20 付箋のメモ

20 付箋のメモ



ここのところ、気づくと目がカレンダーを追っている。

本日12月20日。

この時期になると残業なんてせずに、みんな予定をそつなくこなすため、

定時を過ぎればきらびやかな街に飛び出していく。

カウンター担当永原は、こっちを見ることなく、黙々と片付けていた。


「永原」


普通に呼びかけたつもりが、向こうからの返事はない。

さらに声を大きくして、もう一度呼びかけた。


「大きな声で人の名前を呼ぶのは、やめてください。
怒られているみたいじゃないですか」

「お前が無視しているからだろう」

「あら……そうでしょうか」


ったく、また戦闘モードだ。

まぁ、いいや、このままあいつのペースにはまっていたら、

この間と同じになってしまう。


「なぁ企画案、見せてみろよ」

「いいです、ムリに見てくれなくても」

「この間は悪かった。ちょっとあれこれあってさ」


なんだか気持ちがまとまらなくてさ。大人気なかったと思っています。

だから……


「もういいんです、どうせ半分は決まっているものだし、
私がどんな企画を出しても、うちで決めているお客様なんですから、
キャンセルなんてないでしょうし……」

「なんだそれ、どういう意味だよ」

「どうだっていいような気がしているんで、今は……」


こっちを見た永原の顔が、投げやりだったあの頃に、戻っている気がした。

カウンターの電話が鳴り、永原が取るかと思ったが、取らないまま切れてしまう。


「どうして取らないんだ、カウンターだろ」

「もう時間です。明日でいいんです」


なんだそれ、お前、『前向き』になったんじゃなかったのかよ。

そんな気持ちでいたら……





22日、迎えられないかもしれないんだぞ。





「見せろ企画」

「いいです」

「よくない」

「いいって言っているでしょ」

「最後かもしれないんだ! 見せろ!」





言ってしまった……

このセリフ、まずいんじゃないか?





「最後? どういう意味ですか……」

「あ……えっと……」


転勤の辞令が出ているわけではないし、退職願を出したわけでもないのに、

そうだよな、最後なんて、おかしいって。


「俺、あさってから山登りなんだ」

「山登り? どこにですか」

「……どこって」


山の名前なんて知るか。『八甲田山』とか『富士山』ならわかるけれど、

そんな予定……


「『高尾山』」


カウンターから下げた秋用のパンフレットに、『高尾山』の文字が見えた。

言ってみた後、自分でそりゃないだろう……とそう思う。


「『高尾山』ってハイキングですか。紅葉も終わったのに……」


そう、『高尾山』って、ハイキングなんだよ。

山登りなんて大げさに言うようなきつい山じゃなくてさ、

友達同士で笑いながら歩く山なんだよな。


「おぉ……別に紅葉なんて目的じゃないんだ、泊まりでな」


まぁ、しょうがない。とにかくいない理由が示せれば、どうにかなるはず。


「誰と行くんですか?」

「誰だっていいだろうが、お前に関係あるのかよ」

「まぁ……そうですけど……」


『高尾山』の言葉が納得できたのか、永原はそれ以上戦いを挑むことなく、

企画案を見せてくれた。予算、時間などを考慮し、なかなかしっかりと作っている。


「あのさ、この人数割りだけれど、少し詰め込みすぎじゃないかな」

「詰め込みすぎですか?」

「うん……これだけの人数でホテルを使うのなら、
もう一部屋用意してもらっても、値段はたいして変わらないはずだ」

「そうなんですか」


永原は、すぐにホテル側へ連絡をし、一部屋増やせるかどうかの交渉をした。

俺は、営業部を出て廊下を歩き、自動販売機で『ブラック』のコーヒーを2つ買う。

以前とは違い、今日は完全にホットを飲む気分。


本部長がいる部屋の前で、足が止まる。

今日は東京本社で会議があり、もう部屋にはいないはずだ。

あさって、老婆との約束が終わった後、

もしかしたら、また迷惑をかけることになるかもしれない。

そう思うと自然に頭が下がり、申し訳ありませんとお辞儀をした。


「どうだった」

「はい、OKしてくれました」

「そうか……」


よかった。これできっと、22日のプレゼンもうまく行くだろう。

永原は仕事に楽しさを見つけ、自分にも自信が出来て、

それを剛が一緒に、喜ぶはず。


「ほら、コーヒー」

「……またですか」

「また?」


永原はそういうと、自分のデスクの一番上の引き出しを開けた。

中には1本の缶コーヒーが入っている。



『9月14日 いただきもの』



「これ、ホストクラブに行った後、国定さんが買ってくれた『ブラック』です」

「ん? あぁ、あの時のか」

「私、『ブラック』なんて飲めません」


永原はそういうとまた、今渡した缶コーヒーに同じ付箋をつけた。

今度は『12月20日 いただきもの』と記入する。


「普通聞きますよね、何飲むって。国定さん何も聞かないで買ってくるから」

「悪かったな、だったら返せよ、俺飲むから」

「ダメです。これは私がもらったものなんですよ、
返せだなんてケチだって言われますからね」

「だって飲めないんだろうが」

「いいんです」


わけがわからない。

永原は缶コーヒーを入れた引き出しをしっかりと閉め、

企画書を封筒に入れる。


「ありがとうございました」

「あぁ……」


こっちが拍子抜けするくらい、すがすがしい顔で、さっさと荷物を片付けると、

営業部を出て行った。





そして、俺が堂々と生きていられる最後の日、12月21日。

出社してすぐに永原の席を見ると、あいつが来た形跡はなく、

その日、あいつは病院へ行くために、

『半日休暇』を取ったとホワイトボードに記されてあった。





約束の日が来るまで、あと……1日


21 男の顔

半年後の『リミット』、宏登が ↓ マークのような幽霊にならないように……(笑)
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コメント

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おお!

きゃーーー後1日v-12

どうなる?宏登??

ついに!

yonyonさん、こんばんは

>きゃーーー後1日

はい、あと1日となりました……が、創作は24話あるわけで。
どんなあれこれがあるのか、最後までお付き合いくださいませ。