108 里帰り

108 里帰り



『BOOZ』編集部、クリスマスの忘年会は、予想以上に盛り上がった。

世の中は華やかな一日でも、

そんな華やかな中に身を投じられない若者も、まだまだたくさんいるらしい。


「はぁ~い!」


秋田編集長が、これまたどこからか借りてきたハンディカラオケ。

『夢尾花』先生のエンターテイメント根性に火をつけてしまい、

フリフリのドレスが華やかに揺れている。



細木さんだけに向かって、愛の歌を歌っているところが、さらに……



「僕、あれから彼女が出来たんです。声優を目指しているタマゴなんですけど……」

「声優さんを? へぇ……そうなんですか、おめでとうございます」

「あ……はい……あ……いえいえ」


『レポ隊』の堺さんは、あれから自分に少し自信がつき、

たまたま『BOOZ』を知っていた女性と、お付き合いを始めたという。


「これ、僕が書いたんだよって言ったら、すごい、すごいって喜んでくれて」

「へぇ……」

「あの時、逃げ出さずに書き上げてよかったなって、そう思いました」


世の中、何がきっかけになるかなんて、わからないものなんだな。

堺さんは携帯に入っているという彼女との写真を、私と菅沢さんに披露してくれる。



……うわぁ、かわいいんだけど。

声優さんなんて言わないで、女優さんにでもなれそうな。

堺さん、まさかとは思いますが、あの……




「なぁ、騙されてるんじゃないの?」




菅沢さん……

私もそう思いましたが、そうハッキリと言えませんよ、普通。


「はい、僕も最初はそう思いました。でも、騙されてはいないと思います。
部屋にも来てくれますし、ご飯も作ってくれますし……」

「金を貸せって言わないの?」

「菅沢さん!」


堺さん、怒りもしないで、違いますと手を振っていた。

それでもよかったな、少しでも関わってくれた人が、幸せを掴むって、

聞いているだけで、自分も次には幸せになれる気がするわ。

園田先生が『天城越え』を大熱唱し、細木さんが『ムーミンのテーマ』を歌い、

なぜか及川さんがボイスパーカッションを披露した、

『BOOZ』のあれこれ忘年会は、大盛りあがりのまま、エンディングを迎えた。




招待客が消えて、残るのは……




「みなさん! 帰らないとならないんですよ」

「おぉ……」

「うるさいなぁ……」


いつの間にか、意識が朦朧としてきて、

知らぬ間に、それぞれがデスクに座り、頭とデスクがくっついて、

菅沢さんだけがソファーを占領することに文句を言いながら……



気付いた時には、次の日の朝になっていた。





その年は、そのまま何事もなく終わり、私は久しぶりに実家へ戻った。

母は、日向淳平にもらったサイン入りの写真を、

しっかり写真立てに入れて茶の間の戸棚の上に飾り、

おとずれる人に自慢しているみたい。


「毎朝こうして拝んでいるのよ」

「へぇ……」

「バカみたいだろ、日向淳平に何を拝むんだっていうんだよ」

「あら敬、そんなもの決まっているでしょ、年頃の娘と息子がいるんですから、
いいご縁を……」


呆れ顔の敬が目の前にいる。

いつもなら文句を言って姉弟ケンカのスタートだけれど、これは私も同感です。

日向淳平も、よく知らない他人の良縁まで頼まれたら、忙しい体が持たないって。


「和、いつまでこっちにいるの?」

「うん、5日スタートだから4日に戻るわ」





田舎の除夜の鐘を聞き、親子3人でおせちを囲み、

こたつの中でみかんの皮を剥いていたら、あっという間に3日の夜がやってきた。


「今日、新年会?」

「そうなんだよ、なぁ姉ちゃん、車で迎えにだけ来てくれない?」


弟の敬は、東京の大学へ出かけた連中も田舎に戻っているため、

今日が新年会なのだと説明し始めた。

会場は『SLOW』の撮影現場になった『総合公園』近くの居酒屋さん。

好き勝手に飲みに行くのだから、

帰りはタクシーでも拾って戻って来なよと言ってやりたかったが、

お願いしますと頭を下げた敬を見ていたら、なぜか『わかった』と返してしまう。


「サンキュー、姉ちゃん」


敬は感謝しますとまた頭を下げ、とりあえずバスに乗って店へ向かって行った。


「よく引き受けてあげたじゃないの、和」

「まぁね、敬が私に頼み事をするなんて滅多にないし。それに……」


私と違って、石橋を叩きまくり歩く弟。

同じような年齢の友達は、東京で華やかな生活を楽しんでいる人だっている。


「なんだかんだ言ってさ、あいつ銀行に就職決めたじゃない。
あいつがここにいてくれるから、私自由に仕事している気がして」

「あら、どういうこと?」

「お母さんが一人じゃないでしょ」


一緒に暮らしていた時にはわからなかった。

でも離れてみたらよくわかる。文則おじさんと敦美叔母さんは夫婦だから、

これからもずっと一緒だろうけれど、母はいずれ、一人になるかもしれない。

そんなしんみりした気持ちを語ると、母は照れくさかったのか、

また壁にかけた日向淳平に向かって、何やら話しかけている。



……全くもう、田舎のおばさんの愚痴まで聞かされたら、日向淳平のストレス、

溜まりっぱなしになるんだから。





こたつに入りながら、年賀状代わりの携帯メールに返信をしていると、

すっかり出来上がった敬から、お迎えの連絡が入った。


「わかった、わかった。今行くからね!」


私は車のカギを手に取り、千鳥足で音の外れた歌を歌っている弟の元へ向かうため、

エンジンをかけた。



109 形のない影


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