9 出会いの意味

9 出会いの意味



少し鼻っ柱の強そうなホストが、わがままを言い出したため、

うちの永原がまた、正論をストレートに言い返し、

とあるホストクラブは一触即発の雰囲気を醸し出したが、

そこはエリートオーナーが機転をきかせ、止まりそうになった時間を引き戻した。


「永原……おい、永原」

「聞こえています」


書類を届けた帰り道、低いヒールの音を相変わらずカツカツさせながら、

永原は俺の前をさっさと歩く。

話したくないんですけど光線が、見えていないけれどハッキリわかった。


「あんなふうに好き勝手なことを言って、豪華旅行をするなんて、
それだって女性から巻き上げたお金ですよね」

「巻き上げたって、それは問題発言だぞ。ホストは立派な職業だ。
サービスと引き替えに、客はお金を払うんだから、料金が気に入らないのなら、
来なければいい。それは旅行だって、変わらないだろう」


サービスに見合った料金設定。

それを選ぶのは、あくまでも客自身。

そこから永原は口を開くことなく、互いに車窓から見える景色だけを追い続けた。





永原が、誰かとケンカをしようが、

ホストが、お金持ちから高級酒のオーダーを取ろうが、

関係ない俺にも時間は過ぎて、また今日も一日が終わる。


カレンダーは、その日が晴れでも雨でも、着実に1歩ずつ進む。

桃子に会えないかとメールをしたが、今日は用事があると言われたし……


「国定」

「はい……」


残った書類を仕上げていると、声をかけてくれたのは本部長だった。

また何か、迷惑でもかけたのか?


「何か、提出書類に問題がありましたか」

「いや、そうじゃないんだ。今日、この後用事でもあるか?」

「……いえ……特に……」





本部長に誘われて付いていったのは、細い路地に入った場所にある、串焼きの店。

カウンターと、数席しかない。


「国定に悪いことをしたんじゃないかなと、そう思って」

「悪いこと? 俺にですか」

「あぁ……お前、永原のことをあれこれ気にしているだろう。
俺があの質問をされた後、少し様子を見てくれだなんて言ったせいで、
逆にプレッシャーをかけたんじゃないかと思ってさ」


仕事に復帰してすぐに、永原の態度を見た俺は、

本部長に、どうして会社に残したのかと詰め寄った。

そうか……あのことで、俺が永原を気にしているんだと、そう思っているんだ。

まさか、老婆に永原を前向きにしろと言われたなんて、信じてもらえるわけもないし。


「いや、本部長のせいじゃないですよ。あいつの言い方とか、仕事の仕方が、
カチンと来るだけです」


そう、どこか冷めていて、どうでもいいんですと言いたげな、

永原の態度が気に入らないだけです。

本部長をはじめとした社員達が、本当は気を遣っていることにも、

永原は全く気づいていないようですし。


「永原は、車に飛び込んだんです」

「……だろうな」


驚くような様子もなく、本部長は俺の言葉に頷いた。

やはりこの人は気づいている。永原が自ら車に飛び込んだこと。


「どうして、そう思うんですか? 本部長は事故現場にいたわけじゃないですよね」

「あぁ……その場にいたわけではないよ。でも、国定と似たような経験を、
俺自身したことがあるからさ」

「似たこと?」


本部長は仙台支店で部長をしていた時、女性を助けた話をしてくれた。

信頼していた男に裏切られ、自分の将来を悲観し、

走ってくるバスに飛び込もうとした女性を咄嗟につかみ、

タクシーにぶつかった衝撃で、停留所のパイプに腕を強打した。


「お前たちの事故の知らせを聞いたとき、すぐにこのことを思い出したんだ。
永原が歩いていて事故に遭ったのなら、お前にぶつかっていくはずはないだろう。
車しか見ていない状況だったから、国定を巻き込んでしまった」


そう……あいつは弾丸だった。

あの小さな体で、とんでもない力をぶつけてきた。

そうとう、強い気持ちで、飛び込んだに違いない。


「国定にとってみたら、迷惑だけしかないだろうけれど、
でもな、永原にとって見たら、相手がお前だったことが、大きい気がするんだ」

「俺だったことが……ですか?」

「あぁ……人の出会いには、必ず意味がある気がする」


人と出会う意味。

そんなこと、今まで考えたことがなかったけれど。


「旅行代理店という職業柄、色々な人と出会うけれど、
それでも、一生の間で一度も会うことなく亡くなる人の方が多いはずだ。
だからこそ、出会ったことに意味がある、そう思う」


本部長の言葉をそのまま借りるのだとしたら、

俺と永原が、あの場で一緒だったことに、大きな意味があるとそういうことになる。

『出会い』かぁ……


「そういえば、本部長の奥さんは、うちの社員だったって……」

「あぁ……そうだよ。誰に聞いた」

「この間、『さいたま支店』に出かけた時、主任の秋山さんがそう言っていました。
秋山さんの奥さんと、本部長の奥さんは同期だって」

「そう……今でも仲がいいよ。子供が互いに産まれて、
しょっちゅう情報交換している」


本部長の進み具合を見ながら、一緒に串焼きを食べてみるけれど、

うまいな……これ。


「東京西支店に来る前、俺は仙台にいたんだ。それをなぜか急に半年だけ、
東京に行ってくれと言うことになって、渋々だった。
あまり成績のいい支店ではなかったし、半年しかいないのなら、
入り込んで仕事なんて出来ないだろうし」


その頃の本部長は『主任』ポストだった。

それでも年齢からいったら、社内でトップとも言える出世だったはず。


「後からわかったことだけれど、その当時、咲……うちの奥さんの名前だ、
彼女はとても大きな問題を抱えていて、それに押しつぶされそうだった。
でも、結果的に俺が彼女を救うことになった。それを知った時、
初めて自分が仙台から東京へ来た意味が、ここにあるんだってそう思えた」


すごいおのろけを聞かされている気がするけれど、なんだろう、嫌じゃない。

本部長の言いたいことが、妙に伝わってくる気がするのは、

なぜなんだろう。


「永原が飛び込んだところに、国定が立っていたという意味が、
きっとこれからわかる気がするんだ」


これだけの人間が生きている中で、その一人……になった意味。


「だからと言って構えるなよ、無理に関わろうとする必要はないから。
きっと、自然とわかってくるはずだ」


あの老婆が、なぜこんなことをさせるのか、

その意味もわかるんだろうか。




『何年か前にはいたんだよ、ちゃんと『本当の幸せ』を掴んだ女が。
今や素敵なだんな様と、二人の子供に恵まれて幸せになっている』




ん? どうしてそのセリフを思い出すんだ? 俺。


「うまいな、これ」


そう言えば、本部長の家、秋山主任のところと一緒に、4月に子供が産まれたんだよな。

上の女の子は凛ちゃんで、今度の駿君が2人目。



『その当時、咲……うちの奥さんの名前だ、
彼女はとても大きな問題を抱えていて、それに押しつぶされそうだった』



奥さまが、『雲の上』から戻って来た……なんてこと、ないですよね、本部長。

もちろんここで聞くわけには、いかないのですが。





約束の日が来るまで、あと……100日


10 本当の美

半年後の『リミット』、宏登が ↓ マークのような幽霊にならないように……(笑)
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コメント

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彼が取り持つ縁

人との出会いは数が限られてる。

地球上にどんなに沢山の人が居ようが、出会える数なんて知れている。

出会うことに意味がある。本当にそう思う。

ももちゃんとだって切っ掛けが無ければこうしていなかった。
不思議だけれどありがたいな、と思う。

そうだね、彼だね

yonyonさん、こんばんは

>地球上にどんなに沢山の人が居ようが、出会える数なんて知れている。

そうそう、いつもニュースとか見ながら、
『この放送がなかったら、この人のこと一生知らなかったな……』なんて思いながら見ているんだよね。

彼と、ネットと……
本当だ、yonyonさんとも、こんな時間がなかっただろうね。
こちらこそ、ありがたいです。