125 あの夜のこと

125 あの夜のこと



『花房麻里』の演奏会が開かれたというニュースは、もちろん次の日、

スポーツ新聞の芸能面を大きく飾った。

花束を持って現れた日向淳平と、淡い黄色のドレスで受け取る花房麻里。


「素晴らしかったんですよ、演奏も。
私たちは店内席だから表情まではよく見えませんでしたけれど、
でも、なかなか出来ない経験でした」

「うらやましいわ和ちゃん。編集長さんに感謝しないとね」

「はい」


本当だ、本当だ。秋田編集長が、喫茶店に通い続けてくれたおかげで、

私がとってもいい思いをすることが出来た。

『ケ・セラ・セラ』

いいことは私に向かって、自ら飛んで来るのかも。





もちろん、その話題は、『BOOZ』編集部でも大いに盛り上がった。

細木さんには演奏会より、食事の中身を細かく聞かれ、

隠れ日向淳平のファンである及川さんには、彼のスーツ姿について、

説明してあげる。


「編集長、本当にありがとうございました」

「いやいや、たまには郁も優雅な場所に入って、
少し優しい雰囲気をかもし出してくれるといいけどねぇ……」

「食事がまずかったら、間違いなく途中で出ましたよ。
あのクラシックに体がかゆくて、かゆくて……」


いつもの菅沢さん節だけれど、そんなこと何も気にならない。

だって……



『こっちだけ見ていろ』



そう言ってくれましたよね、私に。

それって、ただの編集者仲間では片付けられない気持ちを、持ってくれていると、

この私を、『守ってあげたい』なんて思いが……


「飯島」

「はい」

「ホラー映画じゃないんだから、人の視界にじとっと入り込むな」

「は?」


ホラー映画って、菅沢さんのPC前が私の席なんです。

『じとっと入り込む』って、どういう言い方なんですか、それは。

『こっちを見ていろ』と言ってくれた人物と、同じだとは到底思えませんが。


「そうそう、昨日は久しぶりにお嬢様が編集部に来たって、増渕が言ってたよ。
うちの王子と招待客としてここに行ったらしいな」



そうだよね、あの二人の話題が、出てくるよね。

秋田編集長と増渕編集長、

休み時間になると、手をつないでいる女子高生みたいに仲がいいし。



「あ……お嬢様って、『映報』のお嬢さんのことですよね。
僕、妙な噂を聞きましたよ」



妙な噂?



「あのお嬢さん、年明けに救急車騒ぎを起こしたらしいですね」


細木さんから出た突然の情報。

年明けに救急車って、やはり具合が悪かったんだ。


「どうして救急車で運ばれたのかは知らないんですけどね」

「どうしてって、普通は急患だろ、具合が悪くなって……」

「それが3日の夜だったそうで、その10分くらい前まで
お嬢様は普通どおりに、招待客と接していたそうなんですよ」



……3日?



「阪井家で、長男が仕事の関係者と新年会を開いていたらしくて、
僕のよく行く宅配ピザ屋のお兄ちゃんが、ちょうどいたときだったって……
母親の叫び声が聞こえたりして、結構、慌てていたらしいですよ」



3日。

私と敬が、田ノ倉さんが、あの星空の見える場所にいたと、勘違いした日。



『僕は3日、どこにも出かけていません』



私が田ノ倉さんに問いかけたとき、確かにそう言っていた。

実玖さんのお兄さんが主催する『新年会』があったのなら、

田ノ倉さんが招待されていないわけがないはず。

だったらあの時、そう言ってくれたら、それでよかったのに……


「どうしてピザ屋のお兄ちゃんが、針平にそんな話をするんだよ」

「それがですね……」


細木さんは、『BOOZ』が風俗店からもらう、

色々なサービス券の束を目の前で振って見せた。

ピザ屋さんという職業柄、ちょっとした偶然で、

タレント同士の密会を知ることもあるらしい。


「まぁ、僕の刺客とでも、言いましょうか」

「うちは芸能雑誌じゃないし、ゴシップは必要ないだろうが」

「まぁまぁ……郁。そんなに堅いことをおっしゃらずに。
彼はねぇ、お得意先の店も多いから、結構あれこれ情報通なんだって。
ほら、前回に特集した『女戦国武将パブ』も彼から情報なんだ」


そこからの細木さん情報は、私にとってはどうでもいいことだった。

家族が大慌てになるような状態って、どんな状態だったのだろう。


「まぁ、お嬢さんが元気になったのなら、よかったですけどね」


そうだ。

私があれこれ詮索することじゃない。

昨日見かけた実玖さんは、お気に入りのドレスに身を包み、表情も笑顔だった。

もう過ぎてしまったことなのだから。


「飯島、園田先生のところに、『水蘭』のフィギュア届けるぞ」

「はい」


私には、私のやるべきことがある。

玩具メーカーから届いた『フィギュア』を10箱、菅沢さんと一緒に車へ乗せる。

そして園田先生のオフィスに向かって、出発した。





特に何があるわけではないのに、園田先生のところへ行くのは、

いつも楽しみなんだよね。

新しい情報ももらえるし、美味しいものもいつも置いてあるし。



今日は……なんだろう。和菓子? それとも洋菓子?



特に渋滞があるわけではなく、

園田先生のオフィスまではそれほど時間がかからなかった。


「こんにちは……」


軽く扉を叩いて、いつものようにドアを開ける。


「ちょっと諒、冗談じゃないわよ、約束が違うじゃない」


飛び込んできたのは、私たちより先に来ていた田ノ倉さんに怒る園田先生で。

中に入ろうとした私と菅沢さんんの歩みを、完全に止める。




「『映報』に強く出られないのは、あの娘の自殺未遂騒ぎのせい?」




自殺未遂?

思わず話を聞いてしまった自分が、どこにいていいのかわからないまま、

黙って立つ事しか出来ずにいた。






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コメント

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未遂ね~

ほっほ~~3日に自殺未遂(--)

それは来るはずの諒が来なくて、
どうやら星の綺麗な場所“和”がいるであろう
処に出かけた事を知っての嫌がらせか?
と勘ぐる私(^^;)

実玖さん・・・チッ

明らかに

yonyonさん、こんばんは

>ほっほ~~3日に自殺未遂(--)

何かがあったのだろうとは、みなさん思っていたでしょうが、
やはり何かがあったようです。
思わぬところからの情報で、
3人の空気がどう動くのか……で、続きます。

No title

初めてコメントします。
でも、ももんたさんの小説全部読破してます!
続きが楽しみです♪

ありがとうございます

ぬーささん、初めまして。
コメント、ありがとうございます。

>でも、ももんたさんの小説全部読破してます!

本当ですか?
数ばかりあって、申し訳ないですが、
楽しんでいただけているのなら、それだけで嬉しいです。
なるべく色々な雰囲気のものをと思ってはいるのですが、
書くばかりで、進歩がありません。

でも、これからもしつこいくらいに頑張ります。
どうか、おつきあいしてやってください。

続き、今日も出しました。
見てやって下さいませ。