96 恋愛再生

96 恋愛再生



今日は朝から、特に気分がよかった。

これだけ前向きに仕事へ迎えるのは、どれくらいぶりだろう。

まずは天気がいい。布団をしっかりと窓にかけて干してきた。

敦美おばさんが時間になったら取り込んでくれると言ってくれたし……

吊り輪が空いていて掴んだら、次の駅で座っている人が降りてくれた。

ラッシュの時に座れるなんて、『幸運の女神』が微笑んでいる。


そして……今日は日向淳平が事務所へやってくる。

菅沢さんの仕事振りを、まずは見ることが目的らしいけれど、

私は名前だけでもこの仕事のチーフ。話しかけても怒られまい。



そして……



昨日、田ノ倉さんと久しぶりに会話が出来た。

そう、会話が出来たのだ。今までは投げたボールがどこかに飛んでいったり、

途中で消えたりの繰り返しだったけれど、昨日は確かにボールを受け、

ボールを受け取ってもらった感覚がある。

幸せだった過去の記憶が戻ってきたわけではないけれど、

『新しい未来』があることを、あらためて感じられた。



『ケ・セラ・セラ』



頑張っていれば、また新しく日々が始まる。

私、もう一度……田ノ倉さんと笑い合える日を目指し……


「カフェラテを1つ」


今日は迷うことなく『STAR COFFEE』に立ち寄り、気合の1杯を購入した。





「本物の香りは違うなぁ」

「本物?」


今朝は日向淳平が来るということで、

秋田編集長がいつもより少し高そうなスーツを着込み、

お歳暮でいただいたという高級緑茶の『玉露』を入れだした。

どんな味がするのか、間違いがないのか確認するなんてもっともらしいことを言って、

単に飲みたいだけだと思うけど……


「ですね……玉露ですから」

「うん……」


細木さんまで付き合っちゃって。二人とも『玉露』ってわかっています?

入れ方も色々と難しいんですよ。


「美味しいお茶には、この和のお菓子が合うよね」

「あ、細木さん、いいんですか? こんなお菓子食べちゃって」

「チッチッチ……和ちゃん。今日は日向淳平が来るんだよ、
お茶うけくらい出さないとケチな編集部だと思われるでしょうが。
編集長に言われて、渋々買ってきたわけなんだ、昨日」

「昨日?」

「味見のためにね、栗、芋、温泉、白味噌、草の5種類くらい?」





……どういう意味?





「よし、この栗饅頭に決定だ、すぐにコンビニで買ってきます」

「よし、頼むぞ細木」


結局、今買いに行くんじゃないですか。昨日の『味見』ってなんなの?

編集長も細木さんも、『日向淳平が来る』という出来事を口実にして、

ただ、自分たちのしたいようにしているだけだと思うのですが……




「僕もこれ……マジックペンの試し書き用に購入しました」




及川さんが出したのは、立派な色紙とサインペン。

試し書き?

ようはサインをしてもらおうと思っているんですよね。



「そうだな、信長。試し書きは大事だな」



文句を言おうとして、私の口が閉じる。

そういえば私も、どさくさ紛れに先日サインをもらったっけ。

こうなったら……





「及川さん、試し書きの色紙、もう1枚ないですか?」





時間は11時に迫ってくる。

日向淳平が事務所訪問を約束してくれたのは、11時半。

どうでもいい『玉露』と『栗饅頭』と、

試し書き用の『色紙』はバッチリ揃っているのに……


「菅沢さんはまだですか」

「うーん……」


今日は菅沢さんと話しをするのがメインですよね。

どうしてあの無鉄砲な低気圧を、放し飼いにしているんですか!


「携帯……」


携帯電話にかけようとした時、菅沢さんが到着した。

今日もまた、樋山さんの事務所にでも立ち寄ったのだろうか。


「おはようございます。あ、いえいえ、もう11時に近いですけど」

「ん? まぁ、そんなものか」


全くもう、この悪びれない態度、ふてぶてしさ、どうにかならないの?

私はあらためて予定表を開き、日向淳平が来るまで時間がないと攻め立てる。


「どこかの事務所をお手伝いするのも結構ですが、これは仕事ですからね、
こちらをおろそかにしないでいただきたいのですが」

「事務所? 何言ってるんだ」

「何って……」


菅沢さんはバッグの中から、資料を取り出し、それを机の上に置いた。

改装オープンした店の取材メモがあり、サービス券まで登場する。


「これ……『ラブラブラビット』のですか?」

「あぁ……」

「どうして菅沢さんが、この取材担当、私ですよね、
来週に行く予定だったんですよ」

「変えてもらった、俺が行ってきた」

「どういうことですか、予定していた日じゃ、ダメだって言われたんですか?
それならそう私に言ってくれても……」



「お前はもう、取材に行かなくていい」



私が文句を言うために口を開いた瞬間、

何も知らないお客様が、インターフォンを鳴らす音がした。



97 さぐりあい



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