123 ぶつかる女心

123 ぶつかる女心



高部さんの撮影を終了し、

『BOOZ』編集部へ来るという樋山さんと一緒にタクシーに乗った。

道路は工事の影響で渋滞になり、なかなか前へ進まない。

ただ黙っているのはねぇ……何か、話題。


「高部さん、郁が好きなんだって、そう言っていたわ」

「あ……そうなんですよ、『水蘭を探せ』の撮影会の時、緊張から表情が硬くて、
菅沢さんに怒られたんですけれど、逆にそれが彼女のやる気に火をつけたみたいで」

「負けるものかってこと?」

「だと思います」


樋山さんはどんな目標でも持った方が、人は頑張れるものだと、手帳を広げ始めた。

うわぁ……たくさん予定が入っているんだ。

売れっ子なんですね、樋山さんって。


「来週にしようかな……」


私は高部さんの言葉にも動じることがない樋山さんの横顔を、つい見てしまう。

樋山さんは、過去に菅沢さんと結婚まで考えたことがある……と、

細木さんから聞いたっけ。

互いに独身で、縛られるものがない今、

そういう気持ちが復活することはないのだろうか。


「樋山さん」

「何?」

「樋山さんは、菅沢さんのことをどう思うんですか?」


言った後の空気の流れに、確かな失敗を感じ取る。

私、何言っているんだろう。

高部さんの話しに紛れて、とんでもないことを口にしてしまった気がする。

これって……

うわぁ……樋山さんがこっちを見た。


「飯島さんって、かわいい人ね」

「いえ……すみません、私、何聞いているんだか」

「ううん、いいのよ。飯島さんが私のことを気にする気持ちはよくわかるから」


いや、その……

気にならないと言えば、ウソですが……

おそらく、樋山さんが想像しているような、そんな『女の争い』的な意味ではなくて。




「好きよ、今も昔と変わらないくらい……」




言われると思っていたけれど、いざ言葉を聞いてしまうと、

あまりにもストレートで、どう反応していいのかわからない。

『好き』ってことは、昔と変わらないってことは……




菅沢さんのそばで、迷惑ばかりかけている私のこと、どう思うのだろう。




「ごめんなさいね、私、ウソつくの嫌だから」

「いえ……」


あぁ、もう。どうして渋滞なの。

早く編集部に着いて、細木さんとか及川さんとか秋田編集長が混じってくれないと、

息苦しくてたまらない。

窓でも開けて、空気を全て入れ替えたい。

いや、このまま扉を開けて、タクシーから出てしまいたい。

自分でこんなふうにしたくせに、全くもう!

和のバカ、バカ、大バカ者。


「でも、郁の心は今、別のところにある……それもわかっているから」


菅沢さんが今、何を考えているのか、樋山さんはわかっているの?

あの人ほど、心の中が見えにくい人、いないと思うんですけど。


『別のところにある』


それでも『好き』と言い切ってしまうなんて、強い。


「あ!」

「何ですか?」

「見て、見て、あのポスター。私が撮影したの」

「どこですか?」


大きな交差点に堂々と貼られたポスターは、有名化粧品メーカーのポスターだった。

樋山さんはその仕事で大変だった裏話をし始める。

菅沢さんの話から、どんどん離れていくのを感じながら、

私の呼吸は、少しずつ楽になった。



樋山さんって、とっても素敵な人だ。

菅沢さんが好きだった理由が、わかる気がする。



樋山さんの話と比例するように、渋滞は消えていく。

その話が終わりに近づいたとき、目の前に『BOOZ』編集部が見えた。





本日、小春日和とも言える、とっても素晴らしい日。

『花房麻里』の演奏会当日。





「おはようございます」


3月いっぱいまで10時出社を許してもらった私は、

今日もラッシュにならない電車に乗り、ご機嫌で編集部へ入った。

いつもの席に及川さんが座り、細木さんは受話器を片手に挨拶をしてくれて、

ラジオ体操を終了した編集長が、めずらしく進行表を追いかける。



菅沢さんは……



「細木さん、菅沢さんは……」

「あ、和ちゃん。郁は静岡に向かった」

「静岡?」

「撮影会の取材」

「撮影会? あれ? それって……」


PC前に座っていた及川さんが、急に立ち上がると、1枚の紙をこちらに見せてくれた。



『声が出なくなりました』



「声? 風邪ですか?」

「いや、医者が言うには使い過ぎだろうって」


使いすぎ? プロの歌手とか芸人さんなら『使い過ぎ』って言葉もしっくりくるけれど、

及川さんがそうなるなんて……


「カラオケでも歌ったんですか?」

「ここ何年も、ほとんど使っていなかったノドを取材で使ったからじゃないのか」




……は?




「はぁ……」


どうして誰も疑問に思わないんだろう。

『その分、紙面づくりを頑張ります』という、及川さんの宣言が書いてある用紙を見る。

静岡だもの、午前中に仕事が終われば十分間に合う。

そう心で思いながら、その日の仕事を開始した。





その日の午後、時計は2時になっている。

食事を終えた編集長が、いつも買っている雑誌を持ち戻ってきた。


「飯島さん今日だったな、『花房麻里』の演奏会。
今、喫茶店に行ったら、店長がそう言っていたからさ」

「はい……編集長にいただいたので、行ってきます」

「おぉ、しっかり聴いてきてくれ」


菅沢さんから何も連絡がないけれど、大丈夫かな。

新幹線止まったりしないだろうか。

仕事をしながら時計を気にしていると、時間が過ぎるのはあっという間だった。






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