17 恩の返し方

17 恩の返し方



次の日、いつもの電車に乗り、『横浜支店』への道を歩いていると、

少し前に剛の姿を発見した。そこから早歩きをすれば、あっという間に追いつける。


「おはよう!」

「おぉ……」


いきなり昨日はどうだった? と聞くのもなぁ……

でも、気にはなる。


「昨日は楽しい飲み会だったぞ、お前も来ればよかったのに」

「……ほぉ」


楽しかったのか。

それならよかったけど。


「永原さんってさ、確かにものをハッキリ言う子なんだけれど、
俺は嫌じゃないなぁ」

「あ、そうなんだ」


そうなんだ、嫌じゃなかったんだ。

それなら、また誘ってやれよなんて余計な一言を付け加えて、

俺は営業部へ入っていく。


「国定さん!」

「なんだよ、またコピーに忘れ物でもあったか」

「いえ……どうなったのか心配しているだけです」


昨日はお前のアイデアに黙ったままだったけれど、

それ以上のものを組み上げたと、つい、勢いよく語ってしまう。


「深見本部長にお願いしたんですか?」

「……なんでわかるんだよ」

「少し前に京都支店の里塚さんから、国定さん宛にFAXが来ていました。
里塚さんには、本社での研修時、お世話になったので知っています」


永原が本社で研修をした時、指導員の一人として里塚さんが来てくれたようだった。

なんだ、すっかりバレバレだ。


「里塚さんの仲人をするそうですよ、本部長夫妻が」

「あ、そうなの?」


人付き合いなんて下手なはずの永原が、どうして俺よりあれこれ知っているんだよ。

それにこいつ、自分に関係のないことは、どうでもいいんじゃなかったっけ?

人にあれこれ嫌味を言うため、この企画に首を突っ込むだけなのかと思ったら、

そうでもないみたいだな。

カウンター準備も率先してこなしているし、何やらメモを取っているみたいだし。


「お前、なんだかやる気がありそうだね」

「はい……坂戸さんに言われました」

「剛に?」

「明るい笑顔を見せている人のところには、プラスの人間が集まってきて、
しかめっ面をしていると、マイナスの人間が集まってくる。
騙されたと思って、一度やってみてごらんって……」


確かに、言っていることは正しいけれど、

そんなこと、俺だって形を変えて、言っている気がするけどな。


「では……」


永原、十分に『前向き』だわ。

まぁ、俺が前向きにしなければならないと言うことはないだろうから、

あいつはこのまま剛に向かって一直線なのか。



俺だけ、『雲の上』に戻る?

嫌だぞ、それ。





「『横浜支店』の国定です。今回は色々とありがとうございました」

『いやいや、条件を飲んでもらえたのなら、それで……』


『京都支店』の里塚さん、その仲人をする本部長夫妻。

まぁ、親しい間柄ってことなんだろうけれど。

あの電話1本で、簡単にこの仕事を片付けてくれるなんて、

この人も相当、出来る人だ。


『国定君って言ったよね』

「はい」

『君もこれから、もらった恩は返さないとならないよ』

「恩……ですか」

『そう、正直、いつもこんなことが出来ると思われたら困る。
あくまでも深見さんが頭を下げてきたから、だからこっちも動いたんだ』


里塚さんは、深見本部長にはそれだけの世話になったからと、付け足してきた。

ムリだと思うようなことでも、動いてもらえるのは、

本部長が常に逆のことをしてきている……そういうことだろう。


「俺、本部長に恩が返せるかどうか」

『そんなに堅苦しく考えなくてもいいよ。
どんな客にも手を抜かず、仕事をすればそれでいいんじゃないか。
こちらにとってはただの『1』でも、お客様には『唯一の1』になる。
あの人なら、きっとそれを望むだろう』


どんなお客様にも手を抜かず、一つ一つの願いを、とことん叶えられるように考える。

『1』を『唯一の1』にかぁ……

確かに、これが『横浜支店』を引っ張る、本部長の考え方だった。


「はい……手を抜かずに、頑張ります」

『よろしく!』


受話器を置いた後、何分かは頭がボーッとしていた。

俺、そういえばずっと、嘆いてばかりだったんだよな。

剛にも言われたけれど、客のわがままがどうのこうのって文句ばかり並べて、

相手の悪いところだけを探して、うまくいかないことをみんな向こうの責任にしていた。



永原と……

似てるじゃないか。



「ありがとうございました」


カウンターの方から明るい声がして、永原が少し先輩の社員から、

褒められているのが見えた。契約、取ったんだな、きっと。


カレンダーを見ると、残りはまた少しずつ減っている。

『雲の上』なんかには行きたくないけれど、

『本当の幸せ』を探しきれていない以上、その保証はどこにもない。


それでも、今最大限に出来ることは、しっかり仕事をして、本部長に恩を返すこと。

そう心に念じ続けた。





「宏登!」

「なんだよ」

「なぁ、飲みに行かない? 永原さんも誘った」

「いいよ……俺は」


初めての飲み会以来、相当気があったのか、永原と剛はよく飲みに行く間柄になった。

永原が剛を褒める回数も増えて、

おそらく個人的な感情も芽生えているのかもしれないと思うと、

誘われたからといって、二人の間の邪魔をするような気がしてしまう。


あぁ……寒いぞ、今日。鍋でも食べたらどうだ、二人で。


「永原さんさぁ、お前の行動を見ているんだよ、その分析がおもしろくて」

「人のことを、飲み会のネタにするなよ、全く」

「まぁ、共通点がそこだから、しょうがないだろ」


永原のことを話す剛も、どこか楽しそうだ。

まぁ、こいつなら、あの永原もうまく扱ってくれるだろう。

性格も悪くないし、コンパが好きな割には、女にはしっかりしているし。



俺は……

ずっと心に引っかかっている気がかりを、なんとかしなくちゃ。





カレンダーが12月に入る少し前、

俺は、思い切って桃子を喫茶店に呼び出した。





約束の日が来るまで、あと……26日


18 本当の幸せ

半年後の『リミット』、宏登が ↓ マークのような幽霊にならないように……(笑)
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コメント

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積み重ね

えーと・・
今深見部長の過去を辿る旅をしています(^^;)今更ですが・・

手品じゃないことが良く分かります。
一朝一夕に出来る事ではなく、コツコツと積み重ねてきた
誠意と経験と挫折。
そんなものが実を結んできているのでしょう。

宏登にもいつかそんな日が!
それが本当の幸せにつながる!(オッ時間が無いぞ!!!!!)

旅にはⅡがお薦めかも

yonyonさん、こんばんは

>手品じゃないことが良く分かります。
 一朝一夕に出来る事ではなく、コツコツと積み重ねてきた
 誠意と経験と挫折。

そうですよね。
深見にも色々な時代があったわけで……
上司になって重さが出るのは、
そういった人付き合いの積み重ねでしょうから。

さて、宏登は……
時間が少なくなってきました。

反省ーー;

>ムリだと思うようなことでも、動いてもらえるのは、
>本部長が常に逆のことをしてきている

恩を返さないといけないところの文章
わが身を考え、反省ですわ^^;

永原ちゃんと剛君のことも気になるけど
宏登は桃子ちゃんとどんな決着をつけるのか・・・
次回が気になります^m^

いえいえ

yokanさん、こんばんは

>を返さないといけないところの文章
 わが身を考え、反省ですわ^^;

なかなか、そうはいかないですよね。
深見のような上司なら、部下もしっかりするはずですが。

さて、次回は宏登と桃子の会話です。
二人の導き出す結末、見てやってください。