105 ダブル宣言

105 ダブル宣言



菅沢さんが呼び出されるのには理由があるとしても、

私は何もしていませんよね、『社長室』へ行かないとならないような失敗。


「菅沢さん、あのですね、私は関係ないお話ですよね、それ」

「関係ないかあるか、来てみないとわからないだろう」

「いえいえ、わかりますよ、だって、私と社長は何も縁がないですし」

「これからあるかもしれないだろ」

「これから?」


わけがわからない。

何度一人で行ってくれと頼んでも、菅沢さんは全然譲らない。

こうなったら黙って隅っこに立っているしか出来ないのかな。


駅から降りて、『秋月出版社』の本社へ向かい、

最上階の社長室へ行くのかと思えば、なぜか社員食堂へ入っていく。


「菅沢さん」

「腹減った」

「何言っているんですか、社長室へ行くんですよね。待っているんじゃないですか?
ご飯なんて食べている場合じゃないですよ」

「せっかくおごってやろうとしたのに、それならやめておくか」




……いえ、いただきます。




「うん、うまいな、これ」

「そうですね」


そうなのだ、『秋月出版社』の日替わりランチ、結構美味しいんだよね。

『BOOZ』編集部が遠くて遅れてくるから、売り切れていることも多いんだけど。

向かい合って食べていた菅沢さんが、途中で席を立ち、

戻ってきたときには、『ストロベリーマウンテン』を持っていた。


「ほら、これも」


この前のことが、一瞬で蘇った。

陽君がここで、これを食べているとき、『映報』の方たちが姿を見せて、

それで……


「陽が言っていたんだ。お前にこれを買ってやってくれって」

「……陽君が?」

「あぁ……少しあげるって言ったのに、意地悪してあげなかったから、
飯島がかわいそうだったって」


そうか、私が悲しい顔をしていたのを、

陽君、アイスがもらえなかったからと、勘違いしたんだね。

私こそ、楽しみにしていたアイス、途中で切り上げさせちゃったのに。


「いただきます」

「ここに『映報』のメンバーが揃っていたんだってな。
お袋がそう言っていた」

「……はい」


いちごのソースがかかったソフトクリーム。

小さなスプーンですくって、少しだけ口に入れる。


「美味しい」

「ふーん……」


ここで陽君が言ってしまったことを、語ろうかと何度も思ったが、

やはり口に出すことが出来なかった。田ノ倉さんと実玖さんのことが、

正式に決まったのだと言われたら、ショックを受けないことはありえないし。


「飯島……」

「はい」

「諒は、まだお前のことを思い出せないのか」


私は首を縦に振り、黙ったままになる。

そうです、何も思い出せないみたいです。

菅沢さんの方が、田ノ倉さんに近いですよね。

そんなこと、聞かなくたってわかっているんじゃないですか。


「あ、そうです。この前、菅沢さんがタクシーで帰ってしまってから、
田ノ倉さん、編集部に来ようとしていたみたいで、道で会いました」

「俺のところ?」

「はい」


そうだった。あの冷たい言葉をかけられたとき、

田ノ倉さんは確かに、菅沢さんに会いに来ていた。


「あれから何かありましたか?」

「いや……」

「そうですか」


『ストロベリーマウンテン』を食べ、おなかを満たした私たちは、

そのまま社長室へ向かう。


「あの、もう一度確認しますけれど、私が入る意味がありますか?」

「たぶんな」

「はぁ……」


菅沢さんが軽くノックすると、中から確かに社長の声がした。

重たそうな扉を開け、ゆっくりと中に入る。

社長室のソファーには、社長の他に、田ノ倉さんが座っていた。


「諒も呼んで欲しいと、そう言ったな」

「はい……」


社長と菅沢さんと田ノ倉さん。やはり、私は何も関係がない。

むしろ、田ノ倉さんがいるのなら、絶対に来るべきではなかったはず。


「あなたは……」

「あの」

「飯島です。『BOOZ』編集部でアシスタントをしてもらっています。
『MOONグランプリ』でも一緒にいたはずですが……」

「『MOONグランプリ』……あぁ、そうか、うん」

「飯島和と申します。あの、すみません、私……」


こんなところにいる意味なんて、絶対にないです。

あぁ、移動するのが無理なのなら、今すぐこの場で気絶したい。

3人の話なんて、のんびりと聞きたくないもの。


「郁の話を聞いてもらうはずが、諒からも話があるとそう言われてね。
さて、どちらからの話を聞くべきか」

「郁が何を言うのか、薄々わかっていますから、はじめに僕から話させてください」

「諒、会社にとって重要な話しなのか、お前の決断を聞く前に……」

「『映報』との業務提携は、非常に魅力的な条件です」



あぁ……やはりそうなんだ。『映報』との結びつきを強くして、

『秋月出版社』の地位をしっかり固めようとしているんだ。

一番聞きたくないことを、今日ここで聞くなんて。



……神様、どうして気絶させてくれないんですか。

足をつねっても痛いだけで、気絶できないし。



「来年、なるべく早いうちに、『準備室』を作ろうと思っています。
その話は、副社長になった裕介にもしたところです。
互いに利益が得られること、それが大切ですし」



業務提携を睨んで、『準備室』かぁ。

園田先生が言っていた、過去作品の映像化も、進むんだろうな。



「でも、実玖との縁談話は、お断りします」



……そう、縁談はね、お断りだよ、

ん? お断り?



「諒……」

「もし、『映報』がそれを条件の一つだと言うのなら、僕は飲めません。
会社の提携と、個人的ことをからめてしまうのは、納得がいかないからです。
それに……」


田ノ倉さんの目が、黙って立っている菅沢さんに向いた。

私は目をあわさないように、菅沢さんの後ろにじっと隠れる。


「『秋月出版社』を継げる人間は、ここにもいるじゃないですか。
僕だけが、会社の中心だと思われるのは困ります」


田ノ倉さんは、菅沢さんにもっと経営面まで入ってきて欲しいと意見を述べた。

社長はそれを黙ったまま聞いている。

菅沢さんは以前、社長になるのは田ノ倉さんしかいないと、そう言っていたけれど、

今日は何を話すためにここへ来たのだろう。


「まぁ、諒。あまりそう一気に決めようとするな。
実玖さんとの縁談は、恵子さんの意見も入っているのだろう」

「母は母です」


社長は今の田ノ倉さんの意見を、とりあえずと言いながら納めようとした。

どうしたらいいんだろう、私が聞いている話じゃないのに。


「まぁ、『映報』との話は、恵子さんも含めてまた、話すことにしよう。
それで、郁は何を……」


そう、菅沢さん、何を話すつもりで来たのだろう。

そう思った瞬間、菅沢さんが私の手を握り、急に前へ押し出した。




「話は個人的なことです。俺、この飯島と結婚しようと思うので……」




この部屋の中にいる人たちがみんな、驚いただろうけれど、

誰よりも一番驚いたのは、何も知らない私だと……絶対にそう思う。



106 空と心の模様


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コメント

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びっくりしました

本当に久しぶりに書き込みます(-_-;)

菅沢さん、勝負に出ましたね。日向淳平と話してた時に感じたのですが、郁が和の事が好なのだと思うのですが、もしかして王子は記憶が戻ってる?和を守ってるのかな?
嗚呼、勝手な妄想が止まりませんf(^_^;

(@@;)

ええ~、絶句(@@;)

これって一種の荒療治ですか~

テラスの君の反応は、さていかに・・・

次回が楽しみですわん^m^

えっ!?

おお!!!!!!!郁、やってくれたね。

果たして諒は???

きゃ~次を早く!!!!!

両方から見てみると

purinkoさん、こんばんは

>菅沢さん、勝負に出ましたね。
 日向淳平と話してた時に感じたのですが、
 郁が和の事が好なのだと思うのですが、

『ケ・セラ・セラ』内では、和の言葉で話が進んでいるので、
和には郁の気持ちが、よくわからないのです。
みなさんは反対側からすでに見ているので……だと思います。

さて、郁の発言、その意図は?
驚き! のまま、続きにもお付き合いください。

絶句……するはず

yokanさん、こんばんは

>ええ~、絶句(@@;)
 これって一種の荒療治ですか~

あはは……そう、絶句でしょ?
この場にいる和は、もっと『?』のはずで。
郁の発言の意図は、この先でわかってくると思います。
このままお付き合いください。

驚きの後

yonyonさん、こんばんは

>おお!!!!!!!郁、やってくれたね。
 果たして諒は???

驚きの発言に、社長も諒も……さらに和も……
言葉の意図は、後にわかります。
郁ですからね、ストレートではないはずですよ。