22 明日の時間

22 明日の時間



12月21日、『横浜支店』の忘年会が終了した。

一次会で帰る俺と違って、みんなと二次会へ向かうと思っていた永原が、

なんだか嬉しそうにバッグを開け、こっちへ近付いてくる。


「国定さん、消えちゃうから探しましたよ」


探した? お前が俺を?


「なんだよ、お前は行くんだろ、二次会」

「いえ、行きません。明日も色々とあるので、今日は帰ります、
でもその前に……」


永原はバッグの中をのぞきながら、何かを探しているようだけれど、

すぐに出てこないのか、こっちを向かずに手を動かしている。

全く……どんなに広いバッグなんだよ、整理整頓して入れておけって。


「国定さん、明日って何時なんですか?」

「は?」

「は? じゃないですよ、『高尾山』です、『高尾山』」

「『高尾山』?」


あ、そうだった。

明日から『高尾山』に行くって、俺、永原に説明したっけ。

もちろん行く予定なんてないけれど。


「お友達と一緒に行くんですよね」


永原がバッグから顔をあげて、こっちを見た。

友達? そんな話をしたっけ? 俺。


「……それとも、恋人と一緒ですか? 仲良くお泊りハイキングとか……」


そういう話は以前、自分がセクハラだと言わなかったのか?

まぁ、いいけどさ。


「違うよ、うるさいなぁ、お前そんな茶化しを言うために俺を呼び止めたのか?」

「違いますよ、で何時に『高尾山』の駅へ集合ですか?」

「えっと……」


何時にしよう。あまり早いのもおかしいだろうし、遅すぎてもなぁ……


「9時かな」

「9時ですか……」


遅いのか? いや、それくらいでいいだろう。

普通に昇れば、昼くらいには上へ行けるはずだし。


「そうなんですか、では気をつけて!」

「お……おい」


なんなんだ、あいつ。

バッグの中身を探していたはずなのに、何か俺に用事があるのかと思ったのに、

さっさと手を振って、帰っていく。





おい、永原……お前、それで終わりかよ





もしかしたら……

最後かもしれないんだぞ……





「永原!」


今度は俺の呼びかけに、あいつが振り向いた。

どうして呼び止められたのかと、不思議そうな顔をする。


「なぁ……」


お前の心は『前向き』なのか?

明日もまた、笑顔で会社に来ることが出来るのか。

あの日、老婆に言われたように、俺がお前を『前向き』に出来たわけじゃないけれど、

剛や本部長が、知らないうちに手を差し伸べてくれていたし。


「なんですか」


俺はこのまま、あの老婆の言うとおり『雲の上』に連れて行かれようなんて、

思っていないけどさ、明日になってお前が消えていたとしたら、

それはそれで、メチャクチャ居心地悪そうだし……


あぁ、もう、NGワードを出すことが出来ないから、

どう問いかけていいのかわからない。


「どうしたんですか? この間の企画書なら、ちゃんと修正しましたよ」

「あぁ……うん……」


何か言わないと。

あいつが頑張れる一言、言っておかないと。





「土産、買ってくるから、楽しみにしておけ!」





なんだそれ……

旅行の土産で、人が『前向き』になるかって!




「はい!」




今まで見た永原の、どんな顔よりも……

見せてくれた笑顔は、かわいかった。





部屋に戻り、久しぶりに親へ電話を入れた。

寒くなってきたから体が心配だとか、適当に理由をつけたけれど、

無条件に息子からの電話は、嬉しいらしい。

そうか、もっと頻繁に連絡してやればよかったな。

どんなプレゼントよりも、元気な声が一番嬉しいものなんだ。


携帯を閉じ、引き出しから水色の封筒を取り出した。

時計を見ると夜の11時40分を回っている。

老婆との約束事が書かれた文字は、まだハッキリと残っていて、

やはりあの日の出来事が幻ではないのだと、そう思う。



このまま、人生を終わりにするなんて、冗談じゃない。



まだまだやりたいことだってあるし、いや、やらないとならないことがある、

何があったって、俺は絶対に、ここから動かないからな。

今出来ることを考え、ビニールの紐を、部屋にある重たそうな家具に巻きつける。

端は自分の左手にしっかりと結んだ。



カチカチと聞こえる時計の音。


道路を通り過ぎる車の音。


マンションの廊下を歩く、サラリーマンの靴の音。




日付が変わった時、それがどんなふうに聞こえるのか、

聞こえなくなるのか……





永原……

頼むからお前、くだらないことに怒りをぶつけたりしてるんじゃないぞ、




明日のプレゼンの成功でも考えて、『前向き』に眠ってくれ。





時々襲う睡魔と闘いながら、気付いた時には、

外はうっすらと明るくなっていた。





約束の日当日……宏登と青葉の運命は


23 手探りの朝

半年後の『リミット』、宏登が ↓ マークのような幽霊にならないように……(笑)
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コメント

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あら(^_-)

ホエ? 夜が明けた?
ってことは・・・老婆との約束の時間がすぎたって?

青葉の幸せを願い、自分ももっともっと生きて、色々やりたい!
と思うことが本当の幸せに繋がっている?

とりあえず青葉に告白するか?(笑)

そこは天国か?

そこは天国か?

約束の日が近づくにつれて
いろんなことに気づき始めた宏登
後悔しないようにと動く宏登

人って、死ぬ日がわからないから生きていられるのかもね

朝が来た

yonyonさん、こんばんは

>ホエ? 夜が明けた?
 ってことは・・・老婆との約束の時間がすぎたって?

はい、朝が来てしまいました。
宏登はクリア出来たのか、青葉はどうなったのか、
残り2回で明らかになります。

『?』なのは、宏登も一緒でしょうね。
最後までお付き合いくださいませ。

夜が明けました

yokanさん、こんばんは

>そこは天国か?

さて、宏登が目覚めたのはどこでしょう。
残り2回です。

>人って、死ぬ日がわからないから生きていられるのかもね

実際にはこういうことはないんですけどね。
人って、だんだんと感謝の気持ちが強くなる気がします。
いつか来るけれど、いつだとわからない方が、
確かにいいのでしょうが……