132 打倒カルテット

132 打倒カルテット



品川さんの前で、堂々と破り捨てた紙は、

クシャクシャになりながらも、とりあえずまとめられ、

『BOOZ』編集部のデスク上に、こじんまりと乗っている。




そう、『BOOZ』のデスクなの。




「……で、どうしてまた、ここにいるんだよ」

「勢いよく破ったまではよかったんです。でも、実際、それでいいのか心配になって」

「破ったのはお前だろうが」

「うわっ、人の責任にするんですか? 破ってもいいって言ったのは、菅沢さんです!
いや、違った。戦えと言ったのは、菅沢さんです」


だって、あのままでは、園田先生がかわいそうだ。

園田先生は、条件をケチってサインをしないわけじゃない。

田ノ倉さんが自信を持ってやっている仕事なら、絶対にサインをしてくれる。

そうじゃないから、だから出来ないのに。あの『山手線カルテット』め。


「確かにこの声優のギャラは、破格だね」

「そうですか……」

「元々、業界との結びつきもあるから、丸投げしてしまった方が楽なんだろ、『映報』は。
それに、過去作だから、爆発的にヒットするとは思っていないし」


こういうところの細木さん分析って、間違いないんだよね。

『BOOZ』でも全体的なところを見るのは菅沢さんだけれど、

一つずつの細かさなら、細木さんの方が上かもしれない。


「ようするに、『映報』の狙いは、今回の仕事ではないようですね。
『秋月出版社』の作品を映像化する権利、これを独占することの方が重要なのでしょう」


及川さんの言うとおり、『山手線カルテット』の代表者品川さんも、

この仕事自体に、特に真剣だという素振りは見えなかった。


「それで、飯島の考えは、堺さんの彼女から声優のタマゴを紹介してもらって、
制作費を抑えよう……って作戦か」

「はい」

「今、漫画の世界は広がっているからね。デジタル方面でも」

「制作費を抑えることだけが目的ではないんですよ。
作品あっての映像化じゃないですか。
今の『映報』のやり方では、作品の価値なんて置き去りになっています」


『BOOZ』のために、園田先生が書いてくれた『水蘭』。

あれは、先生が主人公の水沼蘭に、人の心をしっかりと植えつけてくれたから、

だからこうしてフィギュアになったり、どんどん成長していっている。


「それで、諒はどうしている」

「田ノ倉さんは……」


田ノ倉さんもきっと、このままではいけないことはわかっているんだ。

でも……動くものの大きさもわかっているし、崩せないことだともわかっているから、

だから強く出られない。



『責任』の2文字が、重くのしかかっていて……



「可能性は探るようにと、そう後押しはしてくれたんですけど」

「そうか……」


菅沢さんから出たのは、その一言だけだった。


今は、少し沈みかけている王子様だけれど、きっと気付いてくれるはず。

あなたがまた自信を取り戻す日を、みんなが待っていること。





『山手線カルテット』の冷たい視線を浴びながらも、私は『どんどん亭』の前で、

声優のタマゴである『砂川里奈』さんと初めてお会いした。


「はじめまして、砂川里奈です」

「飯島和です」


里奈さんの声、本当にかわいい。

目指すところは声優だけれど、それだけで食べていくのは大変だと、

今はメイド喫茶でも、アルバイトをしているという。


「そういう話なら、学校に協力を依頼したらどうでしょうか」

「学校?」

「はい、製作者になろうとデザインの勉強をしているものから、
私のように声優を目指す学生まで、全国的にいくつかの学校があります」


里奈さんの話から、声優として学生を多く使うことが出来たら、

制作費を圧迫するギャラを、少し抑えられるのではないかと提案があった。

『BOOZ』が素人レポ隊を使うように、学生を声優として使うアイデアか……


「みんな色々なオーデションを受けるのに、大変なんです。
こういう機会があれば、自分が出演した作品として、就職にも生かせますし……」


マスコミにも知られた売れっ子を使うことよりも、メリットがあれば、

きっと『映報』も首を縦に振ってくれるだろう。





「これを調べてきたのですか」

「はい」

「おぉ……ミス飯島。学生たちを使うとは、おもしろいことを考えましたね」


アシカ部長は確かにおもしろいアイデアだと、小さく頷いてくれたが、

目の前の『山手線カルテット』は、いかにも迷惑だという顔をして、

私が出した提案を無効にしようとする。


それにしても、4人が4人とも同じようなスーツにめがね。

無性に腹がたつんですけど。


「検討するだけはしてみましょうよ。そのための準備室じゃないですか」

「しかし……」


しかし? しかしって何よ。


「ミスター品川。どうして意見を受け入れないのですか?
みんなで盛り上げていくこと、それが準備室のルールです」


そうだ、そうだアシカ部長。もっと強く言ってやって!


「いや……しかし……」


またしかし? だからその続きを言ってみなさいよ。


「『タップ企画』と、すでに仮の約束を交わしたからですか。
立場上面倒だとか、そんなことなら納得いきません」

「おぉ、ミス飯島、その通りです。男性の意見にも屈しないその姿。
私には今、あなたがジャンヌダルクのように見える……」



ちょっと、アシカ部長、余計なことを言わないでよ。

論点がぶれちゃうじゃないですか。



「飯島さん、あなた何もわかっていないんですね。
先日出した計画書の内容までは、すでに副社長と田ノ倉さんとの間で、
話し合いも済ませているんですよ。
だから、田ノ倉さんが園田先生を説得に向かったのでしょう。
今さらこんなことをひっくり返すような態度を取るなら、
『秋月出版社』との提携でさえ、話が合わなくなりますよ」


しかししか言わなかった品川さんの態度が、一変した。

そこまで元気だったアシカ部長も、『副社長』の名前に、急にトーンが下がってしまう。


「この準備室では、どうやって売り上げを伸ばすのか、それを考えていけばいいんです。
制作の中身まで、どうのこうの言える権限なんて、ないんだからさ」


品川さんは、アシカ部長のデスク裏にあった過去作品の単行本を手に取り、

軽くペラペラとめくりだした。

その中には、私が学生時代に、発売を心待ちにした作品も入っている。


「……ったく、こんなボロみたいな作品、
今から金にしてやるだけ感謝しろって言うんだ」





ボロ?

なんてことを!





怒りに満ちた私の後ろで、人影が動く。





きた! 菅沢さん、やっぱり来てくれたんですね!


「いい加減にしてください」


……と思って振り返ると、そこに立っていたのは実玖さんだった。






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コメント

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No title

こんにちは。
戦う和に、ガンバレと声援を送っています。
それにしても、色々なエピソードが浮かぶのですね。
すごいです。

No title

清風明月さん、こんばんは

>戦う和に、ガンバレと声援を送っています。

ありがとうございます。
編集者として、色々経験した和、
自分を取り戻せない諒や、お世話になった作家達のために、
奮闘しています。

エピソードは……まぁ、色々です(笑)