97 さぐりあい

97 さぐりあい



菅沢さんが、私の取材するはずのお店、『ラブラブラビット』へ出かけ、

勝手に取材をこなしてきた。

私だって、きちんと準備だってしてきたし、質問内容だってまとめてあった。

相手に、日付を変更して欲しいと頼まれたわけでもないのに、

なぜなのか、どういうことなのか、攻め立てたいところだけど、

そこに日向淳平とマネージャーさんが登場する。


いけない、いけない……この仕事の大きさは半端じゃないんだから。

インターフォン越しにすぐ対応すると、扉を開け、

階段があるので気をつけてくださいと、気の利く言葉を出せた。



……あ、日向淳平がこっちを向いて、軽く会釈してくれた。



ふわりと漂う、『いい男』の香り。

この間は、お弁当の匂いに押されて、あまり嗅げなかったけど。

ここは思い切り……




いけない、私、犬じゃないんだから……




「菅沢さん、日向さんと田沢さんです」


菅沢さんがさすがに低気圧とはいえ、

ここでふてくされているわけにはいかないことくらい、最低限わかっているようで、

まぁ、いつものように愛想なしの挨拶だけれど、とりあえず頭は下げた。

それにしても、もう少し『微笑む』とか『歯を見せる』とかないのかしら。


「菅沢です」

「すみません、日向です。お仕事中にご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」


菅沢さんはポケットに入れっぱなしだったような名刺を取り出し、日向さんに手渡した。

アイロンくらいかけておけっていうのよ、もう!


「3日前に、大体の台本が完成したと連絡がありまして。
まぁ、以前から企画として上がっていたものの修正ですからね、
コンセプトとして大きく変わることはないと思うのですが……」


日向さんのマネージャー田沢さんがソファーに座り、編集長と向かい合い、

仕事の進み具合をそう説明する。黒いしっかりとした手帳だな、

あれに日向淳平のスケジュールがぎっしり詰まっているんだろう。

それに比べて編集長のペラペラな手帳。

ほとんど占いの結果と、喫茶店のサービス券が入っているんだから。



……あ、ほら、1枚落とした。



あ、そうそう、お茶入れないと。いや、その前に、日向さんを座らせないと。

もう、細木さんも及川さんも何見とれているのよ、動きなさいってば。


「どうぞ、ここに座ってください」

「あ……すみません」


菅沢さんの作業が見やすい場所に、椅子を置いた。

さて、お茶だってば……お茶!


「あのぉ……」

「はい」

「肌、きれいですね」


今まで何も話さず、全く動きを見せなかった細木さんが、そうぽつりとつぶやいた。

あらためて日向さんを見てみると、確かに肌がきれい。

いつも高級な化粧品でお手入れしているのだろうけれど……


あれ? また細木さんのデスク、お菓子が増えてる。

もう……あれだけベテラン事務さんに脅されたのに、懲りてないな。


「細木さん、当たり前じゃないですか。日向さんは俳優ですよ、
毎日お菓子を食べっぱなしで寝たりはしないんです。
お菓子は……あ、そうそう、ポッキー『ひと箱』で、きっと押さえてます」

「エ! 『ひと箱』? そうか、やっぱり『ひと箱』なんだ……」


細木さんにだって、『いい男になりたい』願望くらいはあるだろう。

日向淳平がお菓子をどう食べるのかなんて知らないけれど、

こうなったらどんな手を使っても食べすぎはやめてもらわないとね。



……編集部で倒れでもしたら、大変だし。



納得するように頷く細木さんと、私たちの怪しい言動に、

どうしたらいいのか困っているように見える日向淳平。

相変わらず菅沢さんは何も言わないし、えっとそうだ、及川さん、

ファンだって言いましたよね、初取材もこなせたんだし、思い切って話しかけたら……




……って、どうしてPCの影に隠れて、チラチラ見ているのよ。




それじゃ、完全に変質者です!

大丈夫かな、仕事はなかったことにならないだろうか。



私は編集長が用意した『玉露』をそれぞれに入れると、

細木さんが用意した『栗饅頭』を勧めた。

及川さんが試し書き用に準備した『色紙』にサインを頼み、

全く説明する気持ちのない菅沢さんの横で、日向さんに仕事の内容を語る。



なんなのよ、みんな。

『BOOZ』編集部員は、私だけなの?

いや、私だけで十分じゃないの、これじゃ。



「あの……これは」

「これは校正です。実際に文字として誌面に並べると、区切りが悪かったり、
文章がくどかったり、イメージが変わるので。
文章を書いた担当者とは、別の人間が担当します」


日向さんはそうなのかと頷いてくれた。編集に関しては知らない言葉も多いだろう。

あまり専門用語にならないようにしないと、知識をひけらかすようで、

好印象を持ってもらえないだろうし。

かといって、『飯島さんは出来るなぁ……』と思われるのも悪くない。


「あの……」

「はい」


……まずい、今の説明が不足だって言いたいのかな。

菅沢さん、今まで散々黙っていたのに、ここで変なことを言わないでくださいよ。


「編集者が題材でドラマを作るから、ここへ見学にいらしたのでしょうけれど、
そんなことだけで、何か得られますか?」

「菅沢さん、日向さんに何を言っているんですか」


菅沢さん、この仕事に渋々だったことがわかっていますけれど、

私がチーフになれば引き受けると言いましたよね。

今さらぶち壊すなんて、小学生みたいです。


「上っ面だけは学べても、それがどう表現されるかによって、
世の中の人間に持たれるイメージは変わります。
妙に飾ったようにされるのは心外ですし……」

「郁……そう決め付けて言うな。悪いね、田沢君、
今、色々と忙しくて、郁も余裕がないんだよ。
まぁ、実際にこっちが忙しくなるのは年明けだろうからさ……」

「あ、はい。こちらの都合でスケジュールを組んで申し訳ないです」


マネージャーの田沢さんが、わざわざソファーから立ち上がり、

私たちに頭を下げてくれる。確かに、今日だけで全てがわかるわけはないけれど、

みなさん、日向さんがここへ来ることで、迷惑だなんて思ってましたか?



『玉露』に『栗饅頭』に『色紙』でしょ!



「これから作ろうかというものに対して、
気持ちが前に向かわなくなるようなことを言うのは失礼です」

「失礼?」


私は文句がたくさんありそうな菅沢さんに対して、

負けずと視線を向ける。



いざとなったら……助けてください、日向さん!

心の声が、届きますように。



4周年記念創作として掲載した『J&F』には、淳平から見たこの『BOOZ』でのやりとりが出ています。
比べてみよう……と言う方は、こちらから……
J&F(11)



98 和のケンカ道



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