118 一夜明けて

118 一夜明けて



朝、目覚めてカーテンを開ける。

ふと時計を見ると、いつも起きる時間より、ほんの5分ほど早かった。

電線の上に鳥が2羽止まっている。

すごいね地球って。回っているうちに朝が来るんだもの。

昨日の夜……から……



『こんな怪我を負わせてしまって、本当に申し訳ありません』



昨日、そんなふうに頭を下げる菅沢さんを見ていたら、

私の方が申し訳なさでいっぱいになった。

私が津川家に戻る少し前にも、編集長から謝罪の電話が入っていたし……


『菅沢さん、とりあえず、中に……』

『いえ、今日はこれで』


敦美おばさんの誘いも断り、菅沢さんは玄関から出て行ってしまった。

まぁ、のんびりお茶なんて飲む気分ではなかっただろうけれど。

でも今回は、『私の企画を認めてくれた』からこそのアクシデントだった。


私がもう少し回りに気をつけていたら、避けられたことかもしれない。

実際に、妙な男の人がいたことまでは気付いていたのに、

『どうにかなる』という思いだけで、きちんと報告もしなかった。


私を送り、津川家を出た菅沢さんは、またポケットに手を入れて坂道を登っていった。

いつものように……



でも、ちょっとだけ背中が丸かった気がしたのは、

寒かったからなのか、それとも、気分的に下向きだったからなのか……

菅沢さんに元気がないのって、しっくりこない。


「あ……和ちゃん、起きたの? 腕、痛む?」

「大丈夫です、今おります」


知らない男が後ろに立った時の恐怖は、すぐに忘れることなど出来ないだろう。

それでも、こんなことにしょげていてはダメ。

菅沢さんがもっと責任を感じてしまう。


初めて堺さんのところへルポを取りに行った時も、

『MOONグランプリ』で、何も知らず、罠にはめられそうになった時も、

振り向けばいつもそこにいて、助けてくれたのだから……



元気にならなくちゃ。

また、明るくケンカしないとね。



「よし、今日は大掃除でもしようかな」


編集長と菅沢さんの言葉に甘えて、

1日ゆっくりさせてもらおうと心に決めたのに……





「姉ちゃん!」

「和!」


黙っているわけにはいかないと思った敦美おばさんが、

怪我の具合を相当大げさに言ってくれたおかげで、実家から敬と母が慌てて飛んできた。

傷ついた娘の姿に、涙する母が……





「キャー! 見て、日向淳平よ、ほら、やっぱりいい男よね」

「そうかしら、私は畑山宗也の方が……」

「やだ敦美、ダメダメ、見る目がないわよ。うちにあるサインを見てみたらいいわ、
すぐにこっちだってそう思うから」





……当たり前だけれど、我が家の場合はいるわけもなく、その夜は、大宴会になる。





「あ~ぁ、酔っぱらった中年の女が二人だな」

「全くだ、敬」


文則おじさんは、おばさんと母の代わりに台所に立ち、食べ終わったお皿を洗い出す。

私は座っている敬に、一緒に片付けろと肘で合図した。


「なぁ、姉ちゃん。あれから田ノ倉さんに聞いたのかよ」

「田ノ倉さんに、何を?」

「うちに訪ねて来たのかってこと」


あ、そうか、そのことか……

正月の3日、敬を迎えに行った帰り道、見かけたのは田ノ倉さんではないかと、

そう問いかけたけれど……


「人違い?」

「うん、田ノ倉さん来ていないって」

「本当に人違いだって、そう言ったのか?」

「何よ……ウソだって言いたいの?」

「いや、そうじゃないけれど。
でもな……何度考えても、田ノ倉さんに思えたんだけど」



『申し訳ないけれど、それは人違いだと思います』



あぁ、また思い出しちゃった。あの言い切られた時の寂しさを……


「本人が違うって言うんだから、それ以上のこと言えないでしょ。
ほら敬。そんなことブツブツ言ってないで、叔父さんを手伝ってよ」

「あぁ……うん」


私は洗った皿を布巾で拭き、敬はそれを指示した場所に納めていく。

すっかり眠ってしまった熟女二人は、幸せそうな寝顔のままで、

朝まで起きることはなかった。





怪我がたいしたことがないとわかり、敬と母は田舎へ戻っていき、

2日間休みをもらった私も、また、『BOOZ』に復活することになった。

秋田編集長の計らいで、混雑するラッシュ時間を避け、

しばらく11時の出社が命令される。


「おはようございます」

「……早くはないけどな」

「はいはい……」


いつものような菅沢さんの嫌味な言葉も、普通の日がそこにある気がして、心地よい。

デスクにリュックを置こうとして、綺麗な包み紙があるのが見えた。


「なんですか、これ」

「あぁ……お前が取材をした斉藤香奈さんからお見舞いだ」

「お見舞い?」


『ごめんなさい』と書かれたメモが添えられていて、

泣き顔ウサギのイラストも書いてある。


「お前を脅した男の存在は、薄々気付いていたらしいぞ、彼女も」


香奈さんは、この企画が入ったとき、どうしても自分に回して欲しいと、

店長にかけ合ったことを語ってくれた。


「どうも店長って男が、斉藤香奈さんに個人的な熱をあげていたんだそうだ」

「個人的な熱?」


半年ほど前まで、香奈さんのライバルである安奈さんと、店長はそれなりの仲にあった。

店長が振り向かせたい香奈さんの願いを聞き入れことで、

安奈さんにすれば、さらなる対抗心が生まれたという。

自分を贔屓にする『常連客』に、香奈さんが店長を口説き落としたために、

自分が選ばれなかったと愚痴をこぼし、香奈さんを脅すよう仕向けたという。


「安奈ってやつも、実際のところ、ナイフまで持って脅すとは思っていなかったらしい。
ちょっと困らせてやればいいくらの軽いノリだったみたいだ」


及川さんが途中でいなくなったとき、少し困った顔をしたのは、

『男』の姿が消えることで、相手に隙を与える気がしたからという答えだった。



……そうか、及川さんのこと、個人的に気になったからでは、なかったんだ。



「ライバルっていうのも、こういう方向に向かうと、困ったものだな」



『ライバル』かぁ……

必要なものではあるけれど、度が過ぎると大変なことになる。

私はいただいた包装紙を開き、中に入っていたかわいいお菓子をそれぞれに配る。

菅沢さんは目の前に置いたチョコの包み紙を指で取り、一つ口に放り込んだ。






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コメント

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はじめまして

はじめまして。
昨日、偶然にこちらと遭遇をいたしました。
面白さに惹かれて、あちこちと読み散らかしております。
最初の方から、あらためて拝見させていただきます。
新参者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

とにかく楽しい

ももんたさん、はじめまして
とにかく楽しくて夢中で読んでいます。
BOOZのみんな、最高に楽しい。
これからも続けてください。

こちらこそ

落合順平さん、こんばんは

偶然にここを見つけてくださったみたいで、
とっても嬉しいです。
素人の楽しみ……だと思って、お気楽に読んで下さい。

こちらこそ、よろしくお願いします。

いい仲間達です

るりさん、こんばんは
こちらこそ、はじめまして。

>とにかく楽しくて夢中で読んでいます。
 BOOZのみんな、最高に楽しい。

ありがとうございます。
私も個性あふれる『BOOZ』メンバー、大好きなんです。
ぜひぜひ、これからも応援してください。