129 信長の秘策

129 信長の秘策



『秋月出版社』が、『映報』とタッグを組み、映像と出版の提携を勧めている中、

その突破口となるべき『ビジュアル制作部 準備室』へ、

私が異動するという発表があった。

田ノ倉さんが過去を思い出し、それを隠していたことを知った今、

一緒に仕事をするなんて、冷静に出来るだろうか。


「今、私が『準備室』へ行くのは……」


私だけではなくて、田ノ倉さんだって嫌だと思うはずだし。

『映報』の仕事ともなれば、実玖さんだって顔を出すに違いない。


どういう出来事があったのか、全てわかってしまったので、

私、あの人に向かって、『グーパンチ』くらい、出そうな気がしますし。


心の整理整頓も、全くついていません。

こんな状態で、冷静に仕事が出来るとは……


「そこに諒がいるからか?」

「違うとは言いません」


そんなこと説明しなくたって、わかるじゃないですか。

園田先生のところでお会いしてから、本社には顔を出せていませんし。


「飯島も複雑だろうけどさ、でも、俺も園田先生のところから出た後、
色々考えたんだ」


田ノ倉さんが、過去を全て思い出していたという事実を聞いた後、

私たちは先に、先生のアトリエを出た。


「やっぱり、戻るべきだったなって。
追い込まれた諒の言い分を、ただ受け入れるなんてお前らしくないだろ」


追い込まれた……

確かにそうかもしれない。何もかも自分の責任だって、田ノ倉さんは背負い込んでいる。


「諒は1月3日、何をしていたのか正直に話した。
それを飯島がどう取るのかは、もちろんお前の自由だけれど、
記憶を混乱させたことや、あのお嬢さんに十分な説明が出来なかった気持ちが、
お前に言い訳をする邪魔をしていたわけだし。
このまま互いに気持ちもぶつけずに避け続けるのは、
逃げているようにしか思えないんだ」


確かに、真実を話せと迫ったのは、私たちだけれど。

あの場で、返事をしろって言われても、まさかの出来事だったし。


「『準備室』で仕事をすることが、その答えにつながる気がする」


田ノ倉さんと一緒に、仕事をすることで出てくる答え。


「互いに良い子になるなって、きちんとぶつけてこい」

「菅沢さん……」


ぶつけろ、ぶつけろって、どうすれば……

ドッジボールじゃないんです。


「今、あいつを救い出さないと、俺もお前も絶対に後から後悔する。
昔の諒を取り戻せるチャンスだと思うんだ。
だから『準備室』で勝負して、『BOOZ』へ戻って来い。
きっと、編集者としてもまた、別の面が生まれてくるから」



『このまま』



そう言ってしまいたいのは山々だけれど、心のどこかで違うと叫ぶ自分がいる。

きっと菅沢さんには、心が今、どんな状況にあるのかまで、

このゴチャゴチャぶりもしっかりと見抜かれているんだろうな。


「『BOOZ』へ戻る自信がないのか?」


田ノ倉さんのいるところで仕事をして、『BOOZ』へ戻って来いという意味。

それは……



どちらを選ぶのか……という意味でしょうか。

いや、細かい部分までどうのこうのと聞くのはやめた。



『ケ・セラ・セラ』



自分自身に問いかけながら、前へ進んでみよう。

きちんと向き合って、それで出た答えが、本物の答え……


「いえ、そんなことはありません。私の場所は『BOOZ』ですから。
わかりました、逃げずに戦ってきます」


私は、目の前の菅沢さんにそう答えると、カフェオレに口をつけた。

菅沢さんの気持ちに応えるには……

そして、迷いの中から田ノ倉さんを救うには、私が頑張るしかない。





……きっとピンチになったら、またどこからか現れてくる





って、気がするんですけど。





「そうか、和ちゃん、『準備室』に異動なんだ」

「はい、とりあえず頑張ってきます。『映報』にいいようにされないように、
戦ってきますからね」

「そうだね、和ちゃんなら頑張れるよ、元気もあるし、声も大きいし……
女の子にしては、結構食欲もあるしさ」


食欲があるようになったのは、

細木さんが隣でおいしそうなにおいばかりさせるからです。

私、体重が増えないように、ここのところ毎日、

家の前の坂駅までダッシュなんですから。



「討ち死にしないでくださいね」



及川さん、こういう時は、励ましになるような言葉をかけるのが普通ですよ。

ほら、一瞬で編集部が凍りつくじゃないですか。


「そうですね、頑張ります……」

「あ、そうです、僕から飯島さんにいい情報があります。ぜひこれを」

「情報? 何かあるんですか」

「一緒に仕事をするので、知っておいたほうがいいと思いますよ」


一緒に仕事? だとしたら新メンバーの秘密とか?

なんだろう、『秘密』って言葉、好きなんですけど、私。




わくわく……




私は、及川さんがくれたとっておきの情報が入った封筒を片手に、

『BOOZ』から、『ビジュアル制作部 準備室』へ異動となった。





「今回は、『秋月出版社』と『映報』が業務提携をしていくというために、
トライ期間を設け、仕事の内容を検討していく準備室が作られました。
『映報』から社員が4名、そして『秋月出版社』から同じく4名。
映像の部門から、そして印刷の部門から互いに堂々と意見を交わして、
いい部署作りをしていきましょう……」


この人が芦川さんか……

昔は社長と一緒に、いい仕事をしていたって秋田編集長が言っていたけど。

よし、とっておき封筒、開けてみようじゃないの。



『芦川さんは、笑い声が『ウホウホ』って聞こえるんですよ。
だから影で『アシカ』と呼ばれています』




は?




わざわざ封筒にまで入れてくれるから、何か大きな秘密でもあるのかと思えば……

ウホウホってアシカだっけ? そんな鳴き方をするのはオットセイじゃないの?


「それにしても、みなさんいいお顔の人が多い……ウホウホ」


まずい……笑いたくもないのに、笑ってしまう。

あぁ、もう、こんな封筒見なければよかった。

及川さん、人と話すのは苦手なのに、観察力だけは数倍鋭いんだから。


「これからが楽しみだね……ウホウホ」



……お願い、笑わないで。私、耐えられなくなります。



それにしても、日当たりがいい場所のはずなのに、

どうもじめっとしているのは、どういうことなんだろう。



「あの、芦川部長、ここに配属になったことが納得できません」



私の隣でそう叫んだ東原さんが、崩れかけた表情筋を元に戻してくれた。






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コメント

非公開コメント

天然なんです

拍手コメントさん、こんばんは

>及川さんおもしろすぎる。

おもしろくしているつもりは、信長にはないはずなんですけどね。
でも、おもしろくなる人って、実際の世の中にもいそうな気がします。

『BOOZ』メンバーへ、最後までご声援よろしくお願いします。