113 空想病院

113 空想病院



次の日は、朝から雨だった。

雪に変わりそうな寒い朝の雨は、心まで冷たくしてしまう。


「はぁ……」


再検査の結果を見るまでは、あれだけ開き直りの態度を見せていた細木さんだったが、

担当の医者がとても美人で、淡々と不摂生ぶりを責められたことがショックだと、

朝から何も口に入らない……らしい。


「解決方法は、聞いてきたんだろ」

「聞きました、聞きましたれど、なんだか『人間失格』とでも言いそうな口調で、
もう、どうしたらいいのかわからなくて」


編集長の問いかけにも、ため息が重なったような抜けた答えしか返ってこない。

全くもう、治す気持ちがあるのか、ないのか……

ハッキリしないんだから。


「細木、意外にな、強いことをガンガン言われていると、
それがまた、クセになったりするものなんだぞ」

「クセ?」

「そうだ、『もう、あなたってどうしてこんなにダメなの!』って
繰り返し言われていると、だんだん……あぁ、もう一度言ってくれ! という
気分になるってことだ」



編集長、どういう論点の話をしているんですか、健康診断から。

それって、『S』とか『M』とか……



「そうですかねぇ……」

「いいじゃないか、ある程度の成果が出るまで、通い続けろって言われたんだろ」

「うん……」

「また会えるんだぞ、その美人に……」


コラコラ……菅沢さんまで、おかしな展開へ持っていこうとする。

反省すべきなのは、細木さんの食生活ではないですか。


「そうか、そうだよね、俺、またあの人に会えるんだよね」

「あぁ、体の心配までしてくれるんだぞ」

「編集長、変な盛り上がり方をするのはやめたほうがいいと思います。
細木さん……あのですね」




「そうだよね、俺一人だと甘えてしまうから、
彼女が一緒に健康を考えてくれているってことだよね」




三段跳びで、月までジャンプする人がここにいた。

『一緒に考えてくれる』って、向こうは医者だって、仕事、仕事!

ホステスさんに優しくされて、目をハートにしちゃう素人さんより、

心がおかしくなってますって。


「そうだ、そうだ。少しでも数字がいい方向に行ったら、
『細木さんできるじゃないですか、私も嬉しい!』なんて言ってくれるかも知れないし」

「お! いいねぇ、郁。冷たい態度から一転して、甘えた声を出すパターンか」

「そうか、そうだよね、うん!」


ちょっと、ちょっと、どこへ行くのよ、3人とも。

及川さん、たまには止めましょう、こういう発想を!



……あれ? こんな時に、どうしてヘッドフォンしてるのよ。



「最初は怒らせておいて、私がいなくちゃダメなのねと思わせないとな」

「そうですよね、編集長」

「いつまでも体型が変わらないんだからと思わせておいて……」

「おいて?」

「しばらくして、二人っきりになって……」

「なって?」



……二人きり?



「見つめあって……彼女の手がこっちに向かった時に」

「時に?」



……見つめあう? 彼女の手?



「目の前で突然、脱いでみたら?」

「みたら?」




「いい加減にしてください。どうして脱ぐんですか!」




暴走していた『妄想』は、私の『叫び』によって、やっと終了した。

何が『二人きり』よ、『見つめあう』よ。女医さんに失礼でしょうが。



……と思ったら、細木さんも編集長も、『そちらこそどうしたんだ』の目で私を見る。

私、止めたんですよ、あなたたちのとんでもない空想を!


「飯島、何想像しているんだよ。『健康診断』だろ、上半身くらい脱ぐだろうが……」


あれ?


「『二人きり』で聴診器当てないとなぁ……胸に手くらい、触れるだろうし」


菅沢さんの目が、『してやったり!』という表情に見えて……


「聴診器……ですか」

「うわぁ……飯島。お前、細木をどこまで脱がせたんだ」

「へ? あ、いえ……」

「いやん、和ちゃん!」


細木さんまで、見てもいない胸を隠すポーズをする。

あぁ、完全に引っかかった。すごく腹が立つ! なんなのよ、この人たち。

もう、細木さんがどこまで太っても、この場で倒れたって心配なんかしませんから!


「ほら、仕事だ、仕事」


編集長もうっすら笑ってますね、隠そうとしても背中が動いてますってば。



最低な男たち!





「あはは……楽しいなぁ、和の職場は」

「それからなぜか細木さんが真剣にお菓子をやめて、1週間になるんですよ。
これこそ奇跡だと思って」

「なんでもな、目標があると頑張れるものなんだよ。
ただ、健康のためにやめろって言っても、長続きしないだろう。
きっと編集長と菅沢さんは、細木さんの男心に触れてやったってところか」



『男心』? いやいや、ただの『スケベ心』でしょう。



「それでもいいじゃないの、結果的にうまくいけば」

「まぁ……うん」





とんでもない忘年会から、新年を迎え、

あれこれあった1月はあっという間に過ぎていった。

カレンダーが2月をしっかりと歩み始めた頃、ちょっとした噂が耳に入るようになった。


「『SLOW』がほぼ完成らしいぞ。今朝、参考書部門にいる友達のところに行ったら、
『映報』の広報担当が数名、『SOFT』に来ていたって」

「『映報』かぁ、今年は過去作品のDVD化なども進むらしいから、
社内で見かけることも増えるだろうな」


『映報』の広報担当かぁ……、それって実玖さんのことなんだろう。

そういえば、ここのところ見かけていない。

あれからどうしているのかな。


「そうだあのお嬢さん、体調崩したらしくて、担当から外れたんだと。
撮影は上手く行ったけれど、うちの王子がすぐに事故にあったり、
今度は『映報』のお嬢さんが体調を崩したりで、
お祓いでもした方がいいんじゃないかって、関係ない部署ではもっぱら噂されているよ」


実玖さんが? 体調を崩した?

私には関係のないことだと思いながらも、ひどく胸がざわついた。






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コメント

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No title

BOOZ編集部おもしろい、
こんな職場なら、頑張れそうです。
ますます楽しみ
ガンバレ細木さん

細木さん、ガンバ!

まったく男って奴は・・・

皆が和を和まそうとしてることに気づいてる?

実玖さんも具合がわるいの?

諒に関係してるよね、きっと・・・

いい仲間達です

ぱるるさん、こんばんは

>BOOZ編集部おもしろい、
 こんな職場なら、頑張れそうです。

ということは、ぱるるさんは社会人ですか?
職場の人間関係って、大事ですよね、確かに。

細木が頑張るのかどうか……
見守ってやってください。

さて、なぜなのか

yonyonさん、こんばんは

男が集まると、こんなものかな……なんて。

>皆が和を和まそうとしてることに気づいてる?

落ち込む和を見ていた仲間ですからね、
そういった面があることに、気づいてないでしょうけれど。

実玖については、これから……