115 密着取材

115 密着取材



次の日、週末にあるゴルフコンペの打ち合わせだという理由をつけて、

増渕編集長が『BOOZ』へやってきた。

菅沢さんは朝から取材に向かっていて、編集部にはいない。


「飯島さん、なんだかその気にさせて悪かったね」

「いえ……」

「いやぁ……昨日もさ、菅沢がやってきて田ノ倉に突っかかって大変だったんだ。
どういうことで飯島さんの異動がなくなったのか、説明しろって」


菅沢さん、やっぱりあの後、田ノ倉さんのところに行ったんだ。

そうだろうなと思ったけれど、ハッキリはわからなかったから、

止めるわけにもいかなかったし……


「正直俺はね、大橋よりも女性の方がいいと思っているところはあるんだよね。
漫画家の先生方もほとんど女性で、話も合うだろうし。でも、田ノ倉が譲らなくてさ。
あいつがまた『SOFT』を兼任することになると、
男性が一人編集部内にいる意味が違ってくるって……。
それも一理あるんだよ、女性だけだと、どうも流れてしまうところもあってね」



田ノ倉さんが止めたんだ。

これだけ嫌がられると……なんだかも通り越しちゃうな。



「増渕編集長、そんなに気にしないでください。
私、まだまだ『BOOZ』で頑張りますから」

「うん……」


最初の面接の時、あなたに鼻にもかけてもらえなかったんですから、

こうして申し訳ないなんていってもらえること自体、進歩なんですよ、きっと。

それでも、増渕編集長が私のいるところで話している事が申し訳なさそうに思えて、

資料を探す口実を見つけ、私は本社へ向かう。



『日本の空』



あの本がまた、無性に見たくなった。





「あれ?」

資料室で探してみるけれど、以前あった場所には別の本が置いてあった。

どこかの編集部が借りているのかと、PCで検索してみたが、貸し出された形跡はない。

だとすると、この部屋のどこかに必ずあるはずなんだけど……


「ないなぁ、どうしてだろう」


ないと思うと、さらに見たくなる。

1時間、資料室の中をあれこれ探してみたけれど、結局、探し出すことは出来なかった。





さらにカレンダーが3月に近づき、冬の寒さから、新しい春の気配に変わってくる。

そして私の状況も変化したからなのか、また取材へ行くことになった。

今回は、とあるチェーン店で働く、3年目ホステスさんの密着取材。

なんと、私の企画が採用されたのだ。

いつもなら菅沢さんになんだかんだと言われるのに、

なぜか、今回はすんなりとOKされて……


「企画の意図は、前回の打ち合わせでお話した通りです。
4月はみなさん新しい環境に変わる時期ですよね。
お店の門を叩くのも、新生活に慣れてきた頃ということが多いようなので、
その前にこういった特集は、お店側も協力しやすいとのことでした。
楽に稼げるというイメージだけつくのは、よくないらしくて」

「それで、女の子のOKは出たのか?」

「はい、お店側の推薦もありまして、斉藤香奈さんにお願いしました」


貼り出した写真に、揃って向かう視線。

細木さんは腕を組んだまま頷いていて、

及川さんは興味がないのか、企画書の方を向いている。

編集長はなぜか、近所の娘さんじゃないかと、何度も瞬きしながら確認し……



さて……菅沢さんの反応。



「いいんじゃないの? この人なら」



よかった。菅沢さんのOKが出たのなら、それで大丈夫。

編集長が近所の娘さんではないかと、しつこく写真を見ている間に、

話はどんどん先へ進み、早速密着取材開始の日を迎えた。



……結果、近所の娘さんではなかったしね。





「『BOOZ』の飯島と申します。
これから3日間、色々と張り付きますけれど、よろしくお願いいたします」

「はい、よろしくお願いします」


齋藤香奈さん。写真で見ていたよりもさらにかわいいかもしれないな。

今回の取材は、ちょっとしたプライベートを見せることになるので、

写真の掲載にも、ものすごく気を使う。


「お部屋の中を撮らせていただきますが、
場所が特定されるようなことは一切無いように、細心の注意を払いますので」

「大丈夫ですよ、わかるようだったら引っ越しますから」


あっけらかんとした性格なのか、話の間にもネイルの手入れは手を抜かないようで。


「私、この取材が終わったら、指名増えるといいな。
ジャンプアップ出来たら嬉しいんですけど」

「そうですね……」


互いに狙い目があるのは、当たり前のこと。

予算がない『BOOZ』は、カメラマンを及川さんが担当し、密着取材が始まった。

人の顔を直接見るのは得意ではないけれど、レンズを通して見るのは、

結構好きらしい。

お店の中での準備、さすがに着替えの場所に及川さんが入るわけにはいかずに、

私がカメラを持って、齋藤香奈さんの素顔をカメラに納める。


「ねぇ、ちょっと見せてよ飯島さん。私、かわいく撮れてますか?」

「大丈夫ですよ、どうですか?」


香奈さんはカメラに収まった写真を、同僚たちに見せ始めた。

新人は香奈さんのおしゃべりに、一生懸命頷き、

先輩は『あまり浮かれてないで』とちょっぴり釘をさす。


「ねぇ、安奈も見てよ」

「出来たら見るわよ」


同じお店で働く『安奈』さんだけが、その輪に加わらないまま、

とりあえずの撮影は終了する。

それにしても、ただオシャレにだけ、気を使っているのかと思っていたけれど、

休憩時間に新聞を読んでみたり、ネットで言葉を調べてみたり、

自分を指名してくれるお客様との会話が、

スムーズになるように日々の努力は欠かせない。

指名がナンバーワンだという女性は、『経済新聞』を片手に、軽めの食事を取っていた。


そして、お店が終了した後、香奈さんの自宅がある場所までお邪魔して、

くつろぐ姿の撮影まで許可してもらった。

20代前半の女性らしい、かわいらしく明るい部屋。


「それでは、また明日お願いします」

「じゃあね、飯島さん、及川さん」


初対面の人でも、あまり構えず話しが出来るのは、彼女の強みなのだろう。

それにしても、ここまで撮影を許可してくれるとは、思わなかったな。

街の中に出ると、すっかり終電終了の時刻、

及川さんと私は、互いに頼んでいたタクシーに乗り込み、1日目の取材は終了した。





「これが写真です」

「なかなかいい雰囲気で撮れているね」

「はい……私と及川さんが一緒に行動することが、楽しいみたいで、
香奈さん、家まで案内してくれました。もちろん、外の写真は掲載できません」

「当たり前だろうが」


細木さんと菅沢さんがあれこれ話し合い、

香奈さんが新聞を真剣な顔で読んでいるフォトや、

休憩中にも、足のむくみを取るための体操をしているフォトなどを選んで行く。


「今日は、買い物をするようです。私も付き合います」

「買い物?」

「はい……一緒に来ますかって言われたので」


こうなったらとことん付き合って、楽しい内容にしよう。

私はそう思いながら、取材ノートに今日の予定を書き込んだ。






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