ?

確かに、乱雑に置いた雑誌や郵便物は、ちゃんと整えられてあるけど。



まぁ、あまりあれこれ追求するのは辞めておこう。

せっかく戻って来たのに、また、くだらないことでケンカをしたら、

この心地よい生活も振り出しになってしまう。



『本当の幸せ』



せっかく、こうして整ったのだし。崩すのは、もったいないだろう。

あの事故からもう2か月以上経ったんだ。あっという間のような……



俺はこのまま、生き残れそうな気がするけれど……

永原は……

あいつは、このままだと……



「あぁ、もう、俺の責任じゃないだろうが!」


バスタオルを放り投げ、見たくもないカレンダーに当ててみた。

俺は精一杯やってますからね、受け入れないのはあいつの方ですから!





暦は真夏から秋の入り口へ向かった。

旅行シーズンに入り、あちらこちらに社員達が出動する。

どんな肩書きを持ったものも、全て現場を経験するというのが、我が社の決まり。

とはいっても、さすがに本部長となれば、添乗員をするわけにはいかず、

無理をするなと言われた俺と永原、そして本部長は社内に残ることが多い。


「国定さん、これ、確認お願いします」

「ん? あぁ……」


あのケンカ以来、永原とは挨拶をする程度の日々が続いている。

それでも、あいつは少し変化を見せ、無駄だなと思える客にも、

とりあえず食らいつくようにはなった。

今までは、気に入らない客には、さっさと背を向けていたのに、

今は一応……



「それでは、こちらのツアーも参考になさってください。
いえ、特に申し込みをお願いしているわけではありませんので……」



そんな声もかけている。

それでも、ちょっと指摘すれば……



「それは私の仕事とは関係ないと思います」



あ、そうですか、確かにね。


「わかったよ、そこに置いてくれ。俺がやっておくから」

「はい」


任されたこと以上のことには関わらない。

その方針には、どうも変化がないようだった。





事故で怪我をした治療も終了し、半年後にくればいいと言われた俺は、

さらに桃子との時間を増やした。

以前、どうして別れたのかもわからないくらい順調だ。


「宏登……」


以前より、なんだか積極的になった桃子を抱き締めながら、

自分が本当に生きていることを実感する。

俺、幸せですよ……神様! 聞いてます?


「ねぇ……宏登」

「ん?」

「お願いがあるの」

「なんだよ……」

「10万、貸してくれない?」


桃子は、俺にすがりつくような目を向けた後、胸にそっとキスをした。





約束の日が来るまで、あと……104日


8 彼女の秘密

半年後の『リミット』、宏登が ↓ マークのような幽霊にならないように……(笑)
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コメント

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知りたい病(笑)

ゲーー;最後のセリフ、やなyokanじゃない予感ーー;
桃ちゃ~ん、宏登を泣かせないで~

しかし、永原ちゃんにはどんな過去があるんでしょうか?
飛び出しの理由も何があるのか・・
知りたい、知りたい・・・
知りたい病発生^^;(笑)

急に戻ってきた桃ちゃんが嫌な感じだったのよね。
まさか?

少しは宏登の言葉が効いたかな?

予感は当たるのか?

yokanさん、こんばんは

>ゲーー;最後のセリフ、やなyokanじゃない予感ーー;

あはは……yokanじゃなくて、予感ですね。
さて、桃子には何があるのか、青葉にも何があるのか、
宏登の半年も、ふんわりとはいかないようです。

知りたい病が、ますます大きくなって、
yokanさんが最後まで、読みに来てくれますように……(笑)

さて、真実は?

yonyonさん、こんばんは

>急に戻ってきた桃ちゃんが嫌な感じだったのよね。

yonyonさんは、最初から『?』があったんですね。
さて、疑いもなく受け入れていた宏登ですが、
桃子には何があるのか。

宏登にガツンと言われた青葉は……
で、まだまだ続きます。