98 和のケンカ道

98 和のケンカ道



日向淳平とマネージャーの田沢さんが、

忙しいスケジュールの中、『BOOZ』編集部にやってきた。

年明けから始まる仕事の、まずは様子見程度なのだろうが、

そんなまったりした雰囲気が気に入らない、うちの低気圧が、

話がまとまりそうな頃になって、余計な一言を発してしまう。

いや、この低気圧に対しては、私も今日、怒りが充満しているのだ。


「菅沢さんの言葉にはフォローがないんです。
そのままストレートに取ってしまったら、傷つくことだってあるのに」


そうだ、いきなり遅れてきて『もうお前は取材しなくていい』だなんて、

あれだって、そのまま受け取ったら、

私はどうしていいかわからなくなるじゃないですか。


「どうして菅沢さんは、そういうふうに白と黒しかないんですか!」

「は? 白と黒? どういう意味だ」

「どういう意味かわからないのは、そちらが悪いんです」


田ノ倉さんが『その半分も怒っていない』と言ってくれたけれど、

そんな状況を理解できない人だって多い。

本当は優しいところもたくさんあるのに、勘違いされたらあなたが損をするんですよ。



「上っ面になることくらい、僕も承知です。
それでも、今、自分が感じていることは、演じる上で大事なものだと思っています」



……ん?



あ、そうだ、日向淳平がいたんだっけ。

まずい、感情むき出してケンカしちゃった。飯島さん、怖い人だと思われちゃう。

スマイル、スマイル……いつもの私を見せなくちゃ。


「菅沢さん、一度スタジオへいらっしゃいませんか?」

「スタジオ……ですか?」


エ! スタジオへ? 見学に行ってもいいんですか、日向淳平さん。


「はい、撮影現場を見てください。来年の春に始まるドラマのリハーサルが、
これから始まります。僕はそこでサラリーマンからコックになるのですが、
そばには指導をする料理人がついてくれます。
フライパンの使い方、調味料の掴み方など、それなりに格好つけられるように、
指導していただくんです」


この日向淳平が、

編集部へ入ってきたときから『いい男』の匂いをさせる日向淳平が、

料理人になるんだよね。



「……見学に、行ってもいいんですか?」



菅沢さんの方を向いていた日向淳平が、少し驚いたような顔で私を見た。

あれ? こういうときって遠慮しないといけないの?


「普通にたずねてしまって、問題ないんですか」


遠慮なんてするものか。私はこのドラマと写真集のチーフだもの。

確かに、菅沢さんを納得させるには、

あれこれ口で言うよりも、ものを見せてしまった方がいいはず。



『百聞は一見にしかず』



ってことよ。


向こうの気が変わらないうちに、スタジオに行ける日を考えないと……

と思っているのに、インターフォンが鳴り、いきなり扉が開かれた。


「誰?」

「お仕事中失礼いたします。『SOFT』編集部の東原です」





なぜ、あなたがここへ。





「あら……申し訳ありません、お取り込み中ですか?」

「いやいや、東原さん、どうしたんだ」

「あ、増渕編集長から秋田編集長にお渡しするよう、言われたものがありまして……」





お渡し?

はは~ん、東原さん、

あなた今日ここへ日向淳平が来る事、どこかから聞き出しましたね。

そうでなければ、あなたがこの半地下編集部に顔を出すこと自体ありえないでしょう。

いつもより、丁寧な化粧と、華やかなスーツが、そう語っていますけど。



「来週の会議で使用する書類だそうです」



来週?

今、来週って言いましたよね。来週のものは明日でいいじゃないか!

どうでもいい書類を使って、ここへきたな。

全く、見え透いた行動を取ってくれちゃって。


「あの……」

「はい」

「『BLUE MOON』全て拝見させていただきました」

「ありがとうございます」


あんたたちは畑山宗也派でしょ!

日向淳平まで丸め込もうったって、そうは行かないんだから。

ちょっとそこどいてよ。『いい男』が見えないってば。


「あの……握手と……」

「あ、それ!」


及川さんが買っておいた試し書きの色紙、1枚私がもらったのに。

東原め、私のデスクから勝手に奪って……

泥棒、泥棒!


「お名前は」

「あ……杏子と申します」


どこまでもずうずうしく出来ている東原さんは、日向淳平からさっさとサインをもらい、

仕事の邪魔をしては申し訳ないと、心にもないことを言い、編集部を出て行った。





『畑山宗也』と仕事をしていて、普段編集部には田ノ倉さんがいるっていうのに、

あの女、どこまでずうずうしいのよ!





……まぁ、いいや。





スタジオ見学のことまで聞かれていたら、大騒ぎだったかも。

サインなんてね、いつだってもらえるんだから……

なんたって私は、この仕事のチーフですので。


「菅沢さん、見学にいらしていただけますか?」

「そうですね……」


私が東原さんを怒りの表情で見送っている間に、

菅沢さんは、チーフの意見も聞かずに、さっさと日向淳平に返事をした。



4周年記念創作として掲載した『J&F』には、淳平から見たこの『BOOZ』でのやりとりが出ています。
比べてみよう……と言う方は、こちらから……
J&F(11)



99 本音と建前



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コメント

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ウキウキ❤

いい男に目が無い、東原。ちゃっかりしてる。
しかし和だって、淳平にテンションi-184

しかし郁の不機嫌はどうしたもんか・・・

スタジオ見学に何か起こるか?

わくわく

yonyonさん、こんばんは

>いい男に目が無い、東原。ちゃっかりしてる。

そうそう、こういう女性は結構あちこちにいるものです。
『臭い』に敏感なのでしょう(笑)

>スタジオ見学に何か起こるか?

淳平側から見ると……で、和側から見ると……は、
後ほど。