131 タマゴの仕事

131 タマゴの仕事



あの通りにお金を使ってしまったら、先生方に配る分なんてないじゃないの。

これはなんとしても……


「あれ? 和ちゃん。どうしたの? 今戻らなかった? もしかしてクビ?」

「いえ、クビではありません」

「じゃぁ、何? お腹でも空いた? ほら、今コンビニで買って来たんだよ、
お菓子持っていく?」


細木さん。

自分の基準で全ての人の悩みを解決しようとするのはやめましょうね。


「いえ、お腹も空いていませんので、お菓子もいりません。
隣にいる東原さんに何を言われるかわからないですから」


目の前の菅沢さんが、複雑な表情で私を見た。

だから、頑張っていますよ、ご期待に応えるために。

遊びに来たわけではありません。


「あのですね……レポ隊のみなさんの連絡帳を見せていただきたくて戻ってきました。
どこでしたっけ」

「レポ隊? あぁ、あの素人レポの?」

「はい、『どんどん亭』の堺さんに、用事があって」


私は、いいことを思いついたのです。

クリスマス会を開いたとき、そう、堺さんに彼女が出来た話を聞き、

その彼女が確か、『声優のタマゴ』だと言っていたではないですか。

『準備室』に置いてあった企画書を軽く見せ、私は自らのアイデアを得意げに語る。

ねぇ、菅沢さん、私、やる気を出しているでしょ。


「飯島」

「はい」

「お前、落ち着いて考えてみろ」

「落ち着いて? 何をですか」


PCから顔をあげた菅沢さんは、あの写真のかわいい彼女が、

年を明け、そろそろ春になる今の今まで、堺さんと付き合っている可能性は、

ものすごく低いのではと言い出した。

確かに、あの写真の女性は、女優さんにでもなれそうな顔だった。


「彼の傷口を広げることにならないか?」

「傷口……ですか」

「あぁ……」


そう言われちゃうと……レポを取りに行ったとき、

出来ていないと慌てて逃げ出そうとした、情けない堺さんの顔が浮かんできた。

また、あんな顔をさせるのは、ちょっとね……

でも……


「いえ、でも、ゼロでない限り、聞いてみます」


ごめんなさい、堺さん。

忘れてしまいたいことを思い出すのかもしれませんが、ここは『準備室』のために、

少しだけ勇気を出して……





『あ、いいですよ、飯島さんが会いたいのなら、すぐにでも連絡します』





勝手な心配をよそに、堺さんのお付き合いは、順調だった。

もしかしたら来年あたり結婚するかもしれないと、さらに嬉しい話まで飛び込んでくる。


「順調なんだ、へぇ……」

「はい、堺さんの人柄ですね、
あさって、『どんどん亭』の前にある喫茶店で会ってくれるそうです」

「行ってみたら、抱き枕人形ってことはないだろうな」

「菅沢さん!」

「いや、ニューハーフとか?」

「細木さん!」





……バーチャルってことは、ないよね。





こらこら、私。





東原さんには戻ってこなくていいと言われたけれど、そういうわけにもいかないので、

『準備室』へ戻ってみると、人が2人増えていた。

それはもちろん『映報』の社員たち。

なんだろう、二人とも同じようなスーツで、同じような髪型で、

どこかのSPみたい。ちょっと近付きにくい。


「あら、飯島さん。もう戻ってこないものかと思っていましたけど」

「すみませんね、色々とやりたいことがありますので」

「適当なことをしないでくださいね、会社の新しい取り組みなんですから」


東原! あなたに言われる筋合いは、150%以上もない!

全く、どこまでも嫌味な女。


「飯島さん、デスクに置いた計画書の方は、ご覧になっていただけましたか」


『BOOZ』から戻った私にそう言ったのは、

ここへ配属となった『映報』4人組の一人、品川さん。


「はい、時間があまりなかったので、ペラペラっとめくっただけですが」

「結構ですよ、もう決定事項ですから、そうなのか……と思っていただけたら」

「決定事項?」

「はい……今回のプロジェクトは、
『タップ企画』に全てお願いしようと思っています。
あれこれ細かいことを考えるのも面倒でしょう、プロに任せてしまえば簡単です」


『タップ企画』は、業界最大手のプロダクションで、

確かに売れっ子の声優も、多く抱えている。


「どうして『タップ企画』なんですか?
失礼ですけれど、制作費の中で、声優さんへのギャラが、
ものすごく大きいウエイトを占めているような気がしたんですけれど」


おかしいって、おかしいでしょうに。

これって、園田先生たちのような、元々の権利を持つ人たちが、

一番いい思いをしなければいけないんじゃないの?

作品の一つ一つに、ペンで命を吹き込んだのは、漫画家さんたちなんだから。

私だって、夢尾花先生や、園田先生くらいしか見たことないけれど、

描いているのは、とっても真剣で、大変なんですよ。


「過去の倉庫から、引っ張り出して、商売にしてやっているのはこちらでしょう」




してやっている?

それって、どういう意味なのよ。




「あの品川さん、してやっているって表現は、作家の方にちょっと失礼じゃないですか」

「上野君、『秋月出版社』の飯島さんに、説明してあげてくれないか。
このお嬢さんは、なんだか血の気の多そうな人だから」


鼻で笑ったでしょ、今、ねぇ、笑いましたよね、絶対に。

それに血の気? 失礼な。

私は血圧も正常ですし、出血多量で入院したこともございません。


「いえ、品川さん、その話なら僕よりも目黒の方が……」


品川に上野に目黒?


「そうか目黒か。確かにあいつの方が詳しいな。あいつはどうしたんだ」

「すいません、まだ大塚と食事に行って戻っていません」


品川、上野、目黒に大塚……どこかで聞いたことのある名前ばかりだと思ったら。

あんたたち、『山手線』のように、グルグルさせて、話をはぐらかす気だな!




「品川さん、お約束をしたはずです」




その声は、田ノ倉さん……




「全ての可能性を探ること。それだけは守っていただきます」

「田ノ倉さん……あなたまでそんなことを言うんですか?
せっかくここまでまとまりかけていたものを。あとは園田先生だけなんですよ、
条件にサインをしていないのは。その方法だけを考えてくれたらOKじゃないですか」


『映報』側の出した条件に、みなさんサインしているの?

だって、これって……


「漫画家も厳しい世の中ですからね。倉庫から引っ張り出した過去作品を、
少しでもお金に変えられるのならと、すぐにサインしてくれました。
園田先生も、意地を張らずに現実を見ていただかないと、
あまりにこじれるようなら、リストから外したって言いわけですし……ねぇ」


リストから外す?

田ノ倉さん、この人たちに言われっぱなしでいいんですか。

漫画家さんたちの権利を守らないと。

ねぇ、田ノ倉さん!


下を向いたままの田ノ倉さん。

向こうの言い分に納得してしまったの?



『『準備室』で勝負して、それで『BOOZ』へ戻って来い』



菅沢さん、あなたがそう言ったんですからね。

どうなったって知らないですよ。私、やりますから!


「品川さん、私に考えがありますので……」


『映報』が送り込んだ『山手線カルテット』を前に、

私は決定事項だといわれた計画書を、ビリビリに破り捨てた。






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