114 噂の真相

114 噂の真相



『秋月出版社』が『映報』と協力して作った『SLOW』が、

細かい部分の修正などを除けば、撮影はほぼ終了した。

それなのに、活躍していたはずの実玖さんは、体調を崩し現場から離れていると言う。


「細木さん、それ本当ですか」

「あぁ……年明けから仕事に入っていないんだって。
会社にも出ていないようだから、結構大変なのかねぇ」

「年明けから?」


どう考えたって1ヶ月経っている。

それだけ仕事に影響が出るくらい、体の調子が悪いんだろうか。


「あぁ、そんな噂が流れているのか。
いや、あのお嬢さんは広報をやめて、社長の秘書をしていると聞いたけれど……」

「社長秘書?」

「らしいぞ……」


増渕編集長からそう聞いたと、ラジオ体操をしながら、秋田編集長がそう答えた。

そうか、元々お嬢様なんだから、

お父さんのそばにいて、社長秘書になってもおかしくはないよね。


「飯島さん、今日はMBCとの打ち合わせがあるから、忘れないでね」

「あ……はい」


そうだった、そうだった。

『SLOW』は終了らしいけれど、うちのコラボはこれからが本番だった。

日向淳平と、また会えるんだっけ。



「……また会えるんだっけ」



私の心のつぶやきと同時に、細木さんの声が聞こえた。

やだ、どうして同じことを言うんだろう。


「細木さん、500グラム痩せましたねって、玲子さんが言ってくれるかも……」


玲子さん?

あぁ、あの女医さんのことか。


「次もまた500グラム……頑張ってね……なぁんて」


細木さんが500グラムって言うと、

ここが精肉店のように思えるから不思議だわぁ……





『ストレート』





日向淳平がうちの菅沢さんに協力を頼んできた、

あのスペシャルドラマのタイトルが決定した。

演じる『塩田孝輔』は大学を卒業し、とある二流出版社に就職し、

男性誌『SET』を担当するようになる。

もちろん理想はあったが、現実はそれだけではなく……


「最初は反発してばかりの孝輔だけれど、仕事をしている人たちと色々触れ合いながら、
編集者としても、男性としても成長していくわけですよ。
あぁ……ここなんて菅沢さんそのものって感じですよね」

「どこだよ」

「ほら、ここです、ここ」


私は台本に書かれている『孝輔、不機嫌そうに椅子に足を乗せ、

頭の後ろに手を組んで天井を見る』というト書きを指し示した。

そうそう、菅沢さんってこういうポーズするときあるってば。

作家の方、菅沢さんをどこからか見ていたんでしょうか。


「あ、そうそう、郁はこういうことするよ」

「ですよね、細木さん。菅沢さんがやっていると、ふてぶてしさしか感じませんけど、
あの日向淳平が演じると、このポーズもかっこよく見えちゃうんですよね、きっと。
なんたって、足が長いし……」

「悪かったな、ふてぶてしいだけで……」

「ほら、和ちゃん、ここも見てよ」


細木さんが言ったのは、孝輔のセリフ。

『俺は知らない。自分のことは自分でやれよ』という部分を示した。


「うわぁ……あります、あります。どうしたらいいんですかって電話をすると、
知らない、自分でやれって言いますよね、確かに」

「迷いもなくズバリと言うからな、郁は……」

「あのなぁ……」




「でも、菅沢さんは心の奥で、考えてくれていますよね、きちんと……」




PC前に座る及川さんが、そうポツリとつぶやいた。

私も細木さんも顔を見合わせ、その通りだと頷いてみせる。

台本の中で孝輔も、同僚の失敗に厳しい言葉を吐きながら、

実際にはその後ろで、フォローにまわっているのだ。



……そんなところも、菅沢さんによく似ている。



「熱い男なんだよ、郁も孝輔も……」

「はい、そうですね」


『BOOZ』メンバーの意表をついた褒め言葉に、どこか気恥ずかしかったのか、

菅沢さんは無言のまま席を立ち、編集部を出て行ってしまう。


「あはは……たまには郁をからかうのもいいな。
あいつ、嬉しくて泣いていたりして……」

「泣くわけないじゃないですか、あの人が」

「まぁ、そうだね」


いつもの『BOOZ』編集部は、暦が2月になっても、変わらず動いている。

『SLOW』が一段落したからなのか、

それまで『MELODY』の方に関わるだけだった田ノ倉さんが、

また両方のチーフとして動き出した。

4月のスタートを見越した動きが、それぞれの編集部で出始める。

ドラマの仕事が一段落したら、

菅沢さんは私を『MELODY』へ異動させようとしていたようだったけれど、

水面下で動いていたはずのその話は、なぜか突然途切れてしまった。


「増渕と田ノ倉が、どうしても今のメンバーで動かしたくないって言うんだよ」

「なぜですか、年末まではその方向で進んでいましたよね」

「そうなんだ、大橋君も、『BOOZ』に興味を持ってくれていたんだけどね。
まぁ、互いに納得してやらないと、無理な異動をしてギクシャクするんじゃ
活性化の意味もないしな」



田ノ倉さんはきっと、私を受け入れたくないのだろう。



菅沢さんが新年挨拶の日、尋ねたように、

記憶が戻っていようがいまいが、こうした態度を取っていることが、『答え』なんだ。

それならそれを、受け入れるしかないわけで。


「菅沢さん仕方ないじゃないですか。
私がお荷物なのはわかりますけれど、そんなに追いやろうとしないでください」

「追いやろうとしているわけじゃない、俺は……」

「私、『SOFT』や『MELODY』でなければダメだなんて一度も言ってませんよ。
子供の雑誌でもいいですし、どこでも頑張ります。
もちろん、このまま『BOOZ』でも、まだまだやってみたいことがありますから」


そう、下を向くのはやめよう。私が悪いと評価を下されたわけではない。

異動できないのは、私がまだまだ、

この場所で学ばなければならないことがあるから。

それに……


「あぁ、うまくいかないよぉ」

「あれ? 俺の手帳はどうしたっけ?」


ほらほら……


「細木さん、タイトルロゴを横にしてみたらどうですか?
そうするとここに1行余裕が出来ますし」

「ん? あ、そうだね、横もありだね、よし、そうしてみようか和ちゃん」

「編集長、手帳でしたらデスクの一番上の引き出しに、入れていたじゃないですか」

「……そうだっけ? あ、本当だ、本当だ」


こうして私がいないと、『BOOZ』はきっとうまく回らない。

及川さんだって、もう少し本調子になるまで時間がかかりそうだし……


「ちょっと出ます」


ただ、納得のいかない、一人をのぞいては……



菅沢さんはポケットに手を突っ込んだまま、何も言わずに編集部から出て行った。






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