133 心が通う日

133 心が通う日



「いい加減にしてください」


『映報』のお嬢様である実玖さんでも、今の言い方には腹が立つでしょう。

漫画をボロだなんて、なんてことを言うのやら。

あなたの会社の『山手線カルテット』。





「飯島さん、あなたがどうしてここにいるんですか……」





あれ? また、そこなの?





「どうしてって、私は編集長から言われて、この準備室に関わるようになりました。
私がここに配属されることは、何か問題でもあるのでしょうか」


田ノ倉さんが関わっているから、私が来たら困るとでも、言うのだろうか。

自分勝手な行動をして、がんじがらめにしているくせに。

どれだけ田ノ倉さんが追い込まれているのかわかっているの?

よぉし、ここであれこれ言うのなら、一気に『グーパンチだ』。


「問題があると言うより、こちらがお願いした仕事を、
やっていただける方には思えなかったので……」

「お願いした仕事?」

「『秋月出版社』には、漫画家さんたちとの交渉を主にしていただくようにと、
業務提携の契約時に、そう決めています」



『大量に睡眠薬を飲んで……』



実玖さんが、あれこれ契約内容を話しているようだけれど、

私の頭の中にはそんなもの、全く入っていかない。

それよりも、田ノ倉さんから聞いた1月3日の話がグルグル回った。



田ノ倉さんが私のことを思い出すまででいい……

実玖さん、あなたはそう言ったのに。

契約? 約束なんて守りもしないのは、あなたじゃないですか。

あったりまえのように言われると、イラついてくる。



「私が、実玖さんとの約束を守らないとならない立場でしょうか」

「……飯島さん」

「約束を守れなんて言葉を、あなたに言って欲しくはありません」



田ノ倉さんから優しい笑顔を奪ったくせに。

絶対に私は、許さないから。

『山手線カルテット』、よく見ていなさい。

私はあなたの会社のお嬢さんなんて、全然怖くないんですから。



「ノンノン……ミス飯島。約束は守るべきですよ、違反はいけません」



アシカ部長、あなたは何も知らないんですから、黙っていてください。

この人はズルイ人なんです。


「私の方から、もう一度人選をしていただくように、お話しますので……」

「実玖さん……」





「あんたさぁ……いい加減にしろよ」





遅い! 菅沢さん遅すぎる! もう、やっと来た!

私結構、ガンガン言われまくったんですけど。

その数倍くらい言い返して、『グーパンチ』を見舞ってやってください。


「『映報』の人間に、『秋月出版社』の人事まで口を出されたら問題だろうが。
自作自演みたいなことをして、諒の気持ちをコントロールしたような気分だろうが、
会社は組織だ、余計な口出しはしないでくれ」


そうだ、そうだ、組織だ!

いいぞ、菅沢、もっと行け! パンチだってば、グーパンチ!


「それなら伺います。今、ここにいるメンバーの方々は、ここに飯島さんがいて、
決定事項をこうしてかき回すことに、納得がいっているんでしょうか。
彼女が一人で仕事をするのではないんですよ。みなさんフォロー出来るのですか?」


実玖さんは、品川さんをはじめとした『山手線カルテット』に向かって、視線を向けた。

4人組は揃って下を向き、不満そうな顔をする。

『ジャングルジム』の中野さんも、もう一人の平泉さんも、

まだ知り合って日も浅いから、私が決定事項に対し、

ただ騒いでいるようにしか思えないんだろうな。



それに……もう一人は東原さんだし……

どうしようもないかぁ……



「仕事は組織で行うもの、それは私もわかっています。
ほら、みなさんの答えは出ているじゃないですか。だから……」





「私は、飯島さんの考えが正しいと思います」





ウソ!

どうしたの? ミス東原。





「東原さん……あなた……」

「実玖さん、『SLOW』の件では、色々とお世話になりました。
今回の映画化は『映報』の力がなければ、実現できなかったとそう思っています。
これによってまた、新たなる作品を送り出していこうと、
チーフをはじめとしたメンバーで、話し合いも行いました」

「そうよね……そうでしょ」

「でも、私たち編集部員にとっては、お金の動く作品も、
そうではなくて雑誌の隅に載る作品も、みんな価値は同じです。
先生方の担当になり、何度も打ち合わせをして、一つのものを作り上げて来ました。
主人公が泣けば哀しくなり、笑ってくれたら一緒に喜んで……」


東原さんは、デスクから前に進み、品川さんがめくった本を取り返した。


「思いの詰まった作品を、ボロだなんて呼ばれたらたまりませんし、
映像化するためだけにお金を使われて、
それを生み出した先生方が損をするようなものなら、
私も……間違っていると思うからです」


東原さんは、私が発表したように、『タップ企画』への丸投げではなく、

もう少し検討する必要があるのではと付け加え、腰を下ろした。

それでも、人数は……


「ブラボー! ブラボーですよ、みなさん。そう、そうなんです、
これが私の願っていた舞台なんですよ、みなさん!
激しい戦いがあっても、また手を取り合って前へ進んでいける。
これこそが、求めていたものなのです!
さぁ、今こそ手と手を取り合い、前へ進むのです」


アシカ部長はそういうと、右手を斜め前に出し、

さらに自ら拍手をし、準備室の中を堂々と行進し始めた。

ミュージカルのカーテンコールじゃないんですけど。

この人、本当に仕事出来るのかなぁ……


「実玖さん……今回のこの準備室には、あなたも俺も部外者だ。
余計なことは言わずに、立ち去った方がいいんじゃないの?」


菅沢さんの一言に、実玖さんは両手を握り締めたまま、

アシカ部長の行進を見ることなく、準備室から出て行った。

品川さんをはじめとした『山手線カルテット』は、

何か危険でも察知したのか、慌てて実玖さんを追いかけていく。


「東原さん」

「なんですか」

「ありがとうございました」


本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

まさか、あなたにかばってもらえるとは、ほんのひとかけらも思っていなかったので。


「勘違いしないでくださいね、私は、作家さんの権利を守ろうと思っただけで、
飯島さんをかばったわけではないですから」


……とかなんとか言ってくれちゃって。

恥ずかしいのか、こっちを見ないじゃないですか。

いつもなら、文句を言って、舌でも出すところですよね。


「はいはい……それでいいです」

「はいはいじゃありません! 本当はすごく迷惑なんです」

「はいはい……」

「また!」


何かがまとまったわけではないけれど、また新しい風が吹き込むようで、

私はとっても気分よく、その日の空を見上げることが出来た。


「さぁ、ミス飯島、ミス東原、歌いましょう!」



……いえ、歌いません!






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コメント

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援護射撃

アシカ部長のウホウホには爆笑しちゃいました^0^
しかし、この方も個性豊かだね~^^;

和ちゃん奮闘してますね、陰から応援してるわ^m^
しかし、東原さんの意外な援護射撃
編集者として、本に対する思いは一緒だね
この二人のこれからの関係も楽しみです^^

個性というか(笑)

yokanさん、こんばんは

>アシカ部長のウホウホには爆笑しちゃいました^0^
 しかし、この方も個性豊かだね~^^;

個性豊かでしょ。
これくらいの人がいても、話は成り立つのが、
この『ケ・セラ・セラ』の楽しいところです。

いつもぶつかってばかりの東原と和ですが、
初めて意見が合いました。
和の編集者としての進歩も、
楽しんで欲しいと思います。