109 形のない影

109 形のない影

強調文

日付が変わる2時間ほど前に、敬の待つ居酒屋前へ到着する。


「姉ちゃん、森本って言うんだこいつ、なぁ、3丁目なんだよ、乗せてやって」

「はいはい……」


酔っぱらいの弟と、その同級生を後部座席に乗せ、まずは友達の家に向かって出発する。

『総合公園』の横を通るとき、『SLOW』のロケで訪れた時のことを思い出した。

子役と、スタッフと、地元のエキストラ達。

そして……



撮影の様子を満足そうに見つめていた、田ノ倉さん。


「知ってますか? ここって、すごいんすよ」

「何? 何言っているのか、よくわからないけれど」

「あのですね……この公園、映画、撮りました!」


すっかり酔っ払った森本君は、何がおかしいのか手を叩きながら笑っている。

敬はその頭を一度パシンを叩き、私がそのロケに同行していたんだと、

なぜか胸を張って言い出した。


「マジっすかお姉さん、マジで参加したんすか」

「そうだって!」

「敬に聞いてないだろうが!」


成人式を過ぎた大学生なのに、こうしてじゃれ合うと、会話のやりとりは小学生並だ。

信号を順調に通りすぎ、目印のコンビニを右に曲がると、友達の家はすぐそこだった。


「じゃぁな、また!」

「おぉ……愛してるぞ、敬!」

「俺も!」


どうでもいいような会話を聞き流し、私は家に向かうため車を出発させる。

友達がいなくなり、話す人が消えたからなのか、

敬はガラスに頭をつけ、首をカクンカクンと揺らし始めた。

全く、ここまで酔っぱらったことなんて、見たことない。

余裕があるように見えていたけれど、就職活動、相当大変だったのかな。


右折と左折と別れる交差点で、私の目に飛び込んだのは、

あの星空を見た場所への案内板だった。



『田ノ倉さん、人は亡くなったら何になると思いますか?』

『亡くなったら?』

『笑わないでくださいね。私、父は星になったと思っているんです。
飛行機事故で亡くなったからかもしれませんが』



見上げた空には、今日もまたあの日のように星が光っている。

バックミラーで敬が眠っていることを確かめると、

私は自然とあの星空が見える道へ、車を動かしていた。



わかっている……そんなことをしたって、あの日が戻るわけではないけれど、

でも……



「うわぁ!」

「ちょっと、何よ敬。急に大きな声出さないでよ」

「姉ちゃん、森本、携帯忘れてる」

「携帯?」


酔っぱらいの友達が携帯を忘れたと、敬が後部座席で慌てだした。

明日渡せばいいと言ったのに、携帯がないのは不便だからと、敬は譲らない。

こういうところが融通性のなさっていうの? 全く……


「もう! わかった。この道を下って曲がればまた3丁目の方へ行くから」

「あぁ……っていうか、なんでここを走っているんだよ」




……いいでしょ、そんなこと。




こんな夜、対向車さえあまり見かけない道に、止まっている車があった。

ライトが当たった場所を見ると、ナンバーは『わ』の印で、

レンタカーであることがわかる。

こういう時は見ないことに限るのよ。中でキスでもされていたら、

どういう顔をしたらいいのかわからないし……


少しアクセルを強く踏み込んで横を通りすぎ、曲がり角でウインカーを出した。


「姉ちゃん……」

「何よ、今度は」

「今……」

「今?」

「今、すれ違った車に、田ノ倉さんがいた……」


私はそのセリフに急ブレーキを踏み込み、

敬はバランスを崩し、前の座席にぶつかりそうになる。


「何するんだよ、危ないだろうが」

「何って、そっちこそ何言ってるの、敬、どこに田ノ倉さん?」

「今だよ、今、車が止まっていただろ道の脇に。中に田ノ倉さんがいたって!」

「ウソ……」

「ウソじゃない、俺、見たんだ、運転席に田ノ倉さんがいたって」


交通ルールなんて無視をして、私はそこからUターンした。

ウソだという気持ちと、会いたいという気持ちが、半分ずつ行ったり来たりする。

必死に戻った場所には、もう車はなかった。


「いないじゃない……」

「あれ? ここにいただろ、車。白だったっけ? あれ? 黒だったっけ?」


なんなのよ、そのあいまいな記憶。

それじゃ、本当に田ノ倉さんを見たのか、そこも怪しくなってくるじゃないの。

この道は1本道で、脇に細い道もないし、

あのレンタカーがどこに行ったのかなんてわからない。


運転席の人の顔、見ておけばよかった。

つい、暗闇でキスでもされていたら嫌だからって、顔を背けてしまった。


もし、本当に田ノ倉さんだったら……


「ねぇ、敬……」


敬の顔を確かめようと後ろを向いたが、またこっくりと首が動き始める。

メーター横についている小さな時計を見ると、時間は夜の10時を過ぎていた。

今日は正月の3日。

普通に考えたら、田ノ倉さんがこんなところに来るなんて、何も理由がない。



でも……



でも……もしも、あの日のことを思い出してくれたのなら、

あの『星空』を見た記憶が、浮かび上がってきたのなら……



携帯を持ち主の森本君に戻し、半分寝たままの敬を乗せ家に戻ると、

私達の帰りを待っていた母が、出迎えてくれた。


「敬、ちょっと、部屋まで歩けるの?」

「おぉ……」


母の支えを振り切り、敬はふらつきながらも部屋へ向かった。

私は車のカギを閉め、玄関へ向かう。


「ねぇ和。今日、ここへ誰かが来るような話があった?」


私が敬を迎えに行くのと同時に、母は近くに住む会社の同僚の家へ届け物をしたらしく、

1時間くらい家を空けた。


「隣の常田さんがね、うちの前に車が止まって、中から若い男の人が出てきたって言うの。
飯島さんに用事ですかって聞いたら、『はい』って言ったって。
すぐに戻りますよって声をかけたんだけどって……」

「それで?」

「お母さんが戻った時には、いなかった……」



『ウソじゃない、俺、見たんだ、運転席に田ノ倉さんがいたって』



田ノ倉さんだ……

何も確信がないのに、私はそう思うことしか出来なかった。



110 ウソか本当か


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コメント

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きっと!

あ~~なんというすれ違い。v-12
こういうのが良いよね。

でもレンタカーで?一人で?

迎えに行かなければ、友達を送らなければ・・
考えても詮無い事。
でも考えてしまうのが恋って奴です(;;)

キスじゃなかったみたいだよ

yonyonさん、こんばんは

>あ~~なんというすれ違い。
こういうのが良いよね。

あはは……なんだかおかしくて笑ってしまった。
そうそう、すれ違いは恋愛ものには絶対だよね。
かといって、それだけでは話も作れないからさ。

さて、敬は本当に田ノ倉を見たのか、
……は、次回へ。