104 かけひき

104 かけひき



菅沢さん、今さらここまで来て、

日向淳平に『いちゃもん』なんてつけないでしょうけれど、

でも、あれだけ真剣な顔で座っていられると、気にするなと言われても気になるよね。


都会の中心部からは、少し外れた『オレンジスタジオ』。

下を見ると、たくさんのファンたちが、お目当てのタレントさんの出入りを待っている。

みんな学生やOLみたいだけれど、お仕事や学校はいいんですか?

そんな景色を見ていたら、携帯電話が鳴り出した。

相手を見たら及川さんになっている。


「はい、もしもし、飯島ですけれど」

『あ……飯島さん。あのですね、菅沢さんはそこにいませんか。
携帯を鳴らしても、出てくれなくて』

「今、スタジオの中にいるんですよ。なので電源を切っているのかもしれません。
何かあったんですか?」


及川さんは、2回目の取材チャレンジをした店で、

掲載ページが少なくて困ると、文句を言われたことを語りだした。

以前、取材を許可した時には、

見開き分スペースがもらえることを編集部側が約束したと、譲らないらしい。


『とにかく、それがクリアになるまで、店には入るなと、立たされてまして』

「立たされているんですか」


私はすぐにメモを取り出し、とにかく及川さんの状況をまとめ、

店の番号、責任者の名前を書き取った。

取材ページを他の店より圧倒的に広く取るなんて約束、

どう考えたってするはずがないけれど。


『とにかく待っています、連絡ください』

「わかりました、菅沢さんに通してみます」


もう二人の話は終わっているだろうか。日向淳平だって暇じゃないんだから、

菅沢さんの愚痴につきあってばかりもいないだろう。

そう思いながらスタジオへ向かうと、まだ二人だけしか、姿が見えない。

それでも及川さんがピンチなのだ、ここは勇気を持って中へ入らなくちゃ。


「菅沢さん、すみません」


スタジオの入り口からそう声をかけると、二人が同時に私を見た。

小走りに中へ向かい、及川さんから聞いたことを説明する。


「店の外?」

「はい、中へ入れないとごねているらしいんです。
見開きの保障なんて、普通しませんよね」

「するわけないだろう。
あのページは、各店舗が持ち回りでアピールポイントを載せているんだし、
特定の店だけ大きく取り上げるのは、逆に不公平だ」

「そうですよね、でも……」

「店に入れないと言うのなら、そのまま戻ってくればいい」

「エ……掲載ページが空きますよ」

「いいよ、仕方がないだろう。ムリに掲載するわけにはいかないんだ。
おそらく、信長が自信なさそうに見えて、相手が足元を見ている。
時々いるんだよ、そうやって脅しをかけるような連中が」

「脅し……」

「掲載できなくてマイナスなのは、タダで宣伝できるチャンスを無くす向こうだけだ、
信長に、もう一度言って同じことを言うのなら、そのまま戻れとそう伝えてくれ」

「でも……菅沢さん」

「いいから、言ったとおりにしろ」

「はい……」


それだけの態度に出てしまって、

系列店全てから取材禁止令でも出されたらどうするのだろう。

こちらだって、取材させてくれる店やタレントあっての雑誌なんだけど。

それでもスタジオからもう一度出た私は、

菅沢さんが言うとおり、及川さんに伝言することしか出来なかった。





スタジオ見学を終えた私と菅沢さんのところに、

及川さんから電話が来たのは、それから30分後だった。

こちら側の意思をハッキリと伝えたところ、それから5分後に取材許可が出たという。

結局、菅沢さんが読んだように、向こうの嫌がらせだったということで。


「あの店の系列は、昔からこうしてあれこれ文句をつけてくるんだ。
今日は信長だったけれど、おそらくお前が行っても、同じだろう。
ゴネて希望が叶えば、得をするからな」

「なんだか、ズルイですね」

「平等だ、公平だと言えば聞こえはいいけれど、みんな自分だけはいい生活をしたい、
お金を持ちたいと思って仕事をするんだから、
そういうずうずうしさを責めてばかりもいられないよ。
そこをどうバランスを取っていくかが、編集者としての腕でもあるし」


『SOFT』や『MELODY』のような看板雑誌ならば、

書き手の方が頭を下げて仕事を請けてくれることも多いが、

『BOOZ』はもっとシビアなのだと、菅沢さんは言いたいのだろう。


「あの人なら、きちんと演じてくれるだろうと、そう思った」

「日向淳平ですか?」

「あぁ……」


珍しいことだった。菅沢さんがそんなふうに人を褒めるなんて。

それほど何度も会ったわけではないのに。

二人でいた時間、どんな話をしていたんだろう。


「何話していたんですか? 二人で」

「ん?」

「そうそう、編集部に連絡しろだなんて言いましたけれど、今日は誰もいませんし、
どうしようかと思って、スタジオに戻ったら、二人で真剣な顔してましたよ。
なんだか入りづらくて」

「誰も……あ、そうか、今日編集長ゴルフだ」

「そうですよ」


菅沢さんでも、こんな指示ミスがあるものなんだ。

なんだか失敗したことにおかしくなる。


「どんな話をしたんですか? 女性にモテるコツでも聞きましたか?」


細木さんも褒めた綺麗な肌と、誰にでも変わることのない態度。

男性としてみても、魅力的な人ですよね、あの人。


「泡がブクブクする、かわいい女の子がいるお風呂に出かけるときのために、
どこの店が口が堅いか、他にもタレントが出入りしている店がどこなのか、
それをたっぷり教えてやった」

「は?」

「あ、そうそう、サービス券もたくさん送ってやらないとな」


絶対にウソだ。

あの表情で、そんな話をしていたのだとしたら、人格が崩れているってば。

全く、菅沢さんは……


「もういいです。菅沢さんと日向淳平が全然違うのだってことは、わかってますから」

「違わないぞ、あいつも俺も同じ男だし……」

「同じって言わないでください!」


駅のホームに電車が入り始め、私の髪の毛が風に押されていく。

菅沢さんは携帯を取り出し、何やらメールを打ち始めた。

扉が開き、降りる人と乗る私たちが交差する。


「さて、OKが出た。お前もついて来い」

「OK? どこに行くんですか」

「社長室」

「は?」


発車のベルが鳴り響き、とぼけた顔の私と菅沢さんと乗せた電車は、

ゆっくりと『秋月出版社』方向へ、進みだした。




4周年記念創作として掲載した『J&F』には、淳平から見たこの『BOOZ』でのやりとりが出ています。
比べてみよう……と言う方は、こちらから……
J&F(16)


105 ダブル宣言


気持ちが前向きならば、神様は必ず微笑むよね!
和の『ケ・セラ・セラ』 な毎日を、応援してください。
本日も励ましの1ポチ、よろしくお願いします ★⌒(@^-゜@)v ヨロシクネ♪

コメント

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ありがとうございました

ナイショコメントさん、こんばんは

ご指摘、ありがとうございました。
UP前にチェックをしたつもりでしたが、慌て者です。
数字がずれたり、あれやこれやで訂正しました。

また、気づいたところがありましたら、教えてくださいね。

これからも、『発芽室』で楽しく遊んでください。
よろしくお願いします。

郁の頭の中

ナイショコメントさん、こんばんは

>郁が何をするつもりなのか、ちょっとドキドキします。

はい、つかみどころのない男なので、
なにやらしそうな雰囲気です。
何をしたのか……は、次回へ!