25 深見家の話

25 深見家の話



窓を開けると、大きな雲が見えた。

なんだろう、あの色からしたら、雨はふりそうもないけれど……


「ママ……」


ゆっくりと起きた凛が、遅い朝ごはんをゆっくり食べながら、

ジュースが足りないと頬を膨らませた。

駿(しゅん)はまだ両手を強く握ったまま、夢の中にいるみたい。


「はいはい、今あげるから」

「パパは?」

「パパはお仕事に行ったでしょ。
凛ちゃんが遅くまで寝ているから、行ってらっしゃいが言えなかったんだよ」

「ちなう、ちなうの!」


『ちなう』とは『違う』のことで、否定をされた凛は、また頬を膨らませた。

2歳の誕生日を迎えてから、ここのところこんなことばっかり。

何かを言えば怒り出すし、まだ出来もしないことをしたがるし……

それでも、長野の母に愚痴をこぼすと……



『咲の小さな頃にそっくりよ、すぐに怒って、頬を膨らませて……』



そう言って、笑われてしまうけれど。





洗濯物を干し終えて、駿の支度を始めていると、

テーブルの上に置いた携帯が、ブルブルと震えだした。

相手を見ると利香で、私は駿におもちゃを渡し、受話器を開ける。


「もしもし」

『あ、ねぇ咲? もう、頭にきた!』


この春、私と利香はほとんど同じくらいに子供を出産した。

利香のうちは女の子で、名前は『しおり』ちゃん。

秋山家にとっては初めての孫で、それは大喜びだったという。

元々、マメな秋山さんだから、子育てにも積極的に参加するだろうと思っていたら、

上司が急に変わり、仕事が忙しくなったと、利香は毎日のように愚痴をこぼす。


「仕方がないじゃないの、仕事なんだもの」

『仕事、仕事ってさ、それで逃げていると思うのよ、私。
深見さんだったら仕事が忙しくても、子育て手伝ったでしょ?』


秋山さんも利香も、『東京西支店』当時、部下だったからか、

亮介さんのことを、神様のように思っているところがある。

なんでも完璧で、完全で……


「そんなことないわよ、疲れたって言って、やってくれないときもあったってば。
私一人がどうして背負うのよって、何度もケンカだってしたんだから」


そうそう、仙台から横浜に異動が決まって、

営業部全体を統括する、本部長職になってからしばらくなんて、

本当にケンカばっかりしていた。


『そうなの?』

「そうよ……」


まぁ、過ぎてしまえばそんなこともあったかなと思えるから不思議だけれど。


『ねぇ、ケンカした後の仲直りってどうしてるの?』

「仲直り?」

『そうそう、深見さん謝ってくれるの? それとも咲が謝るの?』


うちの仲直り? それは……


「利香、しおりちゃん泣いてるよ、ほら、お腹空いているんじゃない?」

『あはは……逃げたわね、咲』


全くもう。利香は母親になっても相変わらずなんだから。

どんなふうに仲直りするかなんて、ペラペラ話すことじゃないんだってば。

そんなことを言っていたら、隣で駿もぐずり出した。

駿の泣き声に、凛が慌てて飛んでくる。


「ママ! ママ!」

「はいはい、それじゃぁね、利香。また……」


どこか慌ただしく、どこかほんわかした今日が、また始まった。

22日かぁ、クリスマス用の材料、今日中に揃えておかなくちゃ。

駿が泣き止んで、凛のテレビが終わって、

私はいつものように二人を買い物に連れ出した。





「秋山が?」

「そうなの。利香ったら毎日電話してくるのよ、秋山さんがこう言った、こうしたって」

「あの二人はケンカしているのが一番楽しいんだよ、昔からそうだ」


さすがに年末も近づき、亮介さんの残業もなくなった。

凛はパパとお風呂に入れたと上機嫌で、くまのぬいぐるみと一緒にお布団へ向かう。

駿はおとなしく夢を見ているのか、口だけがもごもご……っと動いていた。


「何か飲む?」

「あぁ……今日はいいよ。昨日の忘年会がまだ残っている気がする」

「エ……本当? 大丈夫、それ」

「大丈夫だよ」


立場上、付き合いで飲むお酒も多いのが、今の私が気になるところ。


「そうだ、国定っていただろ、ほら、6月に事故に遭った」

「あぁ、うん。一緒に事故に遭った女の子も、『横浜支店』の社員さんだったわよね」

「そう、それがさ……」


亮介さんが話してくれたのは、今日の出来事だった。

国定さんが慌てて飛んできて、永原さんの住所を聞き……


「あの『雲の上』へ、国定も連れて行かれたみたいだぞ」

「『雲の上』?」

「ほら、咲が事故に遭って、連れて行かれた場所」

「エ……」


驚いた。あの出来事が、他の人にも起こるなんて。

でも、よく考えて見たら、国定さんも事故に遭ったんだっけ。


「それで? 国定さんも『半年で幸せになれ』って言われたの?」

「あぁ、そうみたいだった。
永原が老婆に連れて行かれるかも知れないって言った国定の顔は、必死だったしね」


亮介さんはその表情を思い出したのか、口元をゆるめて笑っている。


「そんなふうに笑ったら失礼でしょ。国定さん、きっと必死だったのよ。私にはわかる」

「わかる?」

「そうよ、半年間、自分の中にだけ色々なものを抱えて、頑張ったんだもの」


私の頭の中に、あの当時のことがふっと蘇った。

誰にも言えない、どうしたらいいのかわからないまま、近付く日。

約束の日付が、時間が過ぎても、どこか信じ切れなくて、

また何かが起こるかもしれないと、不安が残っていた。

その時、亮介さんが言ってくれたセリフ……


「亮介さんも、言ってくれたじゃない。咲を神様には渡さない……って」


そう、そう言ってくれた。本当にこの人がいてよかったと思った瞬間。

それから、今が続いている。


「そんなこと言ったかな」

「言いましたよ、もう、都合が悪いことは忘れるのね。
国定さんもきっと、永原さんを渡すものかってそう思って、焦っていたのよ」


大切なものがあると、人はきっと強くなるから……


「あぁ、国定の話を聞きながら、ずっとそう思っていた。
そうか、お前にもあの出来事が起きたんだなって。
国定と永原はきっと、こうなることが運命だったのだろうけれど、
今度はずいぶん荒っぽい。二人で一緒に事故に遭ったんだから」

「……それもそうね」


私と亮介さんに、今があるように、

国定さんと永原さんには、どんな未来が続くのだろう。


「二人の未来が、続いていくといいわね」

「国定は永原に怒られて、それでもめげずに仕事をするんだろうな」


亮介さんはそう言うと、また楽しそうな笑顔を見せてくれる。

昔に比べて、少ししわが増えたかな……

それだけ笑っているからだって、そう思ってもいいかしら。


「パパ……」


久し振りに早く帰ってきた亮介さんに、凛は『本を読んで欲しい』とせがみ、

駿はうまく眠れないのか、クスンクスンと泣き始める。

並んでいたソファーから互いに立ち上がり、それぞれ子供の元へ……

駿を抱きあげてあやす、私の耳に聞こえてくるのは、亮介さんが本を読む声。


あさってはクリスマス。

凛と駿のところに、サンタさんは何を運んでくれるのかな。

国定さんと永原さんにも……

それに、秋山家にも……



そして……

亮介さんと私にも……



そうだ、明日は『雲の上』をじっと見てみよう。

ウインクでもしている神様が、見えるかもしれないし……





新しい年まで……あと2日



本年度の創作は、ここまでです。
たくさんの思いつきに、おつきあいいただき、ありがとうございました。
来年も、『ももんたの発芽室』へ遊びに来て下さいね。



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コメント

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こちらこそ

拍手コメントさん、こんばんは

>この二人も、すっかりお父さんとお母さんなんですね。

はい、なんだかんだと時が経ちましたね。
楽しんでいただけたのなら、嬉しいです。
こちらこそ、来年もよろしくお願いします。

おめでとう^^

ハッピーエンドですね(*^_^*)

宏登が永原ちゃんの尻にしかれてる様子が目に浮かぶようだわ(笑)

深見一家の近況も書いていただいて、ありがとうです^^

挨拶が後になりましたが
明けましておめでとうございます。
今年も楽しみにしてます(*^_^*)

今年もよろしくです

yokanさん、こんばんは
そして、おめでとうございます。

>ハッピーエンドですね(*^_^*)
 宏登が永原ちゃんの尻にしかれてる様子が目に浮かぶようだわ(笑)

あはは……そうでしょうね、きっと。
咲と深見とはまた違った、リミットコンビの登場でした。
今年もマイペースに続けて行きますので、
お暇な時に、ふらりと遊びに来て下さい。