24 恋の雲

24 恋の雲



「本部長、お願いします。理由は後から話をします。とにかく……永原の住所を」


突然飛び込んできて、何を言っているんだと思われているのはわかっている。

しかし、のんびりと語り合っている場合ではないはずで。


「国定、お前の焦り方から、何かあるんだということは理解できるけれど、
規則として、個人情報を本人の許可なく教えるわけにはいかないんだ。
永原の住所が知りたければ、永原本人に連絡を取って……」

「連絡が取れないんです。
今朝、柴田に聞いたら、携帯に出ないって。だから、まずいんですよ」


そう、今日が12月22日でなければ、俺だってこんなに慌てはしない。

でも、今日が12月22日だからこそ……


「それなら理由をここで話してくれ。それからだ」

「理由……ですか」


理由を言えという本部長の態度は、100%理解できる。

でも……


「理由を言えないのか。言えないのなら教えられないぞ」

「あ……えっと……」

「永原は女性で、お前は男性だ。許可なく住所は……」


何を言っているんだと言われるのはわかっている。

けれど、こんな焦った状態で、他の理由など考える余裕もなかった。

俺は本部長の前で、身振り手振りを駆使して、必死にあの日のことを語る。


「事故に遭った日、俺、『雲の上』で老婆と約束をさせられたんです。
それをクリアしないと、半年後には生きていられないというもので……で、
永原が一緒に事故に遭ったから、あいつもクリアしないとならないことがあって」


永原は、『前向き』になるという条件を、本部長の励ましと、

そして剛への恋心で乗り越えたと、俺はそう思っていた。

しかし、連絡が取れず姿が見えない状態では、本当のところどうだったのか、

確かめようがない。


「今ならまだ、あいつのことだから、必死に抵抗しているかもしれません。
だから……」


本部長は黙ったまま、動きを見せてはくれない。

そりゃそうだよな、俺の言っていること、信用してくれるはずがないわ。

『国定は仕事に疲れて、何かおかしなものが見えている』くらいにしか、

思われないんだろう。


「本部長、信じられないでしょうけれど、本当に……」

「そうか、お前もか……」


本部長は携帯を開くと、すぐに閉じた。なんだろう、何か連絡でもするのかな。

それに今、『お前も……』って言ったような。


「わかった。それなら今すぐ、俺と一緒に向かおう」

「本部長と一緒にですか?」

「あぁ、お前に住所を教えるわけにはいかないが、
このまま黙ってみているわけにもいかないだろう」

「はい……」


とりあえず、なんでもよかった。

本部長が一緒でもなんでも、永原のそばにいけたら、それで……


本部長室のドアがノックされ、カウンター業務の柴田が顔を見せた。

なんなんだよ、今忙しいんだ。くだらない用事なら後にしてくれ。


「本部長、永原さんから電話です。なんだか焦っているんですけど、
とにかく本部長を出して欲しいというものですから」

「永原から?」


『本部長に焦りながら電話』してくるなんて、あいつ、本当に戦っているんだろうか。

今、どこで……


「もしもし……」


受話器を耳に当てた本部長の顔が、厳しいものからだんだんと笑顔に変わる。

時々、俺と目があって、何やら座れと合図してきた。


「永原、お前の言いたいことはよくわかった。とにかく慌てるな。
今、ここにいるから……」



ここにいる?



「国定、永原から電話だ」

「永原から俺……ですか」

「あぁ……」


本部長から受話器を受け取り、耳に当てると、永原の大きな声が飛び込んできた。


「何しているんですか国定さん。今、何時だと思っているんですか!」

「何時って……お前こそ何しているんだよ、携帯にも出ないで!」


永原は、俺が今日『高尾山』に登るということを信じていて、

あの適当に語った集合時間に間に合うよう、駅へ向かったらしく。


「お守り? それを渡すために?」

「そうですよ。昨日わざわざ半日有給を取って、買いに行ったんですから。
山登りでしょ。『高尾山』だからって甘く見ていると、
どんなことが起こるかわからないんです。岩が急に崩れるかもしれないし」


お前、新人とはいえ旅行業界の社員だろう。

そんな岩崩れの起きそうな山だったら、ハイキングの許可など出るわけないだろうが。

それに、俺が山を甘く見ているだなんて、どこでそう判断したんだ。


「だったら昨日、帰りに渡してくれたらよかったじゃないか」

「そう思ったんです。でも、忘れられそうだったから、やめたんです」

「は?」


そう言えば、昨日の永原はバッグに何度も手を入れ、探し物をしているようだった。

集合時間だけを聞いて、何もなく帰っていったっけ。

そうか、そういうことだったんだ。


「お客様の大事な書類を、平気でコピー機のところに忘れる人ですよ。
せっかく買ったお守りが、玄関の横にでも忘れられたら嫌ですし。
それで事故にでも遭われたら、嫌な気分じゃないですか」


自分のやっていることだけは間違いなくて、それでもどこかネガティブで、

だけどパワフルに押しまくる、いつもの永原がそこにいる。


「悪かったな、頼りなさそうな先輩で」

「そうですよ。大事なプレゼンが午後にあるのに、わざわざここまで来たんですから」


何をまた勝ち誇っているんだ。お前が『高尾山』の目の前に勝手にいったんだろ。

こっちはな、お前の知らない約束ごとに振り回されて、危うく死にかけたんだぞ。


「それでお前、携帯はどうしたんだ」

「『横浜支店』の駅で落としたそうです。今朝、駅から連絡をいただいて、
通勤する時にでも受け取ればいいかと……思っていたので……」

「……ったく」


『早く出社しろ』と先輩風を吹かせて、俺は受話器を置いた。

そこで初めて、目の前に本部長がいたことを思い出す。


「あ……あの……」

「まずは安心出来たか、永原に何もなくて」

「……はい」


そうだった、よかったんだ。永原も連れて行かれるようなことにならなくて。

大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出してみる。


「『高尾山』はどうなったんだ、国定」

「……あ、あぁ……」


『高尾山』かぁ。そうだった、そうでした。


「あの、中止になりました。俺、山なんて登っている場合じゃないですから。
地上であれこれやらないとならないこともありそうですし……」


『高尾山』

しばらくうなされそうだな、この文字に。


「そうか、それなら今日も張り切って仕事をしてくれ」

「はい」


本部長にしっかりと頭を下げて、何事もなかったかのように今日を始めよう。

戻ってくる永原に、昼飯くらいおごれば、機嫌も直るだろうから。


「国定」

「はい……」

「よかったな、『幸せ』にたどりついて」

「はい!」


そう、老婆の言った『本当の幸せ』にたどりついて……って、あれ?

俺、『幸せ』ってキーワード、話しましたっけ?


「本部長……」


そういえば、さっき、老婆との話をした時、

『お前もか……』ってそう言いましたよね。


「本部長、あの……」




『何年か前にはいたんだよ、ちゃんと『本当の幸せ』を掴んだ女が。
今や素敵なだんな様と、二人の子供に恵まれて幸せになっている』




あの、老婆が言っていた、何年か前の女性って、もしかしたら……



「ほら、ボーッとしていないで、仕事に戻れよ。
また、永原に怒られるからな」



深見本部長の奥様だったんですね。



「はい……」



本部長は、俺と目があうと、確かに口元をゆるめた。

そして、席の後ろにあるカーテンを思い切り開ける。


「今日もいい天気だ。『雲』は多少出ているけれど」


本部長と一緒に見上げた空には、大きな一つの雲が確かにあり、

その隙間からこぼれる陽射しは、クリスマス前とは思えないくらい暖かいものだった。





宏登と青葉の、新しい『約束の日』まで……日?



新しい『リミット』の世界に、お付き合いありがとうございました。
明日は『あとがき』、そしてその後、おまけの1話がありますので、最後までお付き合いくださいね。



25 深見家の話

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コメント

非公開コメント

無事で何より

何と無く切り抜けたみたいね。
宏登らしいかな?
青葉も。(^^;;

兎に角本当の幸せってものに向かって、前向きに頑張れ!!!


見えないもの

yonyonさん、こんばんは

>何と無く切り抜けたみたいね。

あはは……そう見えるよね。
元々『本当の幸せ』なんて、形じゃないから、目指した時点でOKなのかも。

最後までありがとう。

言い合える仲

拍手コメントさん、こんばんは

>二人のやりとりが、とても楽しかったです。

ありがとうございます。
1話が短いので、テンポよくを心がけました。
楽しんでもらえたら、それが一番うれしいです。

また二人が登場するかどうか……
それは神様のみ、知る……かな?(笑)