14 人の心

14 人の心



永原は彼氏と親友に裏切られ、俺は桃子に裏切られた。

確かに失うものはないほうがいいけれど、きっと掴んだものもあるわけで……


「平気で浮気なんてする男と、別れられてよかったんだぞ。
お前があの事故で死んでしまったとして、少しは嫌な気持ちにもなるだろうけれど、
どうせ人の心がわからないやつなんだからさ、あっという間に忘れるよ。
そうしたら、お前死ぬだけ損じゃないか」


インパクトで死のうとしただなんて、全く。

永原らしいといえば、らしいんだけど。


「それなら国定さんも、あの元彼女の本性が、ここでわかってよかったんですよ。
普通のOLがホストになんていれあげていたら、
お金だけ取られて、人生まっさかさまですから」

「まっさかさまか……お前、きついねぇ……」

「それくらい思わないと、腹が立つからです」


まぁ、確かに。

桃子が俺から金だけを引き出そうとしていたのなら、

そのためによりを戻したような素振りをしていたのなら、

ここで見つけてよかったのかもしれない。

『本当の幸せ』なんて、目の前のものを貼り合わせただけでは出来ないと、

教えてもらえたと思うべきなんだろうか。





ショックな出来事から立ち直り、仕事を終わらせた後、

もどった自分の部屋をあらためてみた。

小さなクッションがベッドにある。普段、これはここにないものだった。

一つしかない枕、その代わりに、桃子が頭を乗せていた。

あまりにも当たり前のように……



でも、あいつの荷物は、ここに一つもない。

昔、出入りしていたときには、ちょっとした着替えや小物を、

自分で置く場所だって、決めていたくせに。



そうか……そうだったんだ。

桃子は最初から、ここへ戻ってくる気持ちなどなかったんだ。

俺は小さな棚を開け、水色の封筒を取り出し、カレンダーを見た。



『半年』の期日まで、確実に一歩ずつ近付いている。



下を向いている暇なんてない。

あと3ヶ月、精一杯のことをしなければ、その後の俺は……



『雲の上』になるのだから。





「おはようございます」


それでも、日々は一気に変わることなく、カレンダーは10月を越えていった。

体も元に戻ったので、仕事も以前の場所へ戻される。

永原は相変わらずカウンター業務をこなしているが、

夏に比べたら少し変化を見せた。


「うーん、やっぱりこれしかムリだわ」

「……そうですか」


以前ならここで『さようなら』と手を振るところだったが、

今日はそうではないようで、何やらファイルを取り出し客に選択肢を与えようとする。


「お客様、こちらはどうでしょうか」

「これ?」


予算よりは少しオーバーだけれど、それだけの得があるとアピールする。

それでも客はなかなか首を縦には振らない。

結局、契約まで取ることは出来ずに、客は席を立った。

それでも、仏頂面して客を帰していた時から比べたら、進歩。


「国定さん、『淡路サイクリング』からお電話です」

「はい」


『淡路サイクリング』は、駅から歩いて10分ほどの場所にある自転車店だ。

御夫婦で経営していて、地元の学生などが朝、

空気入れで空気を入れている光景などもよく見かける。

叔父さんも叔母さんも気のいい人で、

営業成績が上がらず、俺が下を向いて歩いていたりすると、

作業をしながら声をかけてくれたりもした。

従業員は全部で7人。

毎年、冬のあまり観光が動かない時期に、社員旅行を計画する。



『国定さんに任せるよ』



という言葉をいつも利用させてもらって、

恩を売りたい旅館などに行ってもらえるよう、頼んだこともあった。



『それで大丈夫かい?』



お金を払うのは自分たちなのに、いつもこっちを気にしてくれて……


「はい、もしもし国定です。すみません、ご無沙汰していて」


奥さんはそんなことはいいんだよと、いつものような明るい声を出してくれた。

来年の社員旅行について、打ち合わせでもあるのかと思いカレンダーを見る。



『来年』



そう言えば、俺、期限付きで生きているんだっけ。

このままの生活を送っていて、それで来年が来るわけ?

受話器の向こうから、『国定さん』と何度か呼びかけられ、我に返った。


「社員旅行の打ち合わせですか?」


奥さんは今回はそうではないと、内容を細かく語り出した。

『淡路サイクリング』のご主人には、5つ年上のお姉さんがいるが、

アメリカ人と結婚し、今はハワイに住んでいる。

そのご主人が入院したことで、動けるうちに日本を見ておきたいと思い、

この夏に退院した後、その連絡があった。


「京都と奈良を中心に……ですか」


俺はメモを取り出し、奥さんから聞いた予算をすぐに書き留めた。

20年以上日本には来ていないため、新しい所と古いところを両方見たいというのが、

向こうの希望なのだそうだ。


値段を何度もボールペンで黒丸にし、相づちを打ちながら、費用の計算をする。

正直、余裕はない予算だな。


「そうですね……」


デスクに立てかけてあるファイルから、『シルバームーン』の企画を取り出した。

ここに載っているホテルや旅館からチョイスすれば、それなりの値段でおさまるだろう。

自由時間もあるし、オプションで観光地を組み込めば……

そう思いながらパンフレットをめくっていた手が、ピタリと止まった。


「最後の旅……ですか」


ハワイに住むお姉さんのご主人は、すでに病の中にいた。

若い人ではないので、進行はゆっくりだが、

今を逃せば遠出は難しいと、医者から言われたらしい。



『最後の旅』



その言葉が、どこか決めごとのように動いていた俺の手を止める。

パズルのように、予算を当てはめようとしたパンフレットを、左手が勝手に閉じた。





約束の日が来るまで、あと……78日


15 最後の旅

半年後の『リミット』、宏登が ↓ マークのような幽霊にならないように……(笑)
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コメント

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なんだかすっきり^^

宏登も永原ちゃんもなんだかすっきり^^
特に永原ちゃんは一歩前に進んだ気がするわ

物事は捉え方で随分と変わるものですね
悪く考えるも、良いほうに考えるも自分次第
ならば、良いほうに考えないと損ですよね

「最後の旅」どんな企画を宏登が出してくるか・・・

最後か~

見せつけるための事故、でもそれで運転手は?
そっちは考え無かったの?
青葉も自分勝手なんじゃ?

兎に角生きていて、仕事をしてるんだから、
少しは前向きになってるのではないですかね~

最後・・・重い言葉だな~

どう転ぶのか

yokanさん、こんばんは

>物事は捉え方で随分と変わるものですね
 悪く考えるも、良いほうに考えるも自分次第

はい。そう思います。
ただし、どっちに転ぶかは、やはり気分もあるでしょうし、
状況もありますからね。
青葉には、宏登の失敗を目の当たりに出来たことが、
一つ変化をもたらした……のだと。

『最後の旅』

今の宏登には、結構ずっしり重いでしょう。

マイナスからスタート

yonyonさん、こんばんは

>見せつけるための事故、でもそれで運転手は?
 そっちは考え無かったの?
 青葉も自分勝手なんじゃ?

そうだよね、もちろんスピードを出していた運転手だったけれど、
青葉も自分のことだけしか、考えていなかった。
それが、仕事を始めてからもずっと続いていたんです。

宏登の失敗を目の前で見て、
気持ちがどう変化していくのか……

マイナスをプラスに……なるのかな?