134 あなたの味方

134 あなたの味方



ここのところの準備室、お日様が入って気持ちいい。

でも、今日は本当に春らしい暖かい日。こんな日はやっぱり……



「屋上に限る!」



誰もいない屋上で、大好きなカフェオレとベジタブルサンドを食べよう。

これから協力してくれそうな学校を、ピックアップしながら。


『声優のタマゴ』たちが、きっとチャンスを狙ってくれるに違いない。

それにしても、本当にぽかぽか天気。

秋田編集長も、狭い『BOOZ』ではなくて、こでラジオ体操すればいいのに。



屋上への扉が開く音……



入ってきたのは、田ノ倉さんだった。





「田ノ倉さん、ここどうぞ」


私から声をかけた。

きっと、入りづらいんじゃないかとそう思うし。


「ありがとう」


田ノ倉さんも同じ『ベジタブルサンド』とコーヒーのカップをテーブルに置く。

そう、私が『ベジタブルサンド』を好きになったのは、

田ノ倉さんが好きだったから。


「いい天気ですね、すっかり春がきてくれた気がしますし」

「そうですね」


飲み物は、私とは違って、ブラックのようだけど。

どうしよう、何を話すべき?


「学生たちに声優を頼むという話、芦川部長から聞きました」

「あ……はい。まだ、具体的にはこれから探してお願いするつもりなのですが、
とりあえず検討だけでもしてもらおうと……」

「僕の力不足で、こんな状況になっていることが、本当に申し訳なく思えます」


そうか……企画の揉め事、田ノ倉さんもわかっているし。

確かに、田ノ倉さんがもう少し強く出てくれたら、

あれだけ『映報』が失礼な態度に出ることもなかったかもね。

実玖さんとのいざこざが、田ノ倉さんの判断力まで鈍らせているんだもの。


「そんなことを謝らないでください。田ノ倉さんが優しいことを、
みんなが利用しているんです……って、菅沢さんが」

「……郁が?」

「はい」


田ノ倉さんは、軽く微笑んでくれたけれど、その言葉を否定も肯定もしなかった。

少し……痩せましたよね、横顔が……


「いや、僕が悪いんです。積み重なる出来事に、冷静な判断が出来ていなくて。
切り分けて考えなければと思いながらも、また繰り返されるのが怖いのかもしれません」

「怖い……」

「いや、自分を強く主張して、一人にされることが嫌なのかもしれません」


確かに、誰かの意見に従っていれば、周りとは上手くやれるだろう。

自分を前面に押し出せば、反発されることだってたくさんある。

『秋月出版社の王子様』と呼ばれて、

回りからはちやほやされているように見えるけれど、

そういえば、昔話でも王子様って、孤独な感じがするもんね。



「郁のようになりたいと、思ってはみたのですが……」



菅沢さんのように? そういえば、昔もそんなことを言っていた。

田ノ倉さん、また下を向いてしまって……



「あいつのようには、出来ませんでした」



あの事故がなければ、私たちの今は、違っていただろうか。

あの事故が、あなたの全てを奪ってしまったとは、思いたくありません。

私に見せてくれたような、眩しい笑顔が、あなたに戻る日。



「田ノ倉さん、私、今日はこれから、企画に協力してくれる学校がないか、
調べてみようと思います。私だけの意見で進めるわけにはいきませんから、
最終的にどうなるのかはわからないですけれど、やることだけはやらないと、
園田先生たちに申し訳ないので」


初めて、この場所であなたを見たとき、私の心臓は止まりそうでした。

本当にこんな素敵な人が、この世にいるのだと、不思議に思ったくらいです。

それは今でも変わっていません。

こうして会話をしているだけで、鼓動が速くなるんです。


「もし、田ノ倉さんがこの話に賛同してもらえるのなら、
園田先生たちに、声優がプロだけでなくてもいいのかどうか、
聞いてみていただけませんか?」

「僕が……ですか」

「はい、園田先生も京塚先生も、田ノ倉さんを本当に信頼しています。
だから……」


あなたは怖がりなどではありません。

まっすぐで、強くて、そして底が見えないくらい優しい人なのです。


「田ノ倉さん、私は、この企画を『MOONグランプリ』のように、
若い学生たちが夢を実現するための一歩に出来たらいいと、そう思っているんです」



そんなあなたが、もう一度、心から笑ってくれる日が来るのなら……



「アシカ部長、あ、いえいえ、芦川部長もおっしゃっていますよね、
色々と意見を戦わせてこそ、いいものが出来るって……」


えっと、言っていたっけ? そんな素晴らしいこと。

いつも歌ったり、行進したりしているイメージしか……


「そうですね、確かに」



……あ、言っていたんだ。

まぁ、田ノ倉さんが認めてくれるのなら、それでいいです。


「だから、思い切りぶつかってみましょう」



その時、私もまた、一歩前へ進める気がします。



「……はい」


企画のことを熱く語ってみたけれど、

その後は、何をどう語り続けていいのかわからずに、カフェオレだけが減っていく。

そろそろ席を立って、準備室に戻らないとならないけれど。


「飯島さん」

「はい」

「あなたにウソをつく結果になってしまって、申し訳ありませんでした。
3日に、会いに行ったことを正直に告げるべきだと思いましたが、
実玖のことがあり、身動きが取れない状態の中では伝えるべきではないと、
そう……」


田ノ倉さんは座ったままだけれど、しっかりと頭を下げてくれた。

1月3日の夜、あんなことがなければ……

たらとれば……言っても仕方のないことだけれど。


「でも、あなたと見たあの星空は、あの日と同じように綺麗でした」


『ケ・セラ・セラ』が流れる中で、一緒に見上げた星空。

たくさんの星は、私たちを見守ってくれるのだと、そう笑いあった日。


「僕は……」


『僕は……』の後の言葉、どこに向かうのだろう。


「……いえ」


言いかけたことを止めた田ノ倉さんの目。

出て行こうとした言葉を止めたのは、私ではない。

カフェオレはもう少し残っていたけれど、ここは……


「田ノ倉さん、絶対に『秋月出版社』にとって、
いい仕事が出来たというようにしましょう。先生方に納得していただけるような、
素敵な仕事に……」


田ノ倉さん、もう謝ったりしないでください。

人は必ず、選択しなければならない時があるのです。


「私、頑張りますから」


悲しい顔をしながら、明日の朝を迎えないでください。

あなたは『王子様』なのです、自信を持って……


「人生は『ケ・セラ・セラ』です。なるようになると開き直れば、
きっと、運命は導いてくれますから」

「『ケ・セラ・セラ』」

「はい」


飲みかけのカフェオレを手に持って、私は席を立った。

出来る限りのことをしてみよう。たとえそれが形として成り立たなくても。

精一杯やったこと、それが伝わればきっと変わってくる。


階段を降り、『準備室』へ戻ろうとした足は、そこで歩みを止めずに、

そのまま本社を出ると『BOOZ』へ向かった。






気持ちが前向きならば、神様は必ず微笑むよね!
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