10 本当の美

10 本当の美



『人との出会いには必ず意味がある』

本部長にそう言われちゃなぁ……永原の前向き作戦、最大限に実行するしかないけれど。

あいつがもう少し、人の言うことに耳を傾けてくれる性格なら、

こっちだって本腰入れて……


「桃子……」

「宏登」


マンションへ戻ってきてみると、玄関前に桃子が立っていた。

今日は会えないはずじゃ、なかったのかな。

いやいや、そう思っていても会いたくなるのが男と女。


「悪かったな、外で待たせて」

「ううん……」


桃子は部屋に入ってきても、座ることなくソファーの前で立っている。

どうしたんだろう、何か仕事で失敗したのか。


「座れよ、とりあえ……」

「お願い、あと10万円だけ、10万円だけ貸して欲しいの!」


桃子は言葉よりも先に、その場で土下座のような格好をした。

時代劇で、悪いことをした男が観念し、

なんとか打ち首だけは……と頼み込むときの姿勢に見える。


「よせよ桃子。どうしたんだ、そんな……」

「だって……どうしてもあと10万円が必要なんだもの」


理由はこの間聞いたことの延長戦で、手術した後のお金も、

少しだけ送ってやりたいということだった。

10が20になっただけだし、桃子の必死さを目の当たりにして、

無理ですとは言えないし……


「ありがとう、宏登、本当に感謝している」


そう言って、桃子が腕を回してきたけれど、彼女の積極さとは逆に、

俺はどうもスイッチが入らない。

『お前も大変なんだな』なんていう言葉だけを付け加えて、

その日は、結局、抱き締めていることが出来なかった。





次の日、仕事の途中でいつもの銀行へ。

ロビーでは、少し年配の客に、接客係が声をかけている。

『オレオレ詐欺』に引っかかる人が多いからなのだろうけれど、

みんな、自分は大丈夫です……と鼻で笑い返すだけだ。

おろした金をバッグに入れ、そのまま『横浜支店』を目指す。

今日の夕方、桃子が支店近くの喫茶店に顔を出すと約束してくれた。



『本当の美をあなたに……』



隣のビルで営業している化粧品売り場の前に、こんなキャッチコピーがかかっていた。

『本当の美』かぁ……。



『本当の幸せ』



桃子が戻ってきて、失った物が帰ってきた気がしていたけれど、

これで『本当の幸せ』をつかんでいるのかどうか、なんだか危うい気がしてきた。


「いらっしゃいませ」

「あの……ちょっとうかがってもいいですか」

「はい、結構ですよ、今では男性化粧品も多く取りそろえておりますので」


そうか、俺、化粧品を買いに来たと思われているんだな、当たり前だけど。

店員の言うとおり、すごいラインナップだ。


「あの……こちらの化粧品を使ったら、『本当の美』を得ることが出来るんですよね」


お薦め商品を取り出そうとした店員は、一瞬戸惑いの顔を見せたが、

そこはプロ、すぐに修正する。


「はい、我が社の化粧品を使っていただけば、
『本当の美』を得ることが出来ると思いますよ」


『本当の美』


「でも、ただ、化粧をしたから得るというものではなくて、
ご自分の魅力を最大限いかせるメイクをすることで、
下向きになっていた顔を、前に上げていただいて、
しっかり自信を持ち、一歩前へ進んでもらおうと思っています」


下向きを、前向きに?


「そうすれば、表面だけの美しさではなく、心の内側から出てくる自信とか、
目標に向かう姿勢とか……そういったものが全てプラスに働いていくんです」


心の内側から出てくる自信かぁ……

確かに、自信を持っている人は、下を向いて歩いてはいない。

自信があるということは、どんどん前へ進めると言うことで……


「ありがとうございました」

「あ……あの」

「また、来ます」


桃子が帰ってきたからそれでいいのではなくて、

しっかり向かい合って、悩みも一緒に解決するくらいの勢いがないと、

『本当の幸せ』にはたどりつかないのかもしれない。

あいつの家が大変なのなら、もっと大きく助けてやる方向へ話をしないと、

目先のお金だけ渡していたって、何も変わらないのだから。





「また永原とですか?」

「あぁ……今朝、営業部の方へ社長から電話が来たそうだ。
今日の最終書類の届けは、ぜひ二人で一緒に来て欲しいと」


本部長に呼び出されたので何かと思えば、

あのホストクラブへ、また永原と一緒に出かけるのか。

一昨日は、揉めそうになるのを、向こうの社長が押さえてくれたけれど、

それじゃ納得がいかないとかなんとか、ホスト達が暴れたのかも知れない。


「国定と永原に、ドンペリを飲んでもらいたいそうだぞ」

「ド……ドンペリ? いや、俺はいいです。そんな金ないですし」

「社長のおごりだそうだ、1杯だけだけど」


勝負なら受けて立てと、本部長は楽しそうにそう言った。

深見本部長なら、どんな相手とでも戦う気持ちになるんでしょうね。

俺は、揉め事嫌いですし、一緒に永原がついていくんですよ、

また面倒なことにでもなったら、あいつの『前向き』どころか、

俺の『本当の幸せ』も遠のきそうなんですが。





永原と出かけるのはあと1時間後、その前に俺は駅前にある喫茶店へ向かう。

ポケットに入れてあるのは、桃子に渡すための10万円。


「あ……宏登、こっち」

「うん……」


桃子は封筒を受け取ると、また何度も頭を下げてくれた。

すぐにでも立ち上がりそうになるのを止めて、とりあえず座れと合図する。


「何? 私、急がないと」

「わかっている、5分でいいよ」


桃子は少し不服そうな顔をしながらも、その場に腰を下ろした。

俺はあらためて桃子の顔を見る。


「なぁ桃子。次に会う時に、きちんと話をしたいんだ」

「話?」

「あぁ……こうやってその場限りの繕いをするんじゃなくて、
解決しないとならないことがあるのなら、一緒に考えて……」

「わかった、次に話すから、とにかく今日はこれで」


桃子はまたすぐに立ち上がり、コーヒー代金をテーブルに置く。

もう一度止めようとした俺の手を振りき切り、こちらを見ることなく店を出て行った。





約束の日が来るまで、あと……99日


11 あちらの席

半年後の『リミット』、宏登が ↓ マークのような幽霊にならないように……(笑)
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コメント

非公開コメント

怪しいね~ーー;

桃ちゃん、怪しいーー;

『人との出会いには必ず意味がある』
私もそう思います
最近、特にそう思うようになりました

さて、ドンペリの意味は?
相変わらずの永原ちゃん
次回が楽しみです^m^

ん??

ますます怪しい桃・・・(--;)

宏登には気にしなきゃならないことが色々あって
大変!

なのに又ホストクラブへ青葉と共に・・
ドンペリ?やだ、私も飲んでみたい。v-272

怪しさ全開!

pocoさん、こんばんは

>なんだか怪しいですね桃子さん

怪しいですよね、20万円ですし。
宏登も内心、『?』マークが取れていないはずで。
今夜も更新しました。
みなさんの疑問が、晴れるといいのですが……

出会いを大事に……

yokanさん、こんばんは

>『人との出会いには必ず意味がある』
 私もそう思います

私も、近頃思うようになりました。
また、そう思うことで、つながりを大切に出来る気もしますしね。

>さて、ドンペリの意味は?

はい、どんな意味があるのか、本日も更新しています。
相変わらずの永原ちゃんも一緒に、見てやってください。

ドンペリさん

yonyonさん、こんばんは

>ますます怪しい桃・・・(--;)

でしょ。
いささか宏登も『?』マークがつきました。
さて、どんなことなのか、本日も更新しました。

>ドンペリ?やだ、私も飲んでみたい。

あはは……私も飲んだことはないよ。
飲んでみたいと言いたいところだけれど、全く飲めないし……(笑)