106 空と心の模様

106 空と心の模様



エレベーターが一瞬ふわりと浮き上がるようになり、そのまま下へ向かう。

最上階から乗り込んだ私たちは一番奥に立ち、4階、3階と少しずつ人が入ってくる。

少し前の出来事は、いったいなんだったのだろう。

菅沢さんの、クレイジーな結婚宣言で、社長の顔は一瞬でしわが寄り、

田ノ倉さんの顔は……



そう、なんとも表現しがたい、初めて見るような。

あんな顔で見られるなんて、私の記憶はきっと、沈んだというより消えた。





ポッ……って。





「菅沢さん! ちょっと待ってください」

「お前の足が短いんだ、何度言ったらわかる」

「そういう屁理屈はいいんです。一体、何を考えているんですか」

「何を? そうだなぁ……明日の天気か?」


このぉ……『ストロベリーマウンテン』どころじゃ済まないから。

人を、くだらない冗談に巻き込んで。


「どうしてあんなことを言ったんですか。
元々、菅沢さんが話をしようとしたんですよね、田ノ倉さんと社長に」

「あぁ、そうだよ」

「だったらどうして、きちんと話をしなかったんですか」

「したよ」

「してないじゃないですか、
あんな『結婚宣言』、巻き込まれた私の身にもなってください」


当たり前のように歩いている菅沢さんが急に止まり、

私は背中に思い切りぶつかった。

もう……急に止まらないでくださいよ。


「どうして急に止まるんですか、痛いなぁ、もう」

「待てっていっただろ、なんだ、お前」

「なんだじゃないです、飯島です」

「あぁ、そうか。それは悪かったな、飯島さん」


ダメだ、こんなことをしていたって、この人に叶うわけがない。


「向こうの責任だ」

「責任?」

「あぁ、諒がフライングして話をさせなかったんだ、
こっちだってまともに話をしてたまるか!」

「……フライングって、田ノ倉さんは」


そう、田ノ倉さんこそ宣言をしていた。

『映報』との提携はしようと思うけれど、

それによって生まれる、実玖さんとの結婚話は納得がいかないということ。



……実玖さんと、結婚する気持ちないんだ、田ノ倉さん。



「驚いていたな、社長。久しぶりに焦った顔を見たよ」

「当たり前じゃないですか、社長にとっては菅沢さんは息子なんですよ、
『結婚』の二文字が出たら、親は構えます、普通。田ノ倉さんだって……」


そう、田ノ倉さんだって、なんなんだって顔をして……


「諒の顔、見たのか飯島」

「……一応は」


それは気になりますし……


「呆れたような顔、してました」

「呆れた顔?」

「はい」


何しているんだ、くだらないことに巻き込んでって、そんな冷たい顔だった……

気がするけれど。


「お前には諒の顔が、呆れ顔に見えたんだ」

「菅沢さんには別の顔に見えたんですか?」

「……見ていなかったから、わからない」


結局、菅沢さんがわざわざ田ノ倉さんと社長の前で、

本当は、何を話そうとしたのかわからないまま、私たちは『BOOZ』へ戻った。





その次の日、津川家に旅を終えた陽君がやってきた。

おばあちゃんと陽君は、飛行機で関西に向かい、人気のテーマパークへ行き、

ホテルに泊まり、次の日は電車で別の旅館へ。


「最後は新幹線で戻ってきたんだ、ビューン! って」

「そうか、それはすごいなぁ……」

「そうだよ、すごいんだよ、僕!」


おじさんもおばさんも、本当に嬉しそうな笑顔を見せ、

夕飯には久しぶりに、陽君メニューが並んでいく。

その隙間には、たくさんの思い出写真。

へぇ……菅沢さんのお母さんって、見た目、若いなぁ。


「いいのかねぇ、これだけこんな小さいのに贅沢させて」

「あら、子供にはいいものを見せたほうがいいって言うわよ、菅沢さん」

「そうですよ、たまにだもんね、陽君」

「うん!」


保護者同様の菅沢さんも食卓を囲み、『きりん保育園』時代が蘇った。

それにしても、よく食べるようになったなぁ、陽君。


「陽君、たくさん食べるようになったね」

「うん、パパと競争するから」


当たり前のように出てくる名前に、新しい家族はうまく進んでいるんだと、

少しだけほっとする。菅沢さんの方を見ると、同じようにほっとしているようだった。


「ねぇ陽君、たくさん美味しいものを食べたんでしょ? 何が一番美味しかった?
御寿司? あ、そうだ、関西だからたこやきとかお好み焼き?」



「えっとね、『塩辛』」



「塩辛?」

「うん、おばあちゃんのご飯に出ていたの。僕にはなかったからちょっともらった。
ニュルンってしていて、おいしいんだよ」



……ほぉ、なかなか渋い好みで。



「ねぇ陽君、あちこち見たのでしょう。何が一番楽しかった?
遊園地の乗り物? それとも飛行機? 新幹線?」



「温泉!」



「温泉?」

「そう、中に入って『はぁ……』って言うのが、一番だった」

「あらまぁ」


もしかしたら、目の前にいるのは保育園児ではなく、

子供ぬいぐるみを被った、爪楊枝を愛するどこかの親父さんなのではないかと、

私は真剣に陽君の頭から背中を見る。



……ファスナーは、どこにも見つからなかった。



107 それぞれの日


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コメント

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くーっと一杯

うーん・・
諒は会社の後継者は郁だと思っているから、
実玖さんとの結婚は考えられない。

そこを見越した郁が自分は和と結婚すると宣言。

お互いを認め、尊敬し、共に会社のこと考える故だよな。

♨に浸かって、あとは塩辛をつまみに一杯。
陽君、あんたとは趣味が合いそうだ、
が、幼稚園生ではな~~残念。


私とは違うのね

yonyonさん、こんばんは

>お互いを認め、尊敬し、共に会社のこと考える故だよな。

言い合いをするけれど、一番認めている相手。
それが諒と郁の設定です。
和を含めて、どうなるのか……は、もう少し。

そうか、yonyonさんの趣味は陽くんと似ているのね。
温泉はいいけれど、塩辛はダメな私。
私とは違うんだわ(笑)