110 ウソか本当か

110 ウソか本当か



4日の朝は、二日酔いの敬を起こすことから始まった。

昨日の夜、すれ違った車にいたのは、本当に田ノ倉さんだったのかと問いかける。


「……だったような、そうじゃないような?」

「何よ、それ」

「あぁ、もう、ガンガンあれこれ言うなよ。頭が痛いんだ」

「敬!」


布団を思い切り被った敬は、それなら電話でもして確かめろと、

当たり前のことを口にした。私だって、それが出来たら苦労などしない。

事故で携帯の番号も変わってしまったため、連絡を取ることも出来ないんだから。


でも……


明日からまた、仕事がスタートする。

そうしたらさりげなく本社へ向かい、田ノ倉さんに聞いてみよう。

『SLOW』のロケで、何か追加撮影でも決まったとか、

あの『日本の空』の本を見て、偶然ここへ星を見に来たとか……



私のことを、思い出してくれたのかとか……



どうか、そんな前向きな理由であって欲しいと願いながら、田舎に別れを告げ、

私はまた東京へ戻った。





「敬もあずさも元気ならよかったわ」

「来年家の近くに温泉がオープンするから、お二人でぜひ来てくれって、
母からの伝言です」

「温泉かぁ、いいなぁ」

「そうね……」


親子の温かい空気と、夫婦の温かい空気に触れた私の正月休みは、

敦美おばさんが干してくれたふかふかの布団で幕を閉じた。





「今年も、『BOOZ』が業界トップを走り続けられるよう、頑張りましょう」


そして、新年最初の出社日。

秋田編集長の、毎年寸分狂いないと評判の挨拶から、編集部はスタートした。

今日はこのまま本社へ顔を出し、社長の言葉をいただくことになっている。

小さな紙コップだけれど、『乾杯』もあるらしい。


「面倒だなぁ、いちいち本社へ向かうのは」

「いいじゃないですか、1年に1度ですよ」


今日スタートを切るのは、『秋月出版社』の発行する雑誌、およそ半分の社員たち。

明日スタートの人たちは、また明日、社長の話を聞く。

人の多さに、あらためて大きな会社なんだと、そう思う。

あちらこちらで、頭を下げあって、挨拶をかけあって……


『ねむりねこ』の編集長さん、ふわふわのセーター温かそうだな。

『週刊文青』の編集部員さんたちは、またバッチリ髪型を決めているし。


「あら、飯島さん何をお探しですか?」



東原さんではないことは、間違いないのですが。



「いえ、別に探しているわけではありません。
なかなかお会いできない人たちばかりなので、ついあちこちを見ていました」

「まぁ、そうですよね、『BOOZ』はいつも潜っているから。
スポットライトを浴びる人たちを見ると、眩しいでしょ、目が」


……どういう解釈なのよ、それ。


「年が変わっても、相変わらず失礼な人ですね、『BOOZ』は潜っていませんよ、
道の反対側から角度を変えてみてください。それに眩しくもないですし」

「あら、飯島さん……新年早々、噛みつきそう」


やめよう、やめよう。こんなケンカをしたところで、

何も得るものなんてないんだから。



「あけましておめでとう……」



社長の挨拶が始まり、編集部員たちが一斉に頭を下げた。

いや、私の隣にいる、態度のでかい一人をのぞいては。


「諒がいないな」


菅沢さんの言うとおり、社長のそばにいるだろうと思える田ノ倉さんの姿が見えない。

新年早々、体調でも崩したのだろうか。

秋田編集長とは違って、さすがに社長の挨拶が一文だけというわけにはいかず、

経済状況から、今年の『秋月出版社』が目指すもの、そして抱える問題点など、

要点はまとまっているものの、話しは続いていく。

その途中で、並んでいた役員たちが道を少し開け、そこに田ノ倉さんが入ってきた。

いつものようにしっかりとスーツ姿。


よかった……具合が悪いわけではなさそうだけれど。

隣にいる男性に話しかけられて、真剣な表情のまま頷いている。

あの人確か、この間『映報』の社長さんが来ていた日、一緒に回っていた人だ。


社長の話が終わり、それぞれの編集部へ、

また頑張ろうと意気込みを持った社員たちが散らばっていく。

田ノ倉さんは……


「郁……」


菅沢さんに声をかけたのは、社長だった。

私にも目を合わせてくれたので、慌てて頭を下げる。


「正月くらい顔を出せと言っただろ」

「正月もいつもと同じですから……」

「そう言わずに……」


田ノ倉さんが役員たちとの話を終えて、食堂を出て行くのが見えた。

話しかけるのは今しかない。編集部までわざわざ出かけていって話すほど、

重要なことではないんだし。


「あの……田ノ倉さん」


呼び止めた田ノ倉さんは、少し間をおくように振り返った。

なんだろう、呼び止めたのは迷惑なのかな。


「3日の日、『総合公園』の方へ行きませんでしたか?」

「『総合公園』?」

「はい。『SLOW』のロケで利用した、大きな公園のことです。
あ、いえ、実は、私実家に戻っていて、車に乗せていた弟が、田ノ倉さんがいたと……」



……ううん、私の実家へ、尋ねてきてくれませんでしたか?

あの二人で見た『星空』を、一人で見ていませんでしたか?


そう尋ねたいのは山々だけれど、言い切れないまま両手で握りこぶしを作る。



あなたの記憶が、戻っているのではないかと、そう……



「申し訳ないけれど、それは人違いだと思います」



人違い……



「僕は3日、どこにも出かけていません」



そうなんだ……



「それに、『総合公園』だとか『SLOW』のロケ地と言われても、
まだ、記憶の方がハッキリしていなくて、どこを指しているのか。
それに、今、運転する車もありません」



記憶、戻ったんじゃなかったんだ……



「飯島さんが言われましたよね、過去に囚われず、助かったことに感謝して前を向けと。
だから考えないようにしていたつもりだったのですが」

「……はい」

「似ていた人だったのでしょう……」



似ていた人だった……

田ノ倉さん、あまりにも冷たくて、どうでもいいいような言い方だ。

『迷惑なんだ』って、背中も目も、口も、みんな語っている。





「いい加減にしろよ、諒。記憶はもう……戻っているだろう」




どうしたらいいのかわからない私の後ろから、ハッキリと聞こえてきたのは、

菅沢さんの声だった。



111 愛の鎖


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コメント

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え?!(@@;)

え?!記憶は戻ってるの(@@;)
だったら、なじぇ~・・・
テラスの君はいったい何を考えてるの~ーー;
どういう展開になるのか、さっぱりですわ^^;

陽君、新しい家庭で上手く行ってるようですね
よかったわ~
>子供ぬいぐるみを被った、爪楊枝を愛するどこかの親父さん
には爆笑してしまいました

ももんたさんのこういうセンスが最高だわ(*^_^*)

うふふ

yokanさん、こんばんは

>え?!記憶は戻ってるの(@@;)
 だったら、なじぇ~・・・

ねぇ、なじぇでしょう。
それはだんだんとわかります。

陽くんのような子供、結構いるんですよ。
言い回しが気に入っていただけて、考えた私も嬉しいです。

もう少しお付き合いください。