19 期待の答え

19 期待の答え



老婆との期限まで、あと5日。

季節は完全にクリスマスモード。どこもかしこも浮かれたカップルだらけだ。

こっちは下手したら一生を終えないとならないかもしれないのに。


「おはようございます」


後ろから元気な声を出す、永原が走ってきた。

聞こえていたけれど、自分ではないだろうと勝手に判断し、さらに歩みを速くする。


「国定さん、国定さん! ちょっと待ってくださいってば」


こう名前を連呼されては仕方がない。

他の会社の人たちが、あなたでしょうと視線を向ける。


「なんだよ、人の名前を大声で連呼するな」

「聞こえているくせに無視しようとするからです。こっちだって……」


こいつは全く、なんでも戦闘モードに入るんだな。

そんなに戦ってばかりだと、途中で息が切れるぞ。


「今日、見て欲しいものがあるんです」

「見て欲しいもの? なんだよそれ」

「5日後の12月22日、私、初めてプレゼンをしに『光廣製薬』へ行くんです」

「『光廣製薬』に? お前が一人で?」

「いえ、今回は今まで担当していた大貫さんも、
東京の東支店から来てくれるそうですけど、
来月からは私だけでやらないとならないので。今回はその練習を兼ねて、
企画も自分で作ってくれと……」

「ふーん……」

「で、昨日、あれこれ頭を悩ませてみたんです。後で見てもらえますか?」

「誰が」

「国定さんが……」

「どうして俺が?」

「どうしてって……だって……」

「剛に見てもらえよ。あいつ、そういうの得意だし」


なんだ俺、小学生みたいな言い方だな。

剛は……


「坂戸さんは法人担当です。営業の仕方が違うからって、昨日……」

「あ……そうか、先に相談はしたんだ」

「しましたよ、坂戸さんが国定さんに見てもらえって」


剛が俺にねぇ……


「嫌だなんて言わせませんからね、私だって、
国定さんのピンチに、知恵を出したでしょ」

「知恵? 永原がいつ出したんだよ」

「『淡路サイクリング』の件です。提携しているタクシー会社を使うことだって、
考えたじゃないですか」

「あのホテルは採用しなかっただろ」


自分でも大人気ないなとそう思う。

なんだろう、永原の言い方がツンケンしているからか?

それとも、剛がからんでいるのが、気に入らないのか?

でもそうなると……


「そんなに文句を言うのなら、結構です」

「いいよ、見るから!」

「無理やり見るのなら、見てくれなくてもいいです」

「……なら見ません!」


永原は見せようとした書類をバッグに押し込み、

また低いヒールの音をカツカツさせながら、俺を抜いていった。


今のやり取り、ほぼ100%俺が悪いとそう思う。

永原だけが『前向き』という課題を知らぬ間にクリアして、

それをさせたのが自分じゃないという現実に、ショックを受けたのか。


これじゃ、剛が永原を変えたことに、嫉妬しているみたいじゃないか、俺。





こんな俺に『本当の幸せ』なんて、来るはずがないわけだ。





永原と事故に遭ったのが6月の22日、

それから半年の約束で、俺は『本当の幸せ』探しをさせられた。

その期限が切れた次の日に、永原が新しい出発をするというのは、

単なるいたずらなのかな。


「有給を?」

「はい、急ですみません、どうしても行きたい場所があって。
今、抱えている仕事もないですし、2日だけ、いいですか?」


本来ならば有給の申請は1週間前なのだが、年末に近付き、慌てる仕事もないため、

管理担当の社員に特別の処置を取ってもらった。

その日をどう迎えるのかわからないけれど、会社に来ると思われていて、

来られなかったとしたら、迷惑がかかるし……


まぁ、どっちみち、迷惑をかけそうだけど。


桃子には話をしたし、親には前日の夜にでも電話しよう。

となると……


「は? 永原さんの企画、お前見てやらなかったの?」

「無理やり見るのならいいって言ったのは、あいつだし」

「……宏登、お前ってそんなに子供だっけ」


そうだよな、やっぱりあの対応は子供だったよな。

今更ながら、反省中。


「飲み会の時もさ、ずっと気にしていたんだよ、企画のこと。
だいぶカウンター業務で成果が出てきただろ。本人も楽しさに気付いたみたいで、
もう少し大きな仕事を出来るようになったら、
きっと、喜んでくれるんじゃないかって……」

「喜ぶ?」

「あぁ……」


永原が前向きに仕事をして、喜ぶ人かぁ……


「剛が言ったのか? 頑張れって」

「いや、本部長が言ったらしい。近頃永原がいい笑顔で仕事をしているって」


本部長? 深見本部長がやる気にさせたのか。

さすがに結婚していても、女子社員の人気があるわけだよ。


「へぇ……あいつ、本部長の期待に応えようとしているわけだ」

「そりゃそうだろうよ、あの事故でやめさせられるところだったんだぞ、
それを救ったんだからさ、恩に感じないと。
お前もそう言ったんだろ、永原さんが宏登に言われたって」


そういえば、ホストクラブから飛び出したとき、そんな話をした気がするな。

そうか、あれから変わったんだ、あいつ。


「まぁ、確かに言ったかも」

「本来パワーのある子だからさ、きっと頑張れると思うよ」

「あぁ……お前も応援してやってくれ」

「ん?」


そう、応援してやってくれ。

俺は……今のところ、どうなるのかわからないからさ。


剛と食べられる最後かもしれない昼食は、永原の話題がたくさん入っていて、

腹より胸の方がいっぱいになった。





約束の日が来るまで、あと……5日


20 付箋のメモ

半年後の『リミット』、宏登が ↓ マークのような幽霊にならないように……(笑)
応援ポチをお願いします!!  YORO(v´∀`o)SIKU☆

コメント

非公開コメント

あと5日なのね・・・

こちらでもこんばんは^^

更新、追いかけてます!

宏登、あと5日の運命なのね。
で、ここでまだ迷いが・・・
残された人生に、どう決着をつける?

今回のサブタイトル、すべて「~の~」なのね^^


後5日(--;)

深見部長と剛に軽~く嫉妬して、前向きになった青葉に『なんだよ~』と拗ねてみて・・・
自分の気持ちにちょっとは気づいた?(恋ですよ~~フフ)

好きな人が出来るのって幸せではあるけれど、
それだけが人生じゃ無いから。

宏登には違った形の幸せが?

区切りを知る男

なでしこちゃん、こっちもこんばんは

>残された人生に、どう決着をつける?

以前の主人公だった咲の場合と、今回の宏登の場合は、
それぞれ思いの感覚も違うようです。
どうなっていくのか、想像しながらお付き合いくださいませ。

>今回のサブタイトル、すべて「~の~」なのね^^

リミットシリーズは、スピンオフも含めて、
全てタイトルは『~の~』に統一しているんだよ。
ここは、私のこだわりなのです。

彼の形は?

yonyonさん、こんばんは

>好きな人が出来るのって幸せではあるけれど、
 それだけが人生じゃ無いから。

そうですね。桃子の登場に浮かれた宏登も、宏登だし、
『最後の旅』を紹介し、満足そうなお客様の笑顔を見て笑うのも宏登だし……
さて、彼の形はどんなものなのか。

このまま最後まで、おつきあいくださいね。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ありがとう

ナイショさん、こんばんは
ご指摘ありがとうございました。
記事番号の謝りだったようです。
おっちょこちょいなもので(笑)