121 消えた星空

121 消えた星空



『日本の空』

日本の空が見せてくれる、色々な景色をまとめている1冊の本。

以前、田ノ倉さんと見たあの星空に似たものも掲載されていて、

これを見ると、『星になった父』と語り合える気にもなった。

なぜなのかわからないけれど、この本を見ると気持ちが落ち着くと言っていたのは、

田ノ倉さんだったのに……



どうして、こんなこと……



「どうしてこんなことをするんですか。大事な資料ですよね」

「これはもう、資料から外しました」

「田ノ倉さん……」


本を破っていたことを知られたのが嫌なのか、

それとも私がここにいること自体が嫌なのか、

田ノ倉さんの目は、こちらを見ようとはしない。


「いらないものなら、私にください」


動こうとしない田ノ倉さんから、破られたページと残ったページを奪い取る。

色々な思い出も、笑顔も、涙も、みんな傷つけられた気がして、

心の底から悔しくなった。


「この本を見ると、なぜか気持ちが落ち着くと言ってくれたのは、
田ノ倉さんじゃないですか」


資料室でそう言ってくれた時の田ノ倉さんが、今ここにいるのなら、

きっとこんなことはしないだろう。




『田ノ倉さんの記憶は戻っている……』




理由はわからない。でも、そんな気がした。


「田ノ倉さんには、田ノ倉さんの思いがあるのでしょうけれど、私には……」



もう……決めました。



「私には、大事な本です。破り捨てられるような、そんなものではないんです」



もう……あなたの心がどうなのかなど、私は聞きません。

これがあなたの答えなのだと、そう思うことにします。



「こんなことをするあなたは……」



何があったのかなどわからない。

わかりたいと思うけれど、語ってくれることはないだろう。



「……私の好きだった田ノ倉さんじゃない」



バラバラになった『日本の空』を抱え、私は階段をかけ下りた。

心がズキズキ痛む気がする。

もう……あの頃には、戻れない……


『手をたたきましょう』が流れる中を走り、歩いている人を避けながら、

私を受け止めてくれる場所へ、必死に逃げる。

扉を開けた編集部では、編集長が買ってくれたスープの匂いがして……


「飯島……どうした」


聞こえた声に涙があふれてしまい、私はそのまま菅沢さんにしがみついた。

『どうした』という問いは何度も聞こえたが、答える余裕なんてない。

泣きじゃくる私の周りに、心配する小さな輪が出来たとき、

初めてゆっくりと呼吸が出来た。





「こんな感じでどうですか? 飯島さん」

「ありがとうございます」


及川さんって起用なんだな。私だったらテープでベタベタ貼る位しか出来なかった。

ピンセットまで出してくれて、丁寧に細かい作業をしてくれる。


「写真の切れた部分は、こうしてのりを使って、丁寧に貼らないと、
ずれてしまいますからね」


折られたページをもう一度元の方向に戻し、少しずつ修正が進んだ。


「この本、確かに資料室にあったね。そうか、和ちゃんのお気に入りだったんだ」

「はい……」




お気に入り……です。




「それにしても、小学生じゃないんだから、お気に入りの本が捨てられていたからって、
泣いて資料室から飛び出してくるやつがいるか!」

「……いるんです、ここに」


田ノ倉さんが破っていたとは、言えなかった。

そんな話をしたら、菅沢さんがまた、ぶつかりそうだし……


「いや、飛び出したくなる気持ちはわかります。
他の人にとっては、たいしたものでなくても、本人にとってみたら、
大事なものって、絶対にあると思うし……」

「おぉ……信長、今日は語るねぇ」

「信長にもあるってことなんだろ、そういう大事なものが」

「はい……」


及川さんがフォローしてくれるなんて、なんだか嬉しいな。

PCやカメラが好きな及川さんだから、そういったメカチックなものなんだろうか、

大切なものって。


「信長の大事なものって、どんなものだ」

「おぉ、そうだ、そうだ、どんなものなんだよ」


編集長が発表してみろと言い出し、細木さんまでそれを後押しする。

菅沢さんは聞いているのかいないのか、キーボードをパチパチ叩き出した。


「及川さんだから、何かの部品とか、そういうものじゃないんですか?
今はもう製造していない製品とかの」

「ほぉ、そうか、信長はそういうの好きだもんな」

「いえ……違います」


及川さんはデスクの一番下を開け、何やら黄色い物体を取り出した。

編集長や細木さん、もちろん私、そしてPCを見ていた菅沢さんの目も、

黄色い物体に向かう。





「おばあちゃんが買ってくれた、ネコのぬいぐるみです」





何か言うべきなんだろうが、誰も言葉が出ない。

ハイテク機械に強い及川さんが持っていたのは、

思いっきり『アナログ』な、ネコのぬいぐるみ。




「……秀吉と言います」




信長に秀吉は名コンビなのだと、及川さんは楽しそうに説明してくれたけれど、

秀吉ならばネコではなく、サルじゃないかと……



頭で思っている人は多かっただろうが、誰も言い返しはしなかった。






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コメント

非公開コメント

優しいよね^^

ゲ!(ー_ー)!!やっぱりナイフがあった!!
おお~、怖いね~(;一_一)

BOOZの面々って優しいよね
何か問題が起こるたびに
その優しさが表面に出てくる^^

なのに、テラスの君は・・・
以前の優しさはどこへ~
和ちゃんを菅沢さんに取られちゃうぞ!

沈黙の意味

yokanさん、こんばんは

>BOOZの面々って優しいよね
 何か問題が起こるたびに
 その優しさが表面に出てくる^^

はい、個性的すぎるくらい、個性的な面々ですが、
その分、人の痛みには、みなさん敏感です。

テラスの君……

語れない理由がどこにあるのか。
もう少しお待ちを。